記事タイトルのフレーズをご存じの方は

かなりのロック好きのはず。

 

イギリスのミュージシャン、ジョン・ケイル

「銃」という歌の一節です。

1974年に発表されたアルバム「恐怖」に収録。

 

ケイルと言えば、かのルー・リードとともに

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの中核をなした人物。

ちなみに『ローリングストーン・アルバムガイド』は

1990年代はじめの時点で

ヴェルヴェッツ(省略するときは複数形になります)について

「過去20年間に最も大きな影響力を持ったバンド」と評価しました。

ビートルズは1970年に解散していますから、

その次ということですね。

 

「銃」はずばり、

銃を使った犯罪を繰り返す人間の視点で書かれた歌。

8分を超える曲ですが

サビのフレーズこそ

銃みたいに物事を考えだしたら、一年の残りの日々は消えてなくなる

(When you’ve begun to think like a gun, the rest of the year has already gone)

なのです。

 

いつでも殺せるし、いつ殺されるか分からないからでしょうね。

 

さて。

 

アメリカはフロリダ州パークランド

(マイアミの北、約70キロだそうです)にある

マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で

2月14日の午後(現地時間)、

元生徒のニコラス・クルーズが銃を乱射。

少なくとも17人が死亡、

多数の負傷者も出ました。

関連記事はこちら。

 

この記事によると、

米国では1月23日にも南部ケンタッキー州の高校で

15歳の男子生徒が銃を乱射し同級生2人が死亡、17人が負傷。

米主要メディアによると、今年だけで学校の発砲事件は18件に達した

とのことです。

 

アメリカにおける暴力犯罪は

認知件数で見ると

1992年から2004年まで減少(ただし2001年のみ微増)したあと、

2006年まで増加、

そのあとは2014年まで減少(ただし2012年のみ微増)。

 

発生率で見ると

1991年から2004年まで減少したあと、

2006年まで増加、

そのあとは2014年まで減少(ただし2012年のみ微増)と

ほぼ同じ趨勢になります。

 

その意味で

いかに銃乱射事件が多発しようと

アメリカの治安が悪化の一途をたどっている

かのように受け取るのは正しくありません。

 

とはいえ銃乱射事件

(FBIが2013年まで使った定義によれば、4人以上の死者が出たもの)

となると、

なんと1966年から2012年にかけて

世界全体で起きた件数の

約3分の1がアメリカで起きている!!

関連記事はこちら。

 

クルーズ容疑者については、こんな報道も。

 

白人至上主義団体「フロリダ共和国」に所属。

メンバーの一人は、クルーズ容疑者が訓練に1回以上参加していたと説明。

ただ、事件は団体が指示したものではないと強調した。

この団体はフロリダで白人だけの国の設立を目指しているとされる。

元の記事はこちら。

 

くしくも2月13日には、

ワシントン州エバレットで、

自分が通っていた高校を銃で襲撃する計画を立てていた(らしい)

18歳の少年が逮捕されました。

 

なんと少年の祖母が

孫の日記を読み、

襲撃を暗示する内容が書かれていたことに驚いて

警察に通報したのだそうです。

 

この少年のギターケースからは

半自動式ライフルが発見されたとのこと。

当該の高校が属する学区の広報担当者は15日、

「祖母の方のはたらきにより、悲劇を未然に防げたことに感謝する」

「フロリダで昨日起きた事件を考えれば、彼女の行動の大切さがよくわかる。

何か不審なものを見聞きした場合は、当局に報告することが重要だ」

とコメントしたそうです。

 関連記事はこちら。

 

とはいえ、

家庭内でそこまで監視・通報の姿勢を整えなければ

若者が銃みたいに物事を考えだし

学校での乱射事件が防げない国とは

いったい、どういう国だ?!

 

この背景にあるのは、

むろん、アメリカにおける銃保有の多さ。

市民100人あたりの銃保有数を見ると

アメリカは88.8丁

断然、世界最高なのです。

 

実際、世界的にみると

銃撃犯はたいてい銃を1丁しか持っていないのにたいして

アメリカでは乱射事件の半数以上で

犯人が2丁以上の銃を持っていたとのこと。

 

ならば普通に考えて

銃規制を強化するのが乱射事件対策の第一歩なのは明らかなはずですが

そういう話に(だけは)ならないのが、あの国のスゴイところ。

フロリダの事件を受けて、大統領はこう対応しているのです。

 

トランプ氏は演説で、事件の犠牲者や家族のため

「国全体が祈りをささげている。あなたたちの痛みは私たちの苦しみだ」と語った。

近く現地を訪問し、被害者や当局者らと面会する考えも示した。

 

一方で、6分間の演説で「銃撃」との単語を一度使った以外は、

銃や銃規制に関する言及はなかった。

トランプ氏は過去の銃乱射事件でも、殺傷能力の高い銃のまん延ではなく、

容疑者の精神状態が事件発生の要因との見方を繰り返し示している。

 

2015年10月、

オレゴン州の大学で乱射があったときなど、

NBCテレビの番組でこう語っています。

 

事件の起きた大学は銃規制地域にあった。

あそこでは銃を保有できないんだ。

みんなが銃を持っていたほうが良かったと言えるんじゃないかね。

撃ち返せるだろうに。

オレが思うに、

もし事件が起きたのとは別の部屋に銃があったら

死者や重傷者の数は少なくてすんだんじゃないかな。

やりとりの書き起こしはこちら。

 

市民の銃保有率が世界一の国で

乱射事件が多発している。

で、対策は?

もっとみんなで銃を持つようにしよう。

 

フランスの革命派も真っ青の論理です。

 

(↓)253ページ、および288ページをどうぞ。

フランス革命の省察

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とはいえトランプ大統領、

ないしアメリカ国民(の少なからぬ部分。以下同じ)は

なぜここまで銃を持つ権利にこだわるのか?

 

NRA(全米ライフル協会)が政界に献金しまくっているから

というのもあるでしょうが

核心にあるのは合衆国憲法修正第二条(1791年成立)です。

 

A well regulated Militia, being necessary to the security of a free State,

the right of the people to keep and bear Arms, shall not be infringed.

 

自由な国家の安全保障には、よく訓練された民兵が必要である。

ゆえに人々が武器を保有・携帯する権利を冒してはならない。

 

武装した市民こそ国家の安全保障を支えるから、という次第。

だとしても、ここで疑問がわいてきませんか?

なぜ「よく訓練された民兵」ではなく

「しっかりした常備軍」を持つべし、という話にならないのか。

 

アメリカが世界最強の軍事大国となって久しい現在では

ちと想像しにくいのですが、

もともとアメリカ人は、軍隊を持つことに否定的だったのです!

 

なぜか?

しっかりした常備軍は、独裁的な権力者が出現した場合、その手駒に使われる危険があるから。

 

イギリスの植民地支配をはねのけ

独立を勝ち取った副作用として

アメリカには一種の政府不信が存在するのです。

 

修正第二条が定められていたころ、

議会はなんと

そもそも常備軍など持たないほうが良いのではないか

とか

持つにしても、軍の規模は3000人(!)を上限にすべきではないか

といった論議をしていたとのこと。

 

これについてはジョージ・ワシントンが

ならば議会は「いかなる国も3000人以上の兵力でアメリカを攻撃すべからず」と宣言しろ

とやり返したことでカタがついたそうですが

巨大な常備軍を否定的にとらえる発想は

その後も第二次大戦ぐらいまで続いたとのこと。

 

2月13日の記事

「ドナルド・トランプのパレード、または人は対立する相手に似るもの」

で紹介したとおり

アメリカがあまり軍事パレードをやりたがらないのも、

一つにはこのためと言われます。

 

しかるに問題は

政府不信が「武装の権利」への執着を生んだあと、

この権利を乱用する(つまり乱射事件を起こす)ことへの歯止めとなるものは何か

ということ。

 

ふたたび普通に考えれば

自分が暮らす地域社会、ないし共同体への帰属意識

ということになるでしょうが

これは近代化の進展にともない、どうしても崩れます。

 

しかも21世紀に入っていらい

アメリカは没落の様相を呈しているだけでなく

国内でも格差が拡大、

いわゆる「アメリカン・ドリーム」まで崩れている。

政府への不信が強まっているのも

ほかならぬトランプ当選が示すとおり。

 

銃乱射事件が多発するのも

こう考えれば必然の帰結ではないでしょうか?

 

となれば

「銃乱射には銃で自衛を」は答えにならない。

「家庭内を含めた監視と通報」にしても同様。

 

1)政府への信頼の強化

2)地域社会や共同体への帰属意識の強化

3)多くの国民が希望を持てるような理念の再構築

4)それを裏打ちするものとしての発展・繁栄

 

この4つが必要なのです。

そして政府への信頼の強化とは、

「武装の権利」への制約強化、

つまり銃砲規制につながるものでなければなりません。

 

アメリカにこれが可能かどうかは

正直、かなり疑わしいものの

ひるがえって、わが日本はどうか。

上記4項目について、すべて揺らいでいるのが実情ではないでしょうか。

 

ならば日本人だって、銃みたいに物事を考えださないとも限らない。

 

わが国では銃砲規制がありますので

すぐに乱射事件が多発するようなことはないでしょう。

とはいえグローバル化が進んでゆけば、

これだって分かりませんよ・・・

 

(↓)一年の残りの日々が消えてなくならないようにするためにも、この3冊をどうぞ。 

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ではでは♬(^_^)♬