本年8月21日、

ブログ記事「北方領土問題は着実に進展しています。ただしロシアの都合に合わせて」で、

5月の安倍・プーチン会談が

北方領土問題についてはロシア側のやらずぶったくりに終わった

ことを指摘しました。

 

向こうは択捉島への航空戦力配備を始めましたし

サハリンから色丹島にいたる光ファイバー回線海底敷設は

中国企業・ファーウェイが請け負うことになった。

他方、共同経済活動に向けて

日本の調査団が択捉島入りしようとしたところ、

ロシア側はこれを拒否しています。

 

続いて9月14日の記事

「平和主義は貧困への道だが、平和条約は国辱への道のようだ」では、

ウラジオストックで開催された東方経済フォーラムにおいて

安倍総理が領土問題を強調しないまま

日本とロシアの協調による平和と繁栄の未来!!

とかいうグローバリズム的な夢想を謳いあげたあげく、

プーチンから

ならば、年末までに前提条件なしで平和条約を結ぼうではないか

とみごとにツッコミを食らったことを指摘。

ずばり、タコにされたわけですな。

 

「だから平和主義はダメって言ってるじゃないの!」(※)お姉さまの発言です。

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明治時代ならこれで十分、

日比谷公園で焼き討ちが起きてもおかしくない状況です。

 

しかし!

物事を自分に都合のいい形でしか解釈できない

・・・じゃなかった、

つねにポジティブ思考なのが

われらが安倍総理。

 

プーチン発言について

「平和条約締結への意欲」と前向きに受け止め、

交渉を一気に進展させる大きなチャンスと捉え(た)

のであります。

関連記事こちら。

ついでにこちら。

 

いや、この解釈が完全に間違いとは言いませんよ。

ただし重要な語句が抜け落ちている。

 

プーチンが示したのは

ロシアにとって都合のいい平和条約締結への意欲。

つまり総理のスピーチを

ロシアに有利な形で交渉を一気に進展させる大きなチャンス

と捉えているのです。

 

当然でしょう。

無条件なんだから。

 

言い替えれば

総理がこれを前向きに受け止めるということは

1)日本よりもロシアの国益を尊重している

2)外交とはどういうものか、全く分かっていない

のどちらか、となる。

 

まあ、総理は日ロ平和条約締結をご自分のレガシーにしたいそうなので

たんに手柄を焦っているのかも知れませんが、

これも(2)、

つまり「外交が全く分かっていない」ことのバリエーションと言えるでしょう。

 

そりゃ、保守派も沈黙するわな。

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というわけで

11月14日、

シンガポールであらためて日ロ首脳会談と相成ったわけですが・・・

結果について総理いわく。

 

領土問題を解決して、平和条約を締結する。

この戦後70年以上残されてきた課題を、

次の世代に先送りすることなく、

私とプーチン大統領の手で必ずや終止符を打つという、

その強い意思を大統領と完全に共有いたしました。

そして、1956年共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させる。

本日そのことで、プーチン大統領と合意いたしました。

官邸ホームページからの引用です。

 

ただ終止符を打てばいいのではなく

どんな形の終止符になるかが問題だという

肝心の点があいかわらず抜けていますが

それは脇に置きましょう。

でないと、話が先に進みません。

 

問題は「1956年共同宣言を基礎として」という箇所。

同宣言の9項はこうなっています。

 

日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、

両国間に正常な外交関係が回復された後、

平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する。

 

ソヴィエト社会主義共和国連邦は、

日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、

歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。

ただし、これらの諸島は、

日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に

現実に引き渡されるものとする。

全文こちら。

 

プーチンの「無条件」というツッコミに対抗するには

この宣言を持ち出すしかないでしょうが、

これは何を意味するのか。

先に紹介したFNN PRIME の記事によればこうです。

 

これまで政府は

「4島の帰属の問題を解決し平和条約を締結する」

ことを基本方針に掲げてきたため、

4島返還に応じる気のないロシア側との協議は進展せず、

日ソ共同宣言の内容に基づいた交渉も当然進んで来なかった。

 

そこで政府としては、

このまま4島一括での返還を前提にすると2島の返還もおぼつかなくなるため、

今回の首脳会談で、最初からの「4島一括返還」にこだわらず、

2島の返還を「基礎」として4島返還に近づけていくアプローチに転換した形だ。

(脱字を一字補足)

 

二兎を追う者は一兎をも得ず

ならぬ

四島を追う者は一島をも得ず

というところですが

曲者はもちろん「近づけていく」というフレーズ。

 

2島の返還を基礎に、4島返還を達成するとは言っていないのですよ。

たんに「近づけていく」だけ。

現にある政府関係者は、

こんな発言をしています。

 

4島は一括して返ってこなくてもいい。

最初に2島を返してもらい、

残りの2島は後でとか、

いろんなバリエーションがある。

そういう意味で我々は4島にこだわる。

 

「こだわる」という表現とは裏腹に

この人物が本当に言わんとしているのが

「もはや4島にはこだわらない」なのは明らかでしょう。

なにせ、国後・択捉の返還は「後」でかまわないのです。

 

いずれは4島すべての帰属の問題を解決するんだ!

そしてすべて返還してもらうんだ!!

・・・と口先で主張しつつ

問題解決(つまり返還達成)を半永久的に先延ばしすることだって、

「いろんなバリエーション」に含まれるはずじゃないですか。

それも「四島へのこだわり」のうちと言い張るなら

四島にこだわることと、こだわらないことの間に差異はないと評さねばなりません。

 

♬日本外交は宇宙のジョーク、あっソレ

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ちなみに総理も、こうコメント。

領土問題を解決して平和条約を締結するのがわが国の一貫した立場で、

この点に変更はない。

平和条約交渉の対象は4島の帰属の問題であるとの立場だ。

1956年宣言を基礎として平和条約交渉を加速させるとの合意は、

領土問題を解決して平和条約交渉を締結する従来の方針と何ら矛盾するものではない。

 

なるほど、そうですか。

しかし困ったことに、1956年宣言は

国後・択捉についてまったく触れていません。

 

この宣言を基礎にして平和条約交渉を加速させるかぎり、

平和条約交渉の対象が四島の帰属の問題であるという解釈は

常識的に考えて成立しない。

すなわち認知的不協和。

 

いかに総理が「矛盾するものではない」と言っても

それだけで矛盾しないことにはならないのです。

 

さしものアウフヘーベンマンも、これを止揚することはできないのでは・・・

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つまり今回の首脳会談、

「無条件の平和条約」というツッコミのダメージから回復できず、

四島返還から二島返還へと譲歩せざるをえなくなったものとしか思えないのですが・・・

 

恐るべきはウラジーミル・プーチン。

なんと、総理をさらにタコにする札を用意していた。

15日の記者会見で、こう述べたのです。

 

日ソ共同宣言には、

どのような根拠に基づいて

これらの島(歯舞、色丹)が引き渡されるのか、

どの主権下にこれらの島が置かれるのか、

どのような根拠に基づいてそれが履行されるのか述べられていない。

これは本格的な検討を要する。

 

島を引き渡すとは言ったが、

日本領として引き渡すとは言っていないと居直ったのです。

 

ここで思い出されるのが、

シェイクスピア『ヴェニスの商人』におけるポーシャの有名な台詞。

シャイロック、お前にこの男の肉1ポンドを切り取る権利はあるが

血を流していいとは一言も書いていないぞ!

というアレです。

 

プーチンの発言もこれに匹敵する詭弁だと思うのですが

認知的不協和に陥っている総理とは異なり、

こちらは詭弁にしても出来がいい。

 

事実の指摘としては、たしかにその通りなのです。

ついでに「どのような根拠に基づいて」が二回繰り返されているのにご注目。

一度目の「根拠」は、二島の引き渡しに関するものであり、

二度目の「根拠」は、両島の主権の帰属に関するものですが

この論理構成自体が

歯舞・色丹を引き渡すとしても、

それは帰属の問題に関する譲歩を意味しない

という結論を含んでいる。

 

日本に引き渡されたあとの両島に

ロシア軍の基地がしっかり残っているかも知れないわけです。

 

プロですよ、プロ。

敵ながらあっぱれ。

 

みなさん、

二島返還の段階で

ここまで総理、ないしわが国をタコにしてくるプーチンが

四島返還に応じると思いますか?

 

ついでに二島引き渡しは

平和条約締結の後と明記されています。

条約自体の内容についても

ガンガン譲歩を迫ってくるのは火を見るより明らか。

条約締結を自分のレガシーにしたいと意気込むかぎり、

総理がとことんタコにされるのは疑問の余地がありません。

 

「バカ野郎、だから言っただろうが」(※)個人の感想です。

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(※)記事の内容と直接の関係はありません。

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ならば総理とプーチンの差はどこにあるのか?

 

・・・お分かりですね。

ただ領土問題に終止符を打てばいいのではなく

自国に都合のいい形の終止符にできるかどうかが問題だ。

プーチンはこれをしっかり押さえているのです。

 

ナショナリズムを否定する戦後日本型の平和主義が

いかにしょうもない代物か、

あらためて実感される一件でありました。

 

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ではでは♬(^_^)♬