内閣府はこの4月1日、
社会意識に関する世論調査を発表しました。
それによると
現在の社会に全体として満足しているか
という問いにたいして
「満足している」と答えた者は65.9%で
2009年の設問開始いらい最高を2年連続で更新。
逆に「満足していない」は33.3%で
過去最低だったそうです。
まあ詳細を見ますと
「満足している」65.9%の内訳は
満足している 8.2%
やや満足している 57.8%
なので、
さほど満足度が高いとは言えないのですが、
それでも2009年いらい最高なのだそうです。
ちなみに8.2+57.8=66.0なので、
0.1%のズレがありますが
どこかで四捨五入したのでしょう。
逆に「満足していない」33.3%の内訳は
満足していない 6.0%
あまり満足していない 27.4%
でした。
またもや0.1%のズレがありますが
例によって四捨五入ということで。
その意味で今回の調査結果、
社会に満足している人が過去最高(より正確には過去8年で最高)
と解釈するのは
必ずしも適切ではないかも知れません。
社会にハッキリ満足している人は、
ハッキリ満足していない人ともども
じつは少数派(=どちらも1割以下)にすぎないが
それほど悪くはないと思っている人が
あまり良くはないと思っている人の倍ほどいる。
こう解釈すべきでしょうね。
だとしても、あいかわらずデフレから脱却できないうえ
周辺の国際情勢も緊迫している昨今の日本で
「やや」という留保がついていたとしても
ここまで満足度が高いとは。
平松禎史さんはこれについて
ツイッターで次のようにコメントしました。
生活の満足度が6割超えている。
慣れとは恐ろしいものです。
じわじわと衰退していても成長を望むのが怖くなっている日本。
中には「信じ難いので再調査します」と
投票ツイートした方もいます。
しかしですな。
じつは約40年前にも、似たようなことが起きているのです。
1975年11月、
経済企画庁(当時)は「国民生活選好度調査」を行ったのですが
その結果について
1976年7月22日の読売新聞は次のように報じました。
〈意外!! 国民の70%が「幸福」、「不幸」たった3%〉
・・・1975年と言えば
第一次石油危機によって高度成長が終焉、
それどころか戦後初のマイナス成長に陥る(1974年)など、
社会に停滞感や閉塞感があった時期。
にもかかわらず国民の幸福感は
高度成長の頃よりむしろ上昇したんですね。
詳細はこちらをどうぞ。(↓)
70%という「幸福」派の比率まで
約66%という今回の「満足」派の比率と
ほぼ同じではありませんか。
まさに歴史は繰り返すというところですが
これは何を意味するのか?
このミステリー、
〈戦後日本はアイデンティティの確立より、経済的繁栄を優先させてきた〉という
おなじみのコンセプトを当てはめると
わりと簡単に説明できます。
くだんのコンセプトにしたがえば
経済的繁栄の達成が最優先課題でありつづける間は
アイデンティティの確立は考えなくて良い
ということになるのですぞ。
しかるにアイデンティティの真剣な追求こそ
戦後日本人にとって
まさに最大の鬼門であることは
みなさんご存じの通り。
すると、どういうことになるか?
そうです。
戦後日本人は
アイデンティティに関して深刻な矛盾を抱えており、
それを隠蔽すべく
「アイデンティティ確立よりも繁栄達成が先」という姿勢を取ったがゆえに
経済的繁栄が確保されると
〈いよいよアイデンティティ確立の問題に立ち向かわねばならない〉とばかり
ストレスが高まるのではないか?
逆に経済が低迷し、
繁栄の維持が危なくなると
将来に不安を感じつつも(当たり前です)
〈とりあえずアイデンティティ確立の問題は無視しても構わないんだ〉とばかり
安心するのではないか?
平松さんのツイートではありませんが
戦後日本においては
主観的には経済的繁栄を望みつつ
実際には繁栄の実現をどこか恐れる
という、
ねじれた心理が存在しているのかも知れません。
ちなみに1970年代半ばに活躍した学者集団
「グループ1984年」は
高度成長が終わったのに国民の幸福感が上がったことについて
以下のように解釈しました。
日本政府は長らく福祉国家型の政策を取ってきたため
人々は政府に甘えるようになり
依存心から不平不満が高まっていた。
しかし高度成長の終焉を機に
人々はそのような甘えを脱却、
自己責任のもと、自由で豊かな社会を築こうとしているのだ!
お気づきとは思いますが
この解釈こそ
1980年代以後の自由主義型改革路線の基盤となります。
となると今回の調査結果も
いっそうの新自由主義的な構造改革を正当化するものとして
用いられる可能性が高いのではないでしょうか。
だ・か・ら
『右の売国、左の亡国』と言うのですよ!
ではでは♬(^_^)♬
3 comments
福岡ワマツ says:
4月 5, 2017
この調査結果は、日本政府にとって好都合なものであり、戦後体制を保守するために活用できそうですね。
そこで示されたのは「0.0056%の民意」だと解釈できると思います。
なぜなら、回収数が5,993人であり、この数が18歳以上の年齢人口約106,148,000人(平成27年)の約0.0056%にあたるためです。
この調査結果により「国民の満足度の高さ」をアピールできるならば、政府にとっては「コストパフォーマンスの高い」、「国際競争力のある」、「美しい」ツールであると解釈できます。
改革の祭典はまだまだ続くようです。
※
①「回収数」の引用元:
『平成28年度 社会意識に関する世論調査 調査の概要』
http://survey.gov-online.go.jp/h28/h28-shakai/1.html
②「18歳以上の年齢人口」は下記出典より集計:
総務省統計局『 2- 4 年齢各歳別人口』
http://www.stat.go.jp/data/nihon/02.htm
ソウルメイト says:
4月 6, 2017
臨床心理療法家にして、超常現象関連書籍の翻訳家である笠松敏雄さんは、ご自身の心理療法士としてのご経験から、人間には幸福でありうるにもかかわらず、それを否定する「幸福否定」の心理的メカニズムが働くことがあると主張しておられます。にわかには信じがたいことですが、笠松さんの臨床心理療法士としてご経験を尊重するなら、頭から否定すべきものでもなかろうと思いますが、一方、佐藤さんがご紹介くださったように、経済的、社会的な問題が存在するにもかかわらず、日本人の大多数が“幸福である”と考えるということは日本人というものを考えるさいに重要な視座を与えてくれているように思います。東大を卒業して商社でのビジネスマンとしてのキャリアをなげうって宗教家となった大川隆法さんが自分の宗教団体に名づけた名が“幸福の科学”ですからね。トンチンカンなネーミングをしたもんだ、と思っていましたご、佐藤さんのご考察を拝読して、あながちそうでもなかったんだなと思いました。大川隆法ってのは、宗教家としてはまったく評価にあたいする人物だとは思いませんが、ビジネスの手法を宗教に応用する才覚だけは抜きん出ているんだろうと思います。外部世界がどうだろうと、自分の生存条件がどうだあるかにかかわらず、幸福と考えたがる心性を日本人の大多数は有している、ということはきちんと認識しておくべきことだろうと思います。
玉田泰 says:
4月 23, 2017
「満足している」人には二種類いて、
自分の身の丈を本当に考えている人と、
想像力に欠けている人とがいると思います。
この場合、自分のアイデンティティについて考えなくても良いと安心する人が
想像力に欠けている人ですね。
まあ、大多数の人が自分で自分の感覚を麻痺させてでも安心したいのでしょうね?