まずはお知らせ。

中野剛志さん、施光恒さん、柴山桂太さんとやっている

東洋経済の研究会ですが

6月に行われたセッションの採録(前編)が

東洋経済オンラインで配信されました。

 

題して、

「欧米は個人主義、日本は集団主義」は大嘘だ〜「忖度」はアメリカでも日常茶飯事な理由。

 ご覧になりたい方はこちら。

 

施さんの近著

『本当に日本人は流されやすいのか』を出発点に

われわれ四人が縦横無尽に議論を展開します。

 

個人的には

日本人論の古典の一つとも呼ぶべき

ルース・ベネディクトの『菊と刀』

なぜあのような内容になったのか

という点をめぐるくだりに注目していただきたいですね。

 

なぜならここには

日本人のあり方を論理的に研究したらそうなった

のではなく、

戦時中の敵国研究として分析を始めた都合上、

論理的に妥当かどうかとは関係なく

あのような内容にまとめることが

暗黙のうちに求められていた

という事情がひそんでいる可能性が高いのです。

 

財政均衡主義(および緊縮財政志向)をめぐって

『平和主義は貧困への道』で展開した議論ではありませんが

物事はしばしば

純粋に学問的な見地からは、考慮の対象にならないはずの外部要因

によって決まるのですよ。

 

むろんこれは、

純粋に学問的な見地なるものが

現実を理解するには視野の狭すぎる代物にすぎない

ということなのですが。

 

ところで、その『平貧』について

こみやこういちさんから素晴らしいコメントをいただきました。

 

『平貧』は素晴らしい本ですね。

映画のような本でした。第6章がクライマックスで一番盛り上がる。

私は博徒なので、終章に書いてあることがものすごーく理解できました。

 

答えがない世界に住んでいて、自分は自然の一部。

上手いことやろうと大脳で考えたところで、

大脳は損得しか考えられないから、必ず間違う。

 

自分で歴史を勉強し、記憶ではなく、記録を分析して、

仕掛けるのか、損切りするのか、世界に一つの自分だけのルールを作る。

そういう事だと、解釈しました。

物凄く楽しい映画でした。ありがとうございました。

 

「そりゃあ、このアタシが主演しているんだもの」(※)お姉さまの発言です。

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こちらこそ、ありがとうございます。

私の今後の本は

さらに映画性、ないし物語性が強まると思いますよ!

 

・・・さて。

 

アメリカのウィリアム・フリードキン監督が

1977年に発表した映画『恐怖の報酬』

オリジナル完全版で明日よりリバイバル上映されます。

 

日本公開は1978年3月でしたが

これは121分の上映時間を

なんと92分にまでカットした短縮版。

そこまでカットしたら、正当な評価なんてできないだろうに!

 

その後、1990年に

完全版のVHSとレーザーディスク(どちらも今や死語だなあ)が発売されたものの

これは画面比率(縦横比)1:1.33

スタンダードサイズ、ないしいわゆるTVサイズ。

 

『恐怖の報酬』の本来の画面比率はアメリカンビスタ、

つまり縦横比1:1.85ですから

作品を完全な形で味わうことはできません。

 

2014年、ようやくアメリカで

オリジナル画面サイズの完全版ブルーレイが発売されましたが

これも日本盤はまだ。

 

要するに日本の映画ファンにとり

明日からのリバイバルが

『恐怖の報酬』を本来の形で味わう最初の機会になるわけです。

映画の公式サイト(予告編つき)はこちら!

 

私は一足先に試写で観てきましたが・・・

いや、これはすごい!!

 

興奮のあまり買い込んだ北米盤ブルーレイと、前から持っていたサントラCD。

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内容を簡単にご紹介しますと・・・

まず最初に、

メキシコでニーロという男が、元ナチスらしい人物を殺して逃走する。

次にイスラエルでカッセムという男が、爆弾テロをやって逃走する。

続いてフランスでマンゾンという男が、背任がバレそうになって逃走する。

そしてアメリカでスキャンロンという男が、教会のカネを奪ったあげく逃走する。

ここまでで約25分。

 

4人の男の間には何の関連もないので

一体どういう展開になるのか?

という感じですが、

面白くなるのはここから。

 

4人はそろって、南米のボルヴェニールという国に流れてくる。

そこではアメリカの石油会社が

現地の独裁政権と結託、

とんでもなくブラックな製油工場を運営していた。

 

訳ありの連中ばかり集めては

安い報酬でこき使っているのです。

 

ところが労働者の住む村から320キロ離れた油井で火災が発生!

消火にはニトログリセリンを使わねばなりませんが

保存状態が悪かったせいで、ちょっとの衝撃でも爆発しかねない。

ヘリで運ぶのは到底ムリ。

 

ならば、どうするか。

トラックの荷台に砂を敷き詰め、そこにニトロの箱を積んで

ジャングルを踏破するしかない!

 

ニーロ、カッセム、マンゾン、スキャンロンは

高額の報酬と引き替えに、この決死の仕事に参加します。

ニトロを無事に運べば、

ボルヴェニールを離れ、新たな人生を始めることができるのです。

しかし、生きて油井までたどりつけるのか?

 

・・・『恐怖の報酬』は1953年、

フランスのアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督によって映画化されています。

よってフリードキン版はリメイクなのですが

「油井火災を消し止めるべく、決死の覚悟でニトロを運ぶ」

という基本設定を受け継いだだけで

あとは事実上のオリジナルとのこと。

 

ちなみに製作当時のフリードキンは

『フレンチ・コネクション』(1971年)

『エクソシスト』(1973年)を続けて大ヒットさせており、

ハリウッドのトップ監督の一人と目されていました。

 

当然、『恐怖の報酬』は超大作として製作されます。

撮影は相当に難航したようですが

完成したときフリードキンは

これが自分の最高傑作だと思ったとか。

(※)今でも思っているそうです。

 

が、問題はそのあと。

公開に際し、『恐怖の報酬』は

あの『スター・ウォーズ』とぶつかったんですね。

しかも『スター・ウォーズ』が

理屈抜きで楽しめる単純明快な作品だったのにたいし、

『恐怖の報酬』は見応えこそあるものの

ハードで重苦しい映画。

さらには哲学的・幻想的な要素まで盛り込まれています。

 

・・・アメリカでの興行は惨敗に終わりました。

日本公開版がカットされていたのも、そのためと言われます。

 

フリードキンはその後も映画をつくるものの、

『フレンチ・コネクション』から『恐怖の報酬』までの時期に持っていた

勢いを取り戻すことはありませんでした。

 

つまりは『恐怖の報酬』、

ウィリアム・フリードキンの記念碑ともいうべき作品なのですが

何がそんなにすごいのか。

 

まずは南米のジャングルで実際にロケした映像がすごい。

見せ場のひとつ、崩壊寸前の吊り橋をトラックで渡る場面

(サントラCDのジャケット参照)など

圧倒的な迫力があります。

 

同時に注目されるのは

ドキュメンタリー的なタッチで描かれているにもかかわらず

物語が雄大で深遠なヴィジョンを感じさせること。

 

フリードキンは『恐怖の報酬』を

堅気でない男たちが、予測できない運命に逆らいながら

生き残るために戦い続けるドラマと規定したうえで

「互いに憎み合い、争っている国々が、

核爆発事故を防ぐために手を組まねばならない」ことの

比喩としてとらえたと語っています。

 

しかし、映画にはそれ以上の何かがある。

ジャングルの奥で起きている油井火災は

ずばり地獄の火を連想させます。

 

さらに4人の男は

2台のトラックに分乗します。

が、ニーロとスキャンロンが乗るトラックの名は「ラザロ」。

キリストが死から甦らせた人物の名です。

 

他方、カッセムとマンゾンが乗るトラックは「ソーサラー(魔術師)」。

映画の原題『SORCERER』はこれに由来するのでしょう。

 

それぞれに罪を犯し

地の果てで死人のように生きていた男たちが

魔術に頼って、地獄の火を消しに行く。

 

この映画が真に描いているのは

そんな贖罪と再生の儀式だといっても過言ではありません。

フリードキンの前作『エクソシスト』は

リーガンという少女の悪魔払いを通じて

アメリカ社会の贖罪と再生を描いていましたが

『恐怖の報酬』は、それを世界規模に拡大したのです。

 

(※)余談ながら、『エクソシスト』を真に理解するためのポイントは

題名が「ポゼッスト」(悪魔憑き)ではなく

「エクソシスト(悪魔払い師)」なのに注目すること。

あの映画の真の主役は、悪魔に憑かれたリーガンではなく

彼女を救うカラス神父なのです。

 

・・・このヴィジョン、

巨大といえば巨大すぎて

フリードキン自身、完全には把握できていない形跡がある。

 

ラスト寸前、

スキャンロンが正気を失い始めるところなど、

映画自体が狂い出すかのような印象があります。

その意味では、スッキリとまとまった作品ではない。

 

しかし『恐怖の報酬』の狂気には

何か偉大なもの、骨太なものがある。

フランシス・コッポラの『地獄の黙示録』もそうでしたが

この映画もまた、狂いかけているがゆえに傑作なのです。

 

現実の世界が狂いだしている感の強い2010年代末、

必見の一作だと思いますよ!

 

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ではでは♬(^_^)♬