深入りしそうな女と、

深入りする前に観ておきたい映画

3本目はこれです。

 

『赤い航路』

(ロマン・ポランスキー監督、1992年)

 

ポランスキーと言えば

まさに波瀾万丈(はらんばんじょう)の人生を送ってきた人。

 

ユダヤ系のため、少年時代にはナチスによる迫害を経験。

戦後、ポーランドで頭角をあらわすも

自由に映画をつくるためにイギリス、ついでにアメリカに渡る。

 

1968年、「ローズマリーの赤ちゃん」で大ヒットを飛ばすも、

その直後、妊娠中の妻が惨殺されるという悲劇に見舞われる。

 

1974年、「チャイナタウン」でふたたびヒットを飛ばすも、

今度は少女へのレイプ容疑で逮捕、有罪判決を受ける。

ところがポランスキー、保釈中にアメリカからフランスへと国外逃亡!!

 

以後、アメリカには一度も足を踏み入れていません。

2002年、「戦場のピアニスト」でアカデミー監督賞を取ったときも、

逮捕される恐れがあるという理由で授賞式には出ませんでした。

 

こんな経歴の監督って、ほかにいますか?

 

これだけの人生経験を積んでくれば

世界観がいささか異常・・・いや、独特になるのも無理からぬところ。

 

「赤い航路」は、次の「死と乙女」ともども

そんなポランスキーの人間観がストレートに出た傑作です。

 

ナイジェルという若い男が、

妻と一緒に大西洋の船旅を楽しんでいる。

ところがナイジェル、オスカーという初老の男に声をかけられて

彼の身の上話を聞くことに。

 

オスカーは車椅子の生活で、

彼よりずっと若い美女・ミミが世話をしています。

というと、何やらうるわしそうですが・・・

 

ナイジェルが聞かされる話には、うるわしさのカケラもありません。

 

パリで知り合い、恋仲になったオスカーとミミが

より深くお互いを求め合うあまり、

逆に相手をどんどん傷つけるようになった過程が

赤裸々(せきらら)に語られるのです。

 

オスカーが車椅子の生活を送るようになったのも、

じつはその帰結。

 

あとは映画を観ていただきたいのですが、

ポランスキーのコメントを二つ紹介しておきましょう。

まずはこれ。

 

“倒錯”とは、もっとも崇高なエロティシズムの形である。

 

次はこれ。

 

ハッピー・エンドのラブ・ストーリーなんてピンとこないよ。(中略)

一方が裏切ったり、

死んだり、

よりベストなのが二人一緒に命を絶つという形。

それも彼らが幸福の絶頂にいる時にそれをやるのがいい。

 

ちなみにミミを演じた女優エマニュエル・セイナーは、

実生活ではロマン・ポランスキー夫人です。

お幸せに。

 

そうそう、「赤い航路」はヴァンゲリスの音楽もいいですよ。

サントラは残念ながら出ていないものの、

メインテーマはヴァンゲリスのベスト盤「リプリーズ」で聴けます。

 

ではでは♬(^_^)♬