中野剛志さんの新刊

「資本主義の預言者たち ニュー・ノーマルの時代へ」(角川新書)を読んで

とくに感服した箇所、第二弾です。

 

「復活」と題されたエピローグより。

 

ここで本書を締めくくることについては、

少なからぬ不満や批判があるかもしれない。

なぜなら、これまでの議論の中では、

2008年に起きた世界的な経済危機を克服するためには、

具体的にどうしたらよいかについて、

ほとんど示されていないからである。

 

確かに、世間には、

こうした性急な要請に応じようとする書物や論文があふれている。

(中略)

しかし、安易に実用的な解決策を求め、

考える手間を省こうとする知的怠惰こそが、

ヴィジョンの硬直や貧困をもたらすのではないだろうか。

 

本書の目的は、ヴィジョンの回復である。

だから、具体的な政策の提言などはない。

(285ページ)

 

2008年の経済危機(つまりリーマン・ショック)が言及されているのは

同書の旧版が2009年に刊行されたためでしょうが、

この箇所を、昨日紹介したくだりと突き合わせてみましょう。

 

(自分の)理論が暗黙のうちによって立つ

ヴィジョンを確認することこそが、

革命的な理論家が最も重視し、

凡庸な学者が必ず怠る作業にほかならない。

 

すると、面白いことが見えてきます。

 

重大な危機にあたって

安易に実用的な解決策をホイホイと思いつけるのは、

おのれの基盤となっているヴィジョンを確認する手間を省いているからではないでしょうか?

 

しかし「愛国のパラドックス」でも書いたとおり、

そもそも危機とは

われわれの常識や、考え方の枠組みそのもの、

つまりは「ヴィジョン」を脅かすような事態のはず。

 

裏を返せば

危機にあたってホイホイ出てくる「安易に実用的な解決策」など

本質的に役に立たないものということになる。

 

エドマンド・バーク風に言えば

そのような解決策ばかり追い求めるのは

健康を害したからといって

やみくもに特効薬を探すばかりで

毎日の食生活を改善しようとしないようなものですな。

 

 

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危機に際して最も重要なのはヴィジョンの回復にほかならず

ゆえに具体的な政策提言などしない!

 

こう言い切った中野さんの見識には

じつに立派なものがあります。

 

預言者は故郷で尊ばれることなし

とは、キリストの名言ですが

今の日本に、そんなことを言っていられる余裕はない。

みなさん、中野さんを尊びましょう。

 

ちなみに「ウラジーミル・プーチンに告ぐ!」

「『ヒトラーがSF作家だったら』掲載されました。」で紹介した

アメリカの作家ノーマン・スピンラッドさんも

「ニュー・ノーマルはアブノーマルだ」(THE ABNORMAL NEW NORMAL)

というブログを書いています。

 

興味のある方はこちらをどうぞ(ただし英語です)。

 

ではでは♬(^_^)♬