わが『新訳 フランス革命の省察』の第十章には
「自治体と軍の危険な結びつき」
という節があります。
革命によって社会秩序が揺らぎ、
自治体同士の関係まで不安定になった結果、
自治体が軍に頼ったり、
逆に軍の指揮権を欲しがる傾向が台頭したことを指摘するものです。
いわく。
軍と自治体の関係は次の三つのどれかとなる。
自治体が軍を支配するか、
軍が自治体を支配するか、
はたまた両者が結託するかだ。
あるときは相手を支配し、
あるときは支配されるというふうに、
立場がコロコロ変化することも起きるだろう。
また状況次第では、
三つの立場がゴチャマゼになることも考えられる。
(257〜258ページ)
しかるにご存じのとおり、
安倍内閣のワケワカ・・・
いやワンダーウーマンこと稲田朋美防衛大臣は27日、
板橋区で行われた都議選自民党公認候補の応援演説でこう発言。
しっかりと、その、えー、活躍を、
自衛隊ができるというのも、
地元の皆様方、そして都民の皆様方の協力があって
初めてしっかりと連携があるということが
私は重要だと思っておりますので
防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としても
(候補への投票を)お願いをしたい。
稲田大臣は同日夜に発言を撤回、
30日の閣議後記者会見でもあらためて撤回と謝罪を表明しましたが、
辞任は否定しました。
政府も今のところ、大臣をかばって続投させる意向のようです。
ちなみに30日の会見では
「誤解」という言葉が35回飛び出したそうな。
けれどもこの発言、
撤回や謝罪だけでは済まされないものがあるのではないでしょうか。
自衛隊法や公職選挙法に違反する恐れがあることは
あちこちで指摘されていますが、
より根本的な問題だと思うのは
稲田発言に以下の含みがあること。
1)自民党候補が当選しないかぎり、板橋区、ないし東京都と、自衛隊の連携は成立しない。
2)連携という形で、地元民、ないし都民が協力しなければ、自衛隊は活躍できない。
3)よって自衛隊に活躍してほしければ、自民党候補に投票すべきである。
すると何ですか?
かりに板橋区で自民党候補が落選したり、
都議選で自民党が大敗したりしたら
自衛隊は板橋区民、ないし東京都民を守ることに責任を持たない(または持てない)
そういうことですか?
この論理に従うなら
自衛隊は板橋区民、ないし東京都民を守るという大義名分のもと
特定政党の候補者の当選を要求して良いことになります。
これがエドマンド・バークの指摘した
軍による自治体の支配でなくて何なのか?!
のみならず
自治体を守るという大義名分のもと、
特定政党の候補者の当選を要求して良いのであれば
自治体を守るという大義名分のもと、
特定政党の候補者の落選を要求しても良いはず。
どうも稲田防相は
自民党のためなら、自衛隊は暴走しても構わないとお考えのようなのです。
何せ30日の記者会見ですら
「地元の皆様方の協力がなければ
自衛隊の協力はできないと繰り返し申し上げていたし、
演説のなかでもそういう趣旨、地元の皆様方の協力の趣旨を述べた」
と釈明したくらい。
「自衛隊の協力」は
「自衛隊の活躍」の間違いと思われますが
そんなことはどうでもよろしい。
防相の頭の中では
地元の皆様の協力=自民党候補への投票(または当選)
の図式が成立している以上、
これは「自衛隊に守ってほしかったら、自民党に入れろ」
と言ったに等しいのです。
この発想、
『対論「炎上」日本のメカニズム』で私が提起した
炎上政治の発想そのものではありませんか。
だ・か・ら、
『右の売国、左の亡国』と言うのですよ!
(↑)稲田大臣が連発した「誤解」の真の意味についても、本書の「政治経済用語辞典」をどうぞ。
今回の話がいかにとんでもないかを実感していただくため、
1790年6月4日、
フランスの陸軍大臣ド・ラ・トゥール・デュ・パンが、
国民議会で行った報告から引用しておきましょう。
軍が独走を始めたら最後、
軍内部の多数派が政治の実権を握ってしまう。
表向き誰が国を治めていようと、
そんなことは問題ではない。
しかるに軍人支配とは、
自分で自分を食い尽くすまで暴れる怪物のごとき代物ではないか。
そうです。
いくら大臣が撤回して謝罪しようが、暴走が始まったら終わりなのです。
ではでは♬(^_^)♬
11 comments
マゼラン星人二代目 says:
7月 1, 2017
>自民党のためなら、自衛隊は暴走しても構わない
「開票結果次第では、板橋区は火の海、練馬区もただでは済まない、豊島区に至っては向こう百年、ぺんぺん草も生えなくなるかも知れないよ」
「さあ、誰に入れたらいいか、あとは自分で考えな」
これが稲田妄言の含意だということ。このことを、ワイドショーレベルでもはっきり言ってくれなくては困る。
Daniel says:
7月 1, 2017
佐藤先生ならば、きっとこの問題を見過さないと思っていました!!
(※平松禎史氏のブログにも、確か本件に関する言及がありましたね)
稲田防相の応援演説は、どう見ても、都民に対する脅迫です。防衛大臣が、自衛隊(≒軍)を使って、国民を脅迫する、それに「誤解」も何も無いもんだよ、と思います。
遂に安倍政権は、この域にまで至った、否、馬脚を現したということです。安倍政権の戦闘的な姿勢は、一部は好結果に流れることもあり、流石に私も、何もかもを全否定するつもりはありませんが、要は、彼らには、根本において、国民の皆々を慈しむ気持がないということが問題なのです。
放蕩息子がいたとしても、たとい彼が犯罪者であったとしても、それでも愛するという気持が欠けているのです。例えば、仇なす国民や野党を、それでもお前(ら)が大好きだと、言ってごらんなさいよ。そうすれば、内閣支持率は沸騰するでしょう。
稲田防相の辞任は根源的に避けられないものと思います。避けてしまえば、今度は安倍政権の辞去、若しくは歴史上の一大汚点は避けられない。
もし日本人にちゃんとした良識があれば(なければ今度は日本国の亡失に繋がりますが)ですが、これは安倍政権の、明確なる「終りの始まり」だと思います。これだけの失政を重ねて、タダで済むと思う方がおかしい。そして、小池「馬鹿」都知事の悪戯けを放置しておいたツケも大きい。
まぁ、最初から安倍政権不支持だった私の正義はちょっぴりだけ残るかな、、とは思いますが。。
GUY FAWKES says:
7月 1, 2017
>防相の頭の中では地元の皆様の協力=自民党候補への投票(または当選)の図式が成立している以上、これは「自衛隊に守ってほしかったら、自民党に入れろ」と言ったに等しいのです。
「戦争は一種の強力行為であり、その旨とするところは相手に我が方の意志を強要するにある」
ーカール・フォン・クラウゼヴィッツ
今回の稲田防衛相の発言は有権者、即ち国民の生命財産への保障を選挙の投票と引き換えだとした。
これはつまり、現職の防衛大臣が国民を脅迫・恐喝…いや宣戦布告したも同然なのです。
さて、DANIELさんの推察通りこれが『右の売国』ターンの終焉の開始であればよろしいのですが、
次に待ち構えているのが『左の亡国』ターンとは限りません。
あれだけすったもんだ続けていても、小池現都知事による炎上政治の火種は未だに燻っております。
更に“意識高い系”な『右の売国』へとシフトする余地は存分に残っている、
既に佐藤先生が件の著書で指摘された通りですね。
こりゃ、2020年まで日本は保たないでしょうなぁ…
「ピーキーすぎてお前にゃ無理だよ!」ー金田正太郎 AKIRAより
Daniel says:
7月 1, 2017
これは備忘録として言います。
加計学園問題(獣医学部)に関してです。森友については関知しないし、関心もありません。
私はこれは、「逆張りのDaniel」として(笑)、文科省の言い分を支持します。「保守の中の保守系」も、「新自由主義系の保守系」も、世の賢しらどもは、安倍総理に何か「御恩」でもあるのか、盛んに文科省を叩いていますが、これは「無理が通れば道理が引っ込む」の類であって、そもそも横車を押す方が悪いのです。
胸糞悪いので、遂に言いました。
ご奉公ご苦労さん。菅官房長官から、安倍総理から、高橋洋一(一応、この方は私は全否定はせず、時に大きく評価していますが)から、読売新聞から、数多の「保守系論者」から、腐臭が漂う。贔屓の引倒しもいい加減にせいよ。
獣医師って今やそんなに要るのかね?儲からん職業をこれ以上増やしてどうするの?竹中平蔵がタクシーを増やしまくって運転手を過当競争に追い込んだ事件の再来に私は思えます。
政治家の嫉妬は恐ろしい。きっと組織ごと潰されるでしょうが、文科省、頑張れ!大義の為に殉じ給え。
Daniel says:
7月 1, 2017
書き忘れ…
尚、だからと言って、文科省の推進した「ゆとり教育」や、「英語化政策」等については、私は一切、全く支持しません。
現に、「ゆとり世代」の滅茶苦茶な行動と思考パターンに、現場は大迷惑していますから。若くても優秀な人材が大勢いることは(その最大の例は、将棋棋士の藤井聡太四段でしょう)良く分っていますが、それにしても平均値が酷い。余り言いたくありませんが、むしろ男性より女性にこの傾向は顕著です。
暴言・暴力議員として大々的に名を馳せた豊田真由子代議士など、彼女はゆとり世代では全くないものの、その精神性の走りだったのではないか、と私個人は考えています。
ベッラ says:
7月 1, 2017
DANIELさま、その通りですね。ところで高橋洋一って何様? 安倍の弁護士にでもなったつもりか威圧的なものの言い方に嫌悪感。
自民党支持者、あわれな安倍信者は善悪構わず安倍を支持し、かえって壊すことになります。
(ただ、「女性に顕著」というのは少し異論ありですが・・・男性にもおかしなのがいっぱいいます)
稲田氏の選挙応援も「恫喝」が含まれていることをご本人はわかっているのでしょうか。
佐藤先生の稲田氏分析全く同感です。
Daniel says:
7月 2, 2017
>男性にもおかしなのがいっぱいいます
これは失敬。ただ、男がおかしいのは昔からです。
これは※個人の感想ですが、ゆとりの男(って何か、「豊洲の女」みたいですね)の場合は、諭せば分ってくれるケースが意外に多いのですが、ゆとりの女の場合、諭しても既に目が「拒絶」してるのが見て取れるのです。しかも全然それで済むと思っている。何というか、平均変化率が明らかに異なるように思うのです。
まぁ私の伝達能力(最近はコミュ力っていうようですね)にも問題があるのかもしれません。女の子に余り強く言うのって、どうしても躊躇してしまうんですね。
こちらは、人間関係の基本が学生時代までに出来てから社会に出てきて、「仕事」の仕方などを教えるものだと思っているじゃないですか。まず挨拶をする。目上の人を立てる。その人自身はどうであれ、男の人は一応立てておく。若いのは雑巾がけをする。飲み会では働く。先輩の言うことはつまんないことでもちゃんと付き合う。話を合わせる。嫌な顔をあからさまにしない。。だって、協同して仕事をするんですもん。…しかし、そういうのが一切できないんですね。
少々事務処理が上手いだけでひとかどの人間になったつもりなのか、飲み会でいきなり上座に座っているのを見ると、私は、、絶句してしまいます。コンパと違うんだぞ、おい。
家庭でも、男性のDVは、単にそいつが最低なだけ(とはいえ少なくない)ですが、意外に女性のDVも多いんですよ。本当に旦那を殴る蹴る。一般には余り知られていませんが、これは専門家の間では、半ば常識になっています。また、離婚に備えて、旦那が全額奥さんに給料を預けているのをいいことに、新婚当初から予め貯金をしっかり別立てで貯めておく、なんてのは今やザラです。また、旦那の実家との交流を事実上拒否しているお嫁さんも少なくありません。冠婚葬祭にも来ない。そしてその逆のケースはほとんどないです。それでも息子と結婚してくれたんだから、と旦那のご実家が懸命に耐えてらっしゃるケースを頻繁に聞きます。男の子が草食化しているというのは実感しますが、女の子の草食化は、、正直見たことも聞いたこともありません。
これは都市伝説ではないかと思いますが、その昔、日本女性は、外国人男性に人気があったそうです。曰く、「夫によく尽し、控えめでおしとやかで優美。貞節がある。」…、…、どこの国の話でしょう??そういう人を永らく私は見ていません。特に東京では。
反発をご覚悟で赤裸々に書いてしまいました。女性が長らく忍従を強いられた過去も私は実感として知らんでもないのですが、階級闘争史観を社会や家庭に持ち込まれるのはやはりご勘弁です。
Daniel says:
7月 2, 2017
結局、安倍総理とその仲間たちって、薄めた橋下徹なんですよね。
…あー、言ってしまった、遂に。はー、何かもう、本音ダダ漏れですね。。
poti says:
7月 2, 2017
やっぱり逆族であり、国民の敵だったなぁ。
ワケワカのまま、暴力と権力で行き着くところまで突っ走る、って出来の悪い戦前の焼きうつしでしかない。
さぁ、今度は敗戦を飲み干す事が出来るかな?
たけくらべ says:
7月 3, 2017
女性の暴力について
20代の頃に住んでいたマンションで、夫婦か同棲か分らないですが、男女カップルが同じ階にいました。
あるとき、凄まじい喧嘩が起きて、女性の怒鳴り声が延々と続きました。
者を壊す音、投げつける音、とにかく一方的でマンガのようでした。
程なくして、このカップルは引っ越してしまいましたが、
悪い男も当然いますが、悪い女、酷い女も相当数いる。
この現実を言い辛い社会って何なのでしょう?
別に統計を取ったわけでも無く、直に見た風景、ご近所の範囲だけですけど、
これらに最も迷惑しているのが、良心的な女性のはずです。
DANIELさんのケースは文章で読むとなかなか信じがたいですが、 ※信じたくない(笑)
女性を増長させた社会は必ず傾いていく、確信しています。
momo says:
7月 3, 2017
「女は家事をしていろ」というような男尊女卑的な既成概念を女性は嫌うそうですが、本当にそうでしょうか。いつぞやのアンケートで、女子大生の9割が専業主婦を望んだとか。
そういうことを考えれば、必ずしも女性の社会進出がいいわけではなさそうですよね。
女性にとって女性の人権や社会進出はある意味自由への闘争だったのでしょう。フランス革命と同じように。そして勝利してしまった。
女性は縛られるものがなく自由になってしまい、戦うべき敵がいなくなってしまった。同時に自分たちの生きる意味を失った。既成概念否定し、根無し草となって何をしていいのかわからず、際限なく自由を求めて暴れまくる女性がいてもおかしくない。
豊田真由子議員もその口だと思われます。自由と権威を手に入れても、それをどう使えばいいかわからない。必要もなく男性秘書をいじめてみたり、金持ちだけの仲間を作って金持ち談義に花を咲かせたり。それくらいしかやることがないんでしょう。
多くの一般女性はまともな見識をお持ちだと思います。しかし自由と権利を声高に叫び、まともな女性の生きる意味(夫に尽くし、子を産み育て、家事をしたい女性も少なからずいるわけで)を全否定するもんだから、自分の生きる意味はなんなのか、わからなくなる女性もいるのでしょうね。その鬱憤を男性に抑圧された自分の心と置き換え、男性を敵と思い暴力に走ってしまうのかもしれません。