もうすぐ画集の発売される平松禎史さんが
こんなツイートをしてくれました。
アルフレッド・ヒッチコック監督が
自作に登場する悪役について、
悪事を働くような状況にさえ置かれなければ
本来きわめてまっとうなうえ、
下手をすれば「善玉」よりも深い人間味を持った人物
として描く傾向があったことについて。
「敵」だから劣ってる・間違っているに違いない・
どんな攻撃をしても許される・・「敵」が褒めるものは間違っている(という発想)・・・
つまるところ「敵」に頼り自分で考えない空気に対する警鐘ですね。
まったくの正論です。
何らかの「悪」を否定することをもって
みずからの正しさの証拠としたがる者は
自分でも気づかないうちに
当の「悪」にたいして心理的に依存するようになる。
つまりは主体性を喪失するわけです。
その意味で最近
安倍総理を弁護したがる人々、
さらには総理本人にまで
都合の悪いツッコミを受けると
σ(`´メ∂!!民主党政権時代はもっと悪かった!!(`ヘ´)
と反論したがる傾向が見られるのは、困った話と言わねばなりません。
なるほど、民主党政権はしょうもなかったと思いますよ。
しかしですな、そこまでしょうもなかった政権と比較しないかぎり
自分たちの正当性を主張できない程度の政権は
そんなに立派なものでしょうか?
だいたい三橋貴明さんが指摘しているとおり
デフレによって国民を貧困化させている点では
安倍政権は民主党政権以下かも知れないのです。
というわけで
民主党政権時代はもっと悪かった
と主張したがる方には
「劣っている敵」を自己正当化の道具に用いずにいられないのは、
自分で物を考えていない証拠!
という平松テーゼⒸを謹んで献上したいのですが、
どうも最近は
さらにトンデモな現政権弁護論が出回っている様子。
すなわち、
現政権には確かに問題があるが
民主党政権も同じだったのだから
悪いのはお互い様である。
だから問題はない!
という主張です。
こちらの記事をどうぞ。
民進、自衛隊日報もブーメラン 民主政権時に南スーダン「戦闘」報告
南スーダンPKOの日報をめぐる
稲田防相のWW答弁問題についての記事なのですが、
記者の小野晋史さんは
当初は「不存在」とされた日報が再調査で見つかった経緯自体は(お)粗末だった。
と認めつつ、こう述べているのです。
民進党は、日報に記載された「戦闘」という文言を問題視している。
PKO参加の前提となる紛争当事者間の停戦合意は崩れているという主張だ。
だが、ここで民進党が触れない事実がある。
旧民主党の野田佳彦内閣時代の平成24年春、
隣国のスーダン軍が国境を越えて南スーダンを空爆し、
他国のPKO部隊に被害が出るなどした。
そして当時の報告にも「戦闘」と記されていた。
それでも野田内閣は自衛隊の派遣を継続した。(中略)
いつものブーメラン芸だが、本当に懲りないとしかいいようがない。
民進党が稲田氏を追及している最中の12日には、
北朝鮮が新型の弾道ミサイルを発射した。
それでも2日後の国会では防衛相を相手に日報の話ばかり。
国民の生命財産に関わる重大事を脇に置く民進党に
政権を担う資格があるとはとても思えない。
言っては何ですが、
この人は自分が何を書いているか分かっているんですかね?!
WW答弁問題の本質は
スーダンにいる自衛隊が危険にさらされる恐れが強いときに
政府がそれを直視しようとせず
いい加減な対応でごまかしていることにあるのですぞ。
にもかかわらず小野記者は、
かつての民主党政権だっていい加減な対応でごまかそうとしたんだから
防相に文句をつけるのはおかしい
という趣旨の主張を展開したのです。
現政権のあり方を弁護する口実さえ見つけることができれば
スーダンの自衛隊部隊がどうなろうと知ったことではない、
そう思っていると判断されてもやむをえないところでしょう。
いや、立派です。
じつにご立派。
この見識、ないしその欠如には敬服のほかありません。
そして「劣っている敵」(=民主党政権/民進党のしょうもなさ)に頼り、
自分で物を考えなくなった者のつねとして
小野記者もみごとに墓穴を掘る。
最後の箇所にご注目。
国民の生命財産に関わる重大事を脇に置く民進党に
政権を担う資格があるとはとても思えない。
おやおや、まるで民進党が与党として政権を握っているかのような書き方ですな。
しかし小野さん、心配ご無用。
目下、政権を担っているのは自民党です。
けれども民進党に政権を担う資格があるとはとても思えないとすると
ちょっとばかり困ったことになってしまう。
なにせ小野さん、記事の中で
民主党政権もスーダンPKOについていい加減な対応を取ったことを根拠に
現政権のいい加減な対応を正当化しようとしたのです。
民主党もダメだったんだから、自民党もダメで何が悪いという次第。
これで小野さんの言うとおり、
民進党に政権を担う資格があるとはとても思えないとすると
それは現政権について、いったい何を意味するでしょう?
W(^_^)\(^O^)/これぞ強弁と自滅のサンバ\(^O^)/(^_^)W
ブーメランをあげつらおうとすることが
そのままブーメランになるという
お粗末な一席でありました。
え? 何?
民主党政権と現在の民進党は違うから、その論理は成立しない?
だったらPKOにたいする民主党政権の対応を根拠に
現国会での民進党の追及を批判すること自体が
ナンセンスになってしまうではありませんか。
だ・か・ら
『右の売国、左の亡国』というのですよ。
ではでは♬(^_^)♬
5 comments
巷で不人気 says:
2月 21, 2017
しばらく読ませては頂いておりましたが、書き込むのは、はじめまして、、、だった気がします。
早速ですが、こちらの一文。
>当の「悪」にたいして心理的に依存するようになる。
過去にも佐藤さんは勿論、多くの、、、ではないか。少ない言論人が直接的間接的に「心理的な依存」という問題に言及していたことに改めて思い至りました。
私の実体験でもあります、、、
ある特定の主義主張をなされる方々は、私の批判内容が彼らの ○○主義○○思想 の対立概念であることを以ってして、或いは対立要素が多少含まれていることを理由に、
そして何より その☓☓主義的なものは過去に失敗した ことに依拠して、しばしば「悪」とご認定頂くことがありました。
いちいち過去の失敗を例に挙げないと反論できない思考のぬるさは、まさに心理的な依存の表れなのでしょう。
思うに「悪」に依存する思考は、過去ばかりを観ていて今どうなっているのか、これからどうなるのか、という予見を軽んじる傾向にあるように見えてなりません。
GUY FAWKES says:
2月 21, 2017
大体にして政権与党時代の民進党(当時は民主党)の失敗を批判して政権与党に返り咲いた癖に
それを自分達が解決できない根拠にできる訳がないのです。
そりゃ民進党がしょーもないのはわかりきった話でございますよ?
だったら「其奴らよりもより良い政治をする」と後に続くのが道理の筈ですよねぇ…
>「敵」だから劣ってる・間違っているに違いない・どんな攻撃をしても許される・・「敵」が褒めるものは間違っている(という発想)・・・つまるところ「敵」に頼り自分で考えない空気に対する警鐘ですね。
なんということでしょう、『平松テーゼ』はたった一文で『失敗の本質』以上にそれを暴き出している…!
SATOKENJI says:
2月 21, 2017
往年の自民党政権は
われわれは野党第一党たる社会党(現・社民党)より
まだしもマシなんだから文句を言うな
なんて、絶対に主張しませんでしたからね。
つまりは
そんなレベルで正当化を図るようでは
どのみち話にならない
という了解が成立していたのです。
GUY FAWKES says:
2月 21, 2017
「あいつもやっているからorあいつの方が酷いから、ボクちゃん悪くないもん」
こんなものが自己弁護・弁解にならないことぐらい、わざわざ私如きが記するまでもありません。
しかし現実にこれで稲田防衛相、ないしは現内閣の正当性を立証したおつもりになっておられるのだから
実にawesome(棒)
>往年の自民党政権はわれわれは野党第一党たる社会党(現・社民党)よりまだしもマシなんだから文句を言うな
なんて、絶対に主張しませんでしたからね。
「結果論として、戦後の自民党政治が成功し、幸福だったと言える面もありますが。
では私たちはなぜ自民党を批判してきたのかということが、今から思うとよく分からなくなってしまいます」(一部略)
–山◯JIRO教授 坂野潤治との共著『歴史を繰り返すな』(岩波書店 2014年)より
『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』でも挙げられたこちらのお言葉も
先の産経新聞における小野記者の記事を併読した上で『平松テーゼ』を踏まえて考えますと実に興味深い。
「いつものブーメラン芸…の様だがここで今一度考え直すべきだ。
長期安定政権を築きつつある第二次安倍内閣であるが、『戦闘状態』を否認する現実逃避の認識では
民主党政権を批判して政権を奪還しても本質的にリアリズムが欠けている。
自分達の足元を疎かにしていい理由などある訳もないが、それを民進党に託けるとは言語道断だ。
野党第一党に政権を担う資格があるとは毛頭思えない、しかし自衛隊員を含め、
国民の生命財産に関わる重大事を脇に置く与党にも懐疑的な目を向けざるを得ない。
かくして、日本の政党政治の危機的状況は臨界点に達していると見るべきであろう。
そ・こ・で、アスペクト社より近日刊行の佐藤健志による『右の売国、左の亡国』で
今こそバランス感覚を奪還しよう!(唐突で露骨な宣伝)」
中略以下の文章をこう書けば産経新聞さんも(ほんの少しは)お株が上がったでしょうに…
尤もこんな文は最後のギャグ的宣伝を抜きにしても『表現者』ぐらいしか書けないでしょうが(苦笑)
玉田泰 says:
2月 25, 2017
2)「政敵」の主張は条件反射で反駁する無脳的発想が状況を不毛にしているのでは?