2011年1月、
岩手県は「コミックいわて」というプロジェクトをスタートさせました。
発案者は達増拓也知事。
今も、しっかり現職です。
じつは達増知事、
「ギーク・ガバナー」(オタク知事)を公言するほど
ポップカルチャーに造詣が深い。
なにせ
「ガバナンス」(統治)と聞くと、『宇宙からのメッセージ』(※1)を思い出します
という私の阿呆なツイートに
ガバナス懐かしい!(※2)
と返答されたのですぞ。
【注釈】
1)『スター・ウォーズ』の大ヒットを受けて、1978年に東映がつくったSF映画。
続編にあたるテレビシリーズ『宇宙からのメッセージ 銀河大戦』もつくられた。
2)同作品に登場する悪の帝国の名称。
m(_ _)m \(^O^)/さすがでございます\(^O^)/ m(_ _)m
達増知事によれば
岩手は少なくとも54名(2011年時点)の漫画家を生んでいるとか。
県ゆかりの漫画家に
岩手をモチーフにした作品を描いてもらったら
有力な情報発信になるのではないか?
・・・ギーク・ガバナーの面目躍如というべきか、
知事はみずから責任編集を担当します(ホント)。
はたせるかな、
岩手への愛と漫画への愛がみごとにブレンドし、
「コミックいわて」は評判となりました。
東日本大震災にも負けず
2012年には第二弾「コミックいわて2」を刊行。
2013年には無料配信サイト「コミックいわてWEB」を立ち上げます。
そして2014年以後は、
年1冊のペースで単行本を刊行することに。
『コミックいわて from WEB』(2014)
『コミックいわてっち』(2015)
『コミックいわてぃー』(2016)
『コミックいわて.ログ』(2017)
と続きます。
毎回、タイトルを工夫しているところが
気合を感じさせるではありませんか。
で、このたび通巻7冊目となる
『コミックいわて なななっ』が出ました!
書店やAmazonでも、むろん入手可能ですが
東京周辺の方は、
銀座五丁目、歌舞伎座の向かいにあるアンテナショップ
「いわて銀河プラザ」に行かれるといいでしょう。
ポイントカードがありますし、
店内で販売している小岩井農場ソフトクリームが素晴らしくおいしいのですよ。
さて。
『コミックいわて なななっ』を
最初の『コミックいわて』と比べると
このプロジェクトが着実に成長しているさまがうかがえます。
まずはカバーを並べてみましょう。
(↓)「岩手県」というクレジットに注目(『なななっ』でも、帯の下にあります)!
ご覧のとおり、
スタート時点では
参加した漫画家の名前を並べていただけなのにたいし、
今や『コミックいわて』としての独自のカラーが確立されている。
ちなみに「ケロ平」とは
2012年に平泉で出土した
平安時代の木片に描かれていたカエルの絵をもとにつくられた
県公認のキャラクター。
くだんのカエルの絵、
「鳥獣戯画」(平安末期〜鎌倉初期)よりもさらに古い
日本最古の漫画ではないかと言われます。
さらにページ数も
最初は168ページ(10作品)だったのにたいして、
今は248ページ(14作品)。
ほぼ1.5倍のボリュームとなりました。
とはいえ最も注目したいのが
編集センスの向上。
日本の本は右開き(背表紙が右側に来る)ですので
活字でも漫画でも
見開き左側のページから始まります。
表紙をめくったとき、パッと目に入るのは左ですので。
他方、漫画のページ数は偶数が基本。
これは何を意味するか?
ハイ、そうです。
最後のページは、ふつう見開き右側に来るのです。
よって作品を並べてゆくと、
一つの見開きでも
右側はある作品の最後のページ
左側は次の作品の最初のページ
ということが起きるのです。
『コミックいわて』はアンソロジー。
各作品で画風が違います。
つまり同じ見開きに
違う画風の絵が同居することに。
左側に来るのが一枚絵の扉ならいいのですが
そうでない場合、
いかにタイトルが入っていようと
視覚的に違和感が生じる場合がある。
しかるに『なななっ』は
この点について、
見開き右ページにある作品の最終ページが来ているときは
左ページに岩手紹介のワンポイント記事を載せることで
きれいに解決しました。
で、漫画の中に文章の記事が入ることのギャップは
次の見開きの右ページ(=記事の裏にあたるところ)を
アミかけの捨てページにすることで処理。
ここはページ全体が濃い灰色で
左下に「コミックいわて なななっ」のロゴが
白抜きであしらわれているだけになっています。
つまりは視覚的にワンクッション置くことで
左側に来る次の作品の冒頭ページが
スッと目に入るように工夫されているんですね。
ついでに紹介記事は
岩手の話題を伝えるだけでなく
作品から作品に移行する際の
頭の切り換えもうながす役割を果たしている。
巧みになったものであります。
さらに内容的にも
岩手の風土というローカル性を踏まえつつ
普遍性を持った作品が増えた。
「好きになったところはどこでも地元」という
達増知事の持論にふさわしく、
岩手出身でない漫画家も参加しています。
今回、やはり目を惹くのは
『この世界の片隅に』のこうの史代さん(広島出身)でしょう。
しかも岩手県、
「いわてマンガ大賞」まで設けており、
その受賞作も収録されている。
新人育成も進んでいるのです。
『コミックいわて』については、
2014年の『表現者』55号でも
「『コミックいわて』成功の秘訣」という題で
論評したことがありますが、
今やこのプロジェクト、
地域密着型の漫画出版に関する
ひとつのクライテリオン(誰もが参照すべき基準)になったと言っても
過言ではありません。
これからも、いっそうの発展を期待したいところですね!
ちなみに『コミックいわて なななっ』に収録された14作品で
私がとくに気に入ったのは以下の4つ。
黒田硫黄「タイムカプセル」
(ガチャポンからよくここまでアイディアをふくらませた!)
市川ラク「流れ星が見たい」
(最後のオチが岩手ならでは)
クリストファー・アイゼンフィールド「トオノ君、河童だよね!?」
(第7回「いわてマンガ大賞」受賞作。
「キューティーハニー」と「メン・イン・ブラック」を混ぜ合わせたヒネリが良い。
ただし作者が外国人かどうかは、まったく怪しいので念のため)
そのだつくし「平成岩手御伽噺」
(取り上げ方次第では深刻になるテーマを、ファンタジーとして巧みに処理。
これも最後のオチが上手い)
(↓)岩手県とは別に関係ありませんが。
(↓)もちろん、この4冊もどうぞ。
ではでは♬(^_^)♬
3 comments
GUY FAWKES says:
3月 30, 2018
「漫画やアニメに意味深長な含みがある訳がない」と宣う老ガクシャさん方、
そして「クールジャパン」とかいい歳(皇紀云千年)して的外れな上にイタいことやっている経産省のエリート様と政府与党、
ついでに売国を亡国で阻止しようとする野党と左翼・リベラルの皆様。
『コミックいわて』こそが真の愛国心を育む郷土愛であり、カッコいい日本であり、地方自治の共助共生の形なのですよ。
えっ、わからない?前沢牛を食べ、わんこそばで覚醒せよ!
そういえば、先日ご紹介された東洋経済での表現者4若賢人の対談での中野剛志さんですが、
面構えが某土木総統に似てきた様に見えてしまい思わず吉田松陰草生えました。
豆腐メンタル says:
4月 2, 2018
過去に2度、レプリカでない鳥獣人物戯画を観ました。
特に知られる1巻は素朴ながら生命力のあるオーラをまとっています。
過去と繋がれる感びんびん。あれはいいものだ。。
おかげさまで生きているカエルにも美を見出だすようになりました。
さらに古い岩手のカエルも観てみたいものです。
政治も同じく、時代の評価を乗り越えるなら真か善か美を具えている可能性が高い。
篩のメッシュは様々なので、残ること自体が素晴らしいという保守主義的視野ですね。
そういう意味では、平成の日本政治は砂粒みたいで何も残んないですよ。カエル以下!
玉田泰 says:
4月 5, 2018
「なななっ」もいずれ購入しようと思いますが、取り敢えずコミックいわてWEBを閲覧しました。こうの史代氏の漫画などを読んだ後、ふと岩手県のバナーを発見。震災復興の様子や、先生も以前紹介されていたリニアコライダーの計画の動画などを観たり、小一時間するうちに、岩手の豊かな自然や文化にすっかり魅了されて、旅行したくなりました。何日かかけて美味しい食べ物や、文化遺産を満喫したいです。
でも、直ぐに出掛けるのは無理ですね。計画を立ててみようと思います。