おかげさまで
16冊目の本の仕上げ作業も
年内にすませるぶんは昨日で終了。
この本には巻末付録として
おなじみ「政治経済用語辞典」が収録されます。
二段組みですが、項目数が多いため
けっこうなページ数になりましたよ。
ちなみに冒頭の項目は「愛国心」で
最後の項目は「若者を戦場に送らない」です。
これから毎年、増補改訂したうえで
その年の単行本の巻末につけるというのもいいかも知れませんね。
また17冊目についても
藤井さんが担当パートを書き上げました\(^O^)/
われわれの論考を組み合わせると
いろいろと面白いコントラストが生まれそうです。
そして本のクライマックスは
私と藤井さんとの対談。
どちらの本も、ぜひご期待下さい!!
・・・さて。
ちょっと前の話になりますが
ニュースサイト「BLOGOS」に
「日露首脳会談を感情論で批判する人々」
という記事が載りました。
執筆者は「月刊日本」編集部。
つまりは保守派の立場から
左翼の日露首脳会談批判に文句をつけているわけですが
これがじつに面白いのですよ。
というのもこの記事、
こんな議論で始まるのです。
(首脳会談にたいして)日本国内では、
経済協力ばかり先行して領土問題は動いていない
という批判がなされています。
確かに共同記者会見でも経済協力の話題ばかり目立っていましたし、
日ソ共同宣言についてもほとんど言及がなかったため、
領土交渉が動いていないと見なされるのは無理もないことだと思います。
これは何よりもまず安倍首相の責任です。
安倍首相が国民に対して、
今回の会談でどのようなものを得ようと思っていたのか、
実際にどのようなものが得られたのかということをしっかりと説明していないから、
あらぬ誤解を生んでしまうのです。
(中略)
今回の会談に対する国民の期待値が上がったのも、
安倍首相があたかも今回の会談によって
領土問題に決着がつくかのような態度を見せたからです。
正直に交渉の現状を説明していれば、
それほど期待値も上がらなかったでしょうから、
現在のように批判されることもなかったはずです。
要するに
かばいきれないところがあるとしても、やはり安倍総理を擁護したい
という話ですな。
とくに「あらぬ誤解」という表現には
微笑ましくも涙ぐましいものを感じます。
安倍総理の姿勢に文句をつけつつも
日露首脳会談を批判している人々は事の本質を理解していないのだ
と言いたいわけです。
だとしても
今回の会談でどのようなものを得ようと思っていたのか、
実際にどのようなものが得られたのか
総理がちゃんと説明していたらどうなっていたか。
もっと批判されるハメになったんじゃないですかね?!
それも「誤解」という言い逃れの余地なしで!!
のっけからこんな調子なのですが、
記事が本当に楽しくなるのはそのあと。
こう来るんですよ。
しかし、安倍首相だけでなく、メディアにも責任があります。
(中略)
特に問題なのが一部の左派言論人です。
彼らは普段は竹島や尖閣諸島をめぐる
日本国内のナショナリズムを批判しているにもかかわらず、
今回の首脳会談では北方領土問題が進展しなかったとして安倍政権を批判しています。
しかし、それは彼らが批判してきたナショナリズムそのものです。
そうであるなら、日本政府が竹島を取り戻せないことや、
尖閣諸島について中国に弱腰であることも批判しなければ辻褄が合いません。
おい、ちょっと待て!!!
これってつまり、
竹島や尖閣に関してはまっとうな主張をしていないんだから
北方領土について、まっとうな主張をすべきではない
ということじゃないですか。
左翼・リベラルの主張に一貫性がないからと言って、
北方領土に関する彼らの主張が間違っていることにはなりません。
月刊日本編集部は、北方領土に関するまっとうな主張を封じ込めたいのでしょうか???
のみならず。
かりに「一部の左派言論人」が
ならば筋を通してやろうとばかり
竹島や尖閣についてもナショナリズムに基づいた主張をしはじめたら
一体どうするつもりか。
立派な正論だ、安倍総理を支持する保守派も左派言論人を見習え!
と言わざるをえなくなるでしょうに。
それとも何ですか?
強硬で偏狭なナショナリズムを叫ぶだけでは、国益は満たせない!
といった
朝日新聞の社説にでも出てきそうな左翼・リベラル風の主張を展開しますか?
ヾ(℃゜)々\(◎o◎)/そこまでブーメランを投げんでも・・・\(◎o◎)/(゜ロ)ギョェ
そして月刊日本編集部、
よせばいいのに、とことん墓穴を掘ります。
どうぞ。
このような経済先行批判の背景にあるのは、
ロシアが経済協力を「食い逃げ」するのではないかという意識です。
しかし、これは排外主義そのものです。
(沖縄について、振興予算をもらいながら辺野古移転に反対するのは「食い逃げ」だという批判があるが)
ロシアが「食い逃げ」するのではないかという議論も、
沖縄批判と同じく
排外主義や差別感情に基づくものだということを認識する必要があります。
・・・スゴい論理ではありませんか。
月刊日本編集部によると、
領土をめぐって対立関係にある隣国
(それも強大な軍事力を持ち、覇権志向も少なからず見せている国)と
肝心の領土問題についてきっちり詰めないまま
経済協力ばかり先行して進めることを批判するのは
健全なナショナリズムにあらず
排外主義や差別感情の表れなのです!!!
ヾ(℃゜)々\(◎o◎)/この編集部は地球市民主義者の集まりか?\(◎o◎)/(゜◇゜)ガーン
たしかに安倍総理を擁護するためには
経済協力が先行しようと
長期的に見れば、それは領土問題の解決につながってゆくはずだ
というスタンスを(口先だけでも)取らねばならない。
そのせいで、つい筆が滑ってしまい
トンデモな主張を展開してしまったのでしょうが、
ここにはわが国の保守派の弱点が如実に表れています。
すなわち。
ナショナリズムを唱えつつ対米従属を肯定するという矛盾を抱えた
日本の保守派がドヤ顔できるのは
左翼・リベラルがナショナリズムを否定しているかぎりにおいてであり、
彼らがナショナリズムにめざめたら最後、
一撃で総崩れになりかねないんですよ!!
今回の日露首脳会談では
このような覚醒の兆しが見られたため
月刊日本編集部も取り乱してしまったのでしょう。
そりゃそうです。
左翼・リベラルがナショナリズムを肯定することこそ、保守派最大の悪夢なんですから。
ヾ(℃゜)々\(^O^)/だがそれは、どういう保守派だ?\(^O^)/(゜;)エエッ
何であれ感情論で批判するのは感心しませんが
おのれの矛盾を支離滅裂な議論で隠蔽しようとするのは
いっそう感心しませんね。
ではでは♬
11 comments
shun says:
12月 28, 2016
私は今回の結果は完全に敗北だと思います。
どこかの新聞社が「密約があるのでは?」などとおっしゃっていますが
そんなの我々の知ったことですか?
ましてやそれがあったとしても、
「密約」なんてものは
いつでも破棄される可能性があります。
日露戦争前に対日参戦を謳った露清密約なんてものが
あったみたいですが、そんなもの清は余裕で守っていません。
それどころか、袁世凱は馬賊を通じて日本に協力さえしています。
いい加減、マスコミにも現実を見つめてもらいたいものです。
どうも最近は保守・革新の間で分裂・再構成のような動きが
起きているような印象を受けます。
この問題で、それが如実に表面化してきた感じですね。
リラベル says:
12月 28, 2016
本当に安倍真理教の信者は困ったものですね。
彼らにとって安倍首相は神同然なので、なにを言ってもおそらく耳を貸さないのでしょう。
日本を素朴に護りたいと思う人を相対化して日本真理教としましょうか(変な名前ですが)。
こちらは日本が神なので、日本を護るという意味では「絶対」であり、そのためならば権力者が「日本を護る」とは逆の方向に突き進んでいる場合、安倍だろうが中川昭一だろうが「保守派」などと呼ばれている人間に対して容赦なく「ふざけるな!」と責めるのが第一歩のはずです。
それをせず、「プラグマティックなんですよ~」とかなんとか言って批判しないのは日本真理教ではなく安倍真理教の信者、俗称「安倍信者」と言われて仕方がないです。
保守思想というのは本来哲学のはずです。「安倍信者」の打算に基づく論理には哲学がありません。あるフリをしている人も多いですがね。
GUY FAWKES says:
12月 28, 2016
件の記事を拝見して、今年はっきりしたことがいくつか列挙できます。
1:左翼・リベラルは「絶対平和」への志向故に労働者や貧しい人を救済する戦争への意志、即ちナショナリズムを放棄している。
よって誰も救う為の戦いをする気はつもりは毛頭なく、「平和・平等・博愛」などと決まりの美辞麗句を掲げるだけしかできない。
2:先の「月刊日本」という反米保守のオーソリティーとされているオピニオン誌まで奇怪な安倍総理擁護を展開するのを見るに
保守派は自分達と同根でしかない左翼・リベラルのだらしなさに生かされているだけにすぎない。
3:もう、真正本格保守のバランス感覚を保っているのは『表現者』ただ一誌のみになってしまった。
私は日本においては左翼・リベラルに方がナショナリズムに目覚めてくだすってほしいとは思いますけどね…
しかしながら、余談ですが先日のクリスマスイブの記事に関連して申し上げると
「ありえないもの・存在しない筈のもの」の比喩を表す『青い薔薇(ブルー・ローズ)』という言葉がありますね(苦笑)
ホワホ says:
12月 29, 2016
言論地図上で総崩れになるよりも現実がボロボロになるほうが早いから
問題ありません!(キリッ
玉田泰 says:
12月 30, 2016
このブログ記事はマスメディア批判ですよね。日本のマスメディアがしょうもないのには強く同意します。
それで安倍総理が何を目標としているのか、僕なりの見解を書きます。まず総理は内政において、随分下手を打っていると思います。経済政策然り、移民問題然り。ですが外交においてはかなりの手腕だと思います。北方領土交渉に関しても経済援助と言う言葉が示す通り、北方領土にはすでにロシア民が住み着き曲がりなりにも経済が回っています。竹島や尖閣とは次元が異なります。その場合の土台作りが経済援助となるのは理の当然ではないでしょうか。領土問題は戦争でもしない限り、すっきりと解決とはいかないものです(尖閣・竹島においては弱腰と言われても仕方が有りませんが)またロシアの経済協力食い逃げ論は事実誤認です。日本はあげるのではなく貸すのですから。
日本がロシアと組むのにはもう一つの側面があります。中国の封じ込めです。日米露印による対中国政策で動いています。地政学的にも明快ですよね。北と南をロシアとインドで、東は日米で封じ込める戦略です(日本だけが核を持たず、正規の軍さえ持たないのは情けない限りですが)
実際、この路線は中国に効いています。慌てて使い物にならないボロ空母を持ち出してきたのが何よりの証拠です。
月間日本とかいうメディアが事実誤認し、辻褄の合わない安倍養護の論陣を張るのは勝手ですが、何度も書いているようにまともなメディア(僕が主張しているのは新聞です)が日本に現れることを切に願います。
SATOKENJI says:
12月 30, 2016
じつは月刊日本も、そのような主張をしています。
そこから、あのトンデモ論理に進んでゆくのです。
玉田泰 says:
12月 31, 2016
いやいや、先生のコメントは、当て逃げならぬ言い逃げというものでしょう。
僕は、月刊日本が主張している「高く評価すべき」などとは一言も言っていませんし、思っても居ません。
「対米自立という側面があ(る)」などと詭弁を弄するつもりもありませんし、月刊日本の当該記事の結び「事実に基づきつつそれぞれの問題を見ていく必要があります」というのはその通りだと思いますが、当該記事は事実に基づいておらず「こうであったらいいな」という言わば願望によって書かれています。
僕は、総理を擁護したいという結論から逆算的に導き出された言い逃れではなく、事実はこうであると書いたのです。先生の仰る「左翼・リベラルがナショナリズムを否定する限りにおいて」という甘えと、事実の分析は全く無関係です。
僕のコメントは「おのれの矛盾を支離滅裂な議論で隠蔽」してはいないと思いますがいかがですか。
SATOKENJI says:
12月 31, 2016
僕のコメントは「おのれの矛盾を支離滅裂な議論で隠蔽」してはいないと思いますがいかがですか。
(↑)もちろん、そうです。
玉田さんのコメントと、月刊日本編集部の記事がまるで同じだ、
などと言っているのではありません。
ただし。
1)経済協力先行であっても、それは領土問題解決の基盤となりうる
2)ロシアとの関係強化は対中包囲網形成に資する
という認識は、あの記事にも見られるのですよ。
(1)は当然ですね。
でなければ、「領土問題が進展しなかった」という
左翼・リベラルの会談批判は正しいことになってしまうからです。
事実、記事冒頭にはこう書いてあります。
直ちに領土交渉が動き出すということではなく、
首の皮一枚でつながっているといった状態です。
しかし、安倍首相がうまく対応すれば、
何とか領土交渉を進展させていくことはできると思います。
また(2)については、
「アメリカと中国は緊密な経済関係にあるのだから、
アメリカが中国包囲網に参加するはずがない」
という主張にたいする反論の箇所で示されます。
月刊日本はこれにたいし、
ならば経済関係の緊密化は、対立関係の解消
(=国際戦略における同調)をもたらすはずだから
ロシアとの経済関係緊密化は、
領土問題解決の基盤になりうる点を別にしても望ましいだろう
と述べているわけですが、
ここに「ロシアとの経済関係強化による対中包囲網形成」の発想があるのは明らかでしょう。
なお。
「高く評価すべきでしょう」の箇所ですが、
あれは「月刊日本は日露首脳会談を高く評価しているし、
読者もそうすべきだ」
という意味ではありません。
「米中の経済関係緊密化を根拠に、
アメリカは対中包囲網に参加しないと言うのなら、
ロシアとの経済関係強化は、
同国と日本の国際戦略同調に貢献するはずなので
高く評価しなければおかしい」
という意味です。
「高く評価すべきでしょう」の主語は、左翼・リベラルなのです。
にもかかわらず、月刊日本は玉田さんと違って
左翼がどうしてナショナリズムを説くんだ!
とか
経済協力先行批判は排外主義や差別感情の産物だ!
といった、
トンデモな左翼批判へと邁進していったのですよ。
では良いお年を。
せい says:
12月 30, 2016
最近、適菜収さんのラジオが一番面白いです。
これほど、安倍首相を保守じゃないとして、ボロクソに言う言論人は
私の知る中では、中野さんのメルマガ以来です。
最新刊のタイトルが「安倍でもわかる政治思想入門」ですから。
SATOKENJI says:
12月 30, 2016
適菜さんとは12月初めに飲みましたよ。
中野剛志さんも一緒という豪華メンバーでした。
tinman says:
12月 30, 2016
年の瀬の夜。
「夢見られた近代」を読みながら、マッチ売りの少女になっておりました。
荘子の胡蝶の夢を地で行くような本でした。
読後、「カウボーイビバップ」の、特に劇場版(2001.9.01)を見ると面白いかも。
その次に「国家のツジツマ」を読んだのですが、とてもよかった。
なぜか仏教書を読んでいるような気になる、不思議な本でした。
ブッダも中道を説いているのでそりゃそうだと言われればそうなのですが、
諸行無常に偏った物語を、諸法非我でバランスするという趣があるように思われました。
※非我、無我と言いますが、「総体としての私」はある(攻殻機動隊みたいですね)
参考:「私たちは仏教の文脈で、自我をいじめすぎていませんか?」
http://blog.goo.ne.jp/komamenet/e/a4c548d2bda3fdb284e7826a4e499579
全体として、物語の世界でマクロな抜苦与楽を考えるという慈悲に満ち、
表紙通りにミッシングリンクを埋めてくれる、対談本の鑑ですね。
藤井先生との対談もますます楽しみになります。
2つ読んで、漫画「攻殻機動隊2」の終盤をもう一度読みたくなりました。
昔読んだときは言葉が追いつきませんでしたから。
(数年前から友人に貸したままで手元にないのが残念)