人間が何か言われて感情的になるのは
痛いところを突かれたときと相場が決まっています。
たとえば2014年、
安倍総理の言葉の使い方にはかなり問題があるのではないか
と指摘した際、
かなり感情的に反発した人物がおりましたが、
移民の受け入れについて
自分は移民だと思っていないので
それは移民ではなく、外国人労働者である
などという趣旨の発言が平気でなされる現状を見れば
そのような反発がなぜ生じたかは
もはや明らかでありましょう。
図星だったからです。
ついでに2017年、
保守とは経路を尊重することなのだから、
戦後日本のたどった経路を単純に否定することはできない
と指摘した際も、
かなり感情的に反発した人物がおりましたが、
ナショナリスト的な雰囲気(=「戦後脱却」)を漂わせつつ、
グローバリズム(=戦後の完成)に徹する傾向が強くなる一方
という現政権のあり方を見れば、
そのような反発がなぜ生じたかも
もはや明らかでありましょう。
図星だったからです。
要するに人間、
アウフヘーベンしてインテグレイトするにはキツすぎる現実に直面すると
理性が十分機能しなくなって
ヒステリーを起こしやすくなるんですね。
「そんなことにならないよう、この本で知性を鍛えるのよ」(※)お姉さまの発言です。
それでもダメなら、正義の味方・アウフヘーベンマンが待っているぞ!!
さて。
韓国の男性ヒップホップグループ、
防弾少年団(BTS)が
このところ、わが国で物議をかもしています。
ちなみにBTSとは
「防弾少年団」の朝鮮語読み
パンタンソニョンダン(BANGTAN SONYEONDAN)のイニシャル。
ウィキペディアでは「バンタンソニョンダン」となっていますが
朝鮮語は語頭に濁音が来ないので
「パンタン」が正しいはず。
グループ名「防弾」には
10代、20代に向けられる抑圧や偏見を止め、自身たちの音楽を守り抜く
というメッセージがこめられているのだとか。
私は聴いたことがありませんが、
今年5月に発売された3作目のフルアルバム
「LOVE YOURSELF 轉 TEAR」と
8月に発売された2枚目のコンピレーションアルバム
「LOVE YOURSELF 結 ANSWER」が
どちらもアメリカのビルボードで
総合アルバムチャート1位を達成したという話ですから
国際的に人気があるはず。
英語以外の言葉で歌われたアルバムが首位になるのは
イル・ディーヴォの「アンコール」以来
12年ぶりなのだそうです。
現在はアメリカ、カナダ、イギリス、オランダ、ドイツ、フランスなどをめぐる
大規模なワールド・ツアー中とか。
ちょうど今週、日本にも来るとのこと。
ならば、そんなBTSの何が物議をかもしたのか。
メンバーの一人であるジミン(本名パク・ジミン)が、
2017年のワールドツアー中、
原爆のキノコ雲があしらわれたTシャツを
オフの際に着ていたというもの。
1945年8月9日、長崎に投下されたプルトニウム型原爆
「ファットマン」のキノコ雲だそうです。
一年半前
しかもオフでのことなのですが
これが10月中旬、韓国のネットニュースで報道されると
日韓双方で騒ぎに。
とくにわが国では批判が強く、
この9日に予定されていた
テレビ朝日「ミュージックステーション」への出演は見送りに。
12月のフジテレビ「FNS歌謡祭」、
テレビ朝日「ミュージックステーション・スーパーライブ」、
そして紅白歌合戦への出演も検討されていたものの、
すべて白紙になったと伝えられます。
ああ、また左翼・リベラルがイチャモンをつけたんだな!
あの連中は「原爆」とか「核」とか聞くと
すぐにカッとなるから困ったもんだ!
ひきかえ保守派は核抑止の必要性を理解しているから
こういう時にも冷静に・・・
誰しも、そう思いますよね。
が、ちょっとお待ちを。
今回、主に文句をつけたのは
どうも保守側らしいのです。
「反核」だの「核廃絶」だのと聞くと
反日のサヨクめ! などと言い出しかねない保守派が
なんでまた、原爆Tシャツに文句をつけたのか?
じつはこのTシャツ、
キノコ雲の画像の脇に英語でこう書いてあるのですよ。
PATRIOTISM OURHISTORY LIBERATION KOREA.
(愛国心 われわれの歴史 解放 朝鮮)
OURとHISTORYの間に空白がないので
ちょっと読みづらいのですが
それは脇に置きましょう。
これで8月9日、長崎に落とされた原爆のキノコ雲をあしらっているのですから
原爆投下で日本が降伏した結果、
朝鮮は解放された
という意味合いが読み取れる。
現にシャツをデザインした「LJカンパニー」の代表イ・グァンジェも
日本をばかにするような気持ちはなかった
と断りつつ、
上記のような歴史の順序を表現するものだったと述べています。
日本がポツダム宣言を受諾するにいたったのが
原爆投下のせいだけだったかどうかは議論の余地がある。
しかし「終戦の詔勅」に
敵は新たに残虐なる爆弾を使用して
しきりに無辜を殺傷し
惨害の及ぶところ、まことに測るべからざるにいたる
という箇所があるのを思えば
かなりのインパクトがあったのは確実でしょう。
よってイ・グアンジェの歴史認識は
基本的に妥当です。
被爆者の中には朝鮮半島出身者もいるのですが
だからといって「原爆投下がポツダム宣言受諾の重要な一因となった」ことまで
否定されるわけではありません。
そしてポツダム宣言受諾によって朝鮮統治は終わるのですから
韓国人の視点に立つかぎり
原爆投下のおかげでわれわれは解放された
というのは、
まったく自然な発想と言えるでしょう。
ついでに。
原爆投下は正当な行動だった
という発想は、目新しいものでも何でもない。
ほかならぬアメリカは、
戦後一貫してこの姿勢を崩していないはずです。
そのアメリカとの間の従属関係・・・
じゃなかった、「日米同盟の絆」を内外に自慢してやまないのがわが日本。
さすがは現地妻という感じですが
だったら保守派の人々は、
原爆Tシャツの何にそこまで反発したのでしょう。
日米同盟の絆だって、原爆投下の正当化の上に成立しているのですぞ。
例の徴用工問題などで、
韓国への反感が高まっていたから?
なるほど、それはあるでしょう。
しかし注目すべきは
この原爆Tシャツが
朝鮮統治終焉にいたる歴史の順序の他にも、
ある重大なことを表現、
いや白状していること。
何だか分かりますか?
・・・そうです。
日本に原爆を落としたのは朝鮮ではありません。
連合国、
具体的にはアメリカです。
つまりこのTシャツ、
朝鮮はみずからの力で解放を勝ち取ることなどできなかった
と認めているのですよ!!
♬やはり朝鮮も宇宙のジョーク、あっソレ♬
・・・したがって私は
日本をバカにする気持ちはなかった
というイ・グァンジェの発言を
全面的に信用します。
そりゃそうでしょう。
朝鮮解放は他力本願の産物だったと認めたあとで
日本をバカにするなど、できるはずがない。
ならばなぜ、
わが国の保守派はこの点をみごとに見落とし、
カッとならずにいられなかったのか?
あれで愛国心を強調したつもりらしいぜ!!
と笑って片づけることができなかったのか?
・・・お分かりですね。
アメリカに依存することで
どうにかナショナリズムを謳っているのは
日本の保守も同じだからです。
要するに、事大主義の他力本願。
問題のTシャツを着ていたメンバーが
わが国の与党と同じ
「ジミン」
という名なのは、
その点でじつに良くできた話と言わねばなりません。
「あら、双子の兄弟だったのね」(※)お姉さんの発言です。
(※)記事の内容と直接の関係はありません。
むろん、こちらのジミン君はもとより
Tシャツをつくったイ・グァンジュにだって
日本の保守派の一番痛いところを突いてやれ
などという気があったとは信じがたい。
ついでに日本の保守派だって
どうしてそんなにカッとなっているのか
自分でも分かってはいないでしょう。
しかし、あのTシャツが
自国を核攻撃して打ち負かした国にたいし
えんえん媚びて尻尾を振っている
という
わが国の保守派の一番痛いところを
ずばり突いてしまったのも
否定しがたい事実なのです。
論より証拠。
PATRIOTISM OURHISTORY LIBERATION
(愛国心 われわれの歴史 解放)
という、Tシャツの文句を逆転させるとどうなるか。
UNPATRIOTIC DENIAL OF HISTORY SUBJUGATION
(愛国心の否定 歴史の否認 従属)
おっと、戦後日本そのものじゃん!!
「バカ野郎、だから言っただろうが」(※)個人の感想です。
わが国の保守派は
ヒップホップグループがオフで着ていたTシャツひとつ
アウフヘーベンしてインテグレイトすることができないというのが
本日の結論でありました。
知性をさらに鍛えるために、読むべき5冊はこちら!
ではでは♬(^_^)♬
9 comments
GUY FAWKES says:
11月 12, 2018
>つまりこのTシャツ、朝鮮はみずからの力で解放を勝ち取ることなどできなかったと認めているのですよ!!
やはり、この話題を取り上げられたのですね。果たせるかな、私でも論理展開と結論は完全に予想できました。
全く以って仰ることに同意です。
かのBTSさんを巡るお話で「だったら国連の核廃絶決議に賛同しようね?」とかの擁護や
「あの原爆で大勢の朝鮮の人々も殺されたんだぞ!」と批判する声はあれども、
殆どの方々はあの原爆投下の当事者がアメリカだったこと、および解放(韓国)国体護持(日本)されたことについては
(案の定というか)指摘していない。
>ついでに2017年、保守とは経路を尊重することなのだから、戦後日本のたどった経路を単純に否定することはできない
と指摘した際も、かなり感情的に反発した人物がおりましたが〜
結論から言って、結局主体性なく国家擬きを延々と続けてきた結果がこれなんですよね。
都合のいいことばかりやっているから、あの大勢虐殺された人々を真正面から考えることもできない。
今までそうやって激高し続けても本質的に何一つ解決できなかった事実を振り返らないのに
何が「絶望が足りない!」ですか…先にハロウィン狂想曲といい、今回の一件といい、
平成の終わりにこうして噴出する様は正に「保守が名実共に死に絶えた時代」を象徴する断末魔と言えるでしょう。
豆腐メンタル says:
11月 12, 2018
昭和に過去からのギフトを拒絶し、平成になると未来のためのギフトを食いつぶす。
まさに幼稚。
連続性って美味しいの??
トホホですよ。
拓三 says:
11月 12, 2018
戦後の日本はタコです。
タコとは空を飛んでいろタコではなく海にいる軟体動物の蛸で御座います。一見すると肯定的な国家の在り方に聞こえるでしょう。
蛸は頭が良く身体も優れています。獲物を捕らえる時には8本の足を大きく広げ袋状に包み込み強靭な筋肉と鋭い嘴で獲物を捕らえます。また敵に襲われそうになればカメレオンの様に岩や海藻に体を同化させたり柔軟性をいかして岩の隙間に隠れたり、さらには墨を吐き敵の視覚、嗅覚を混乱させたり。そして何より「成長が早い」。国家にとって理想的ではないでしょうか。戦後日本もこんな国家を目指した事でしょう。(アメーバは単細胞生物なので国家とは性質が違う。念のため)
でもね、年魚なんです。つまり寿命が1年なんです。あの大きな2メートル超える水蛸でも2年ほどです。何故寿命が短いのか。
「骨」が無いからです。
骨が無い分成長も早い。しかし寿命も早い。まさに日本。
佐藤氏のブログを拝見していると「真と柔」がいつも統合された思考で物事を捕らえていることを感じ取り刺激を受け日本を動物でとらえてみた今日この頃で御座います。
こみやこういち says:
11月 13, 2018
平和主義は貧困への道、なかなかページが進みません。
おもしろいのにページが進まない理由は、このページに書かれていることを理解できているのか?
と自問自答しないといけないほど、佐藤さんと私の整理の仕方が違うからです。
佐藤さんの立っている位置が分からないので、どの方向から見ればいいのかわからない。
著者とのキャッチボールが私の読書なので、豪速球を投げてくる佐藤さん本は
私がちゃんとキャッチできているか不安です。
討論討論討論でも佐藤さんの豪速球のストライクを、ビンボールだと判定されるときもありますね。
私もビンボールだと思ってました。
この本を読んで、自分もパラダイムシフトする気がします。
SATOKENJI says:
11月 14, 2018
「読んで衝撃を受ける本だけが、真に読むに値する本である」
──フランツ・カフカ
頑張って下さい。
poti says:
11月 14, 2018
怯え、竦み、理解を拒みヒステリーを繰り返しながら現実逃避を続け身内だけの宴に淫する。
うーん、完璧に亡国の風景なんやなって。今の日本人やいわゆる保守派と比べれば、
移民の人々や諸外国、中国や韓国ロシアの人の方がまだ話が通じそうなのが困る。
けんぶー says:
11月 14, 2018
『平貧』を読んである意味衝撃だったのは山口二郎さんによる『55年体制』を評価する(ような)発言です。
彼を漠然と『パヨクの代表的プレーヤーの一人』としてしか見ていなかったのですが、少し見方が変わった。
所謂リベラルの人たちもそこから始めてはどうでしょうか、と思いました。
問題があったのは確かですが、ある種の理想を間違いなく実現していたと思います。
もちろんほんとうに理想的なのは『戦後』から見直すことですが、えらく難しいことだと思います。
SATOKENJI says:
11月 16, 2018
あれは本当に評価しているのだと思いますよ。
レギーム作 says:
12月 9, 2018
このいざこざをきっかけにBTS(のMV)をしばらく視聴してみましたがいい感じですよ♪
アイドルっていうのとはちょっと違うんじゃないかなと。