まずはお知らせから。
ご好評いただいています
『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』について
電子版が発売となりました!
未読の方はぜひどうぞ!
さて。
アメリカのオバマ大統領が、
現職の大統領としては初めて広島を訪れ、
慰霊碑に献花したうえ
被爆者とも言葉を交わしました。
大統領はスピーチで
われわれはなぜ広島を訪れるのか?
と問いかけ、
みずからこう答えています。
さほど遠くない過去、
この地に恐るべき破壊がもたらされたことについて
思いをめぐらせるためである。
その破壊の犠牲となった人々、
10万人を超える日本の男性、女性、子供、
数千人のコリアン、
そして捕虜となっていた十数名のアメリカ人について
追悼するためである。
(英語原文より。拙訳)
なかなか格調高いスピーチでしたが
恐るべき破壊をもたらしたのがどこの国だったか
という点について
大統領が触れることはありませんでした。
文脈から推測するに
原爆投下に関して批判されるべきは
攻撃を行った特定の国や
当該の国の指導者ではなく、
戦争そのものであり、
みずからの英知を破壊に使ってしまう人間の業である
と位置づけられているようです。
問題はこれを
高邁なる哲学的洞察と取るか、
空疎なるキレイゴトと取るかですが・・・
アメリカにとって都合がいい形で
双方の要素がブレンドされていた
というのが真相だと思います。
こう言っては何ですが、
戦後の日米関係のあり方を考えれば
日本がアメリカの大統領から、これ以上踏み込んだ発言を引き出せるはずがないし
アメリカの大統領も、日本にたいしてこれ以上踏み込んだ発言をする必要を認めないのが
偽らざる実情でしょう。
ちなみに畏友・藤井聡さんは
フェイスブックで興味深い指摘をされています。
今回のオバマ広島訪問で
戦後が終わるか、
あるいは戦後の終わりが始まるのではないか、とのこと。
私なりに論旨を整理すれば、こうなります。
1)今まで、現職のアメリカ大統領が広島を訪れたことはなかったし、原爆投下について謝罪したこともなかった。
裏を返せば、「いつか大統領が広島を訪れるときには、謝罪することになるのではないか」という含みがあった。
2)その意味で「戦後」は、原爆投下をめぐるアメリカの正義が、未だ完全には確立されていなかった時代である。
しかるにオバマは広島を訪問したが、謝罪しなかった。
3)ゆえに今回の訪問は「広島を訪れようと、大統領は謝罪しなくていい」ことを確立した。
つまりは原爆投下をめぐるアメリカの正義が揺るがぬものになったわけであり、この点で「戦後」に区切りがついた。
オバマ大統領の広島訪問については
日本国内でも評価が高いわけですから
藤井さんの主張が正しいとすれば
これまさに、『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』ことの証明となります。
たしかにオバマ大統領のあとでスピーチした安倍総理は
昨年、米議会で行った「希望の同盟へ」演説を
みごとに蒸し返していましたからね。
いかなる高邁な理念も
現実と無縁ではありえない。
そして対米従属こそ、戦後日本の現実だ。
そんなところかも知れません。
ではでは♬(^_^)♬
2 comments
Guy Fawkes says:
5月 30, 2016
アメリカによる原爆投下を正当化する事に抗うならば、
日本はこれまでの70年間同国に安全保障を丸投げしてきた事に対して辻褄を合わせなければならない。
だが、主体性なき故に愚者の繁栄を謳歌してきた戦後日本にそんな事が出来る訳もない。
それは必然的に遠くは明治維新、比較的近くは昭和20年8月15日(主権回復までを加味すればもっと長いか?)
近現代日本を覆い尽くしてきた虚妄を振り払う事に他ならない。
しかし、それは己自らの足元に広がる既存秩序すらも灰燼に帰しかねない業でしかない事には誰も気づかない…
ぼくは夏の夜明けを抱いた。宮殿の前ではまだ何も動いていなかった。水は死んでいた。
野営した影たちは森の街道から離れていなかった。新鮮な温かい息吹を目覚めさせながら、
ぼくが歩くと、宝石たちは目を見はり、翼たちは音もなく飛び立った。
最初の企ては、冷たく青白い光で満たされた小道で、ぼくに名を告げる花から始まった。
ブロンドの滝ヴァッセルファルにぼくが笑いかけると、滝は樅の木立の向こうで髪を振り乱した。その銀色の頂きに女神が見えた。
そこでぼくはヴェールを一枚ずつ剥いでいった。並木道で、両腕を振りながら。野原では、雄鶏に彼女のことを告げてやった。
大きな街に入ると、彼女は鐘楼やドームの間を逃げまわったので、ぼくは飢えた男のように大理石の河岸を駈け、
彼女を追いかけた。街道を登りつめ、月桂樹の林の近くで、やっと集めたヴェールごと彼女を抱きしめたとき、
ぼくはその大きななからだをかすかに感じた。夜明けと子どもは林の裾で倒れた。
目覚めたら正午だった。
『夜明け』ーアルチュール・ランボー 『イリュミナシオン』より
玉田泰 says:
5月 31, 2016
「戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する」の電子化おめでとうございます。僕もこの本には…おっと本の感想は差し控えるんだった(笑)
それはともかく、原爆投下に対する主語のない言い方においては、日米共犯ですね。明確な戦争犯罪にも関わらずそれを糊塗し続ける限り、アメリカにとっても不幸な歴史でしかないと思うのですが。アメリカはその後、不幸の上塗りを続けた挙句、今更になって戦勝国気取りを投げ出そうとしていますね。アメリカにとっての戦後脱却でしょうか(笑)
日米は結局、広島で戦後を追認し合っただけに終わりましたね。平和ですな!