中野剛志さんの本

「世界を戦争に導くグローバリズム」の第五章は

「ロシアの怒り」と題されています。

 

ここで展開されているのは、いわゆる「ウクライナ危機」をめぐる議論。

2014年3月、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は

ウクライナ南部のクリミア半島を制圧、

住民投票によってロシアに編入させました。

 

これによって、アメリカやEUとロシアは対立していますが、

じつはウクライナ危機、

必ずしもプーチン大統領の横暴に起因するものではありません。

 

その前にアメリカとEUが、

ウクライナをNATOやEUに加盟させようとすることで

ロシアを追い詰めていたのです。

 

ならばプーチンは「自国の安全と権益を確保する」という

国家指導者として当然の義務を果たしたにすぎないことになるでしょう。

 

つまりはこれも、

グローバリズム(ないし、グローバリズムを貫徹できないこと)が

新たな戦乱を生みかねない例なのですが、

関連して面白いものを見つけました。

 

アメリカの作家、ノーマン・スピンラッドさんが、

非常によく似た問題意識に基づいて

自身のサイト「NORMAN SPINRAD AT LARGE」に、プーチンへの公開書簡を発表していたのです。

 

アメリカ型の自由主義で世界が統一されることは

決して望ましくないのだから、

ロシアは反グローバリズムの先頭に立て! というもの。

 

スピンラッドさん、SFを中心に活動してきた人ですが

政治的センスもじつに鋭い。

1991年に発表した長編「RUSSIAN SPRING (ロシアの春)」では、

アメリカが宇宙開発に興味をなくしたあげく、

宇宙に出て行くにはロシアに頼るしかなくなった世界が描かれます。

 

現在、アメリカのスペースシャトルはすべて退役していますので、

本当にそうなったわけですが、

スピンラッドさんがこの本を出したのは、ちょうどソ連が崩壊した年!

 

あの時点でどれだけの人が、宇宙開発においてロシアが世界のトップになることを予想できたでしょうか。

 

ちなみにスピンラッドさん、アメリカという国のあり方についても、

じつに的確かつ辛辣な分析をしており

「コモン・センス完全版」の序論を書く際、非常に参考になりました。

 

しかるにプーチンへの公開書簡には「拡散希望」と書かれている。

希望者は誰であれ、

自国の言葉にこれを翻訳し、

適切と思われる形で広めてよいとのこと。

 

ただしフランス語だけは、「LE MONDE DIPLOMATIQUE」に掲載される可能性があるので

控えてほしいとのことでしたが。

 

私はスピンラッドさんに連絡を取り、日本語に訳して紹介したいと申し出ました。

ご本人からは「ていねいな連絡をありがとう。むろん許可する」との返事が。

 

というわけで、ここに日本語版を発表します。

ギリシャ語、ドイツ語につづく三カ国語目の訳です。

 

長くなるので、数回の分載とさせて下さい。

なお文中のカッコは、私による補足です。

 


 

ウラジーミル・プーチンに告ぐ!

ノーマン・スピンラッド

佐藤健志訳

 

ウラジーミル・プーチンに告ぐ。

いわゆる「西側」の連中は、貴君のことをサッパリ理解できずにいる。

おそらく貴君には、そのこと自体がサッパリ理解できないだろう。

 

推測するに、西側の連中が貴君を理解できない原因はこうである。

アメリカとEUは、自分たちの(自由主義的な)イデオロギーによって盲目同然となったあげく、自分たちが特定のイデオロギーにしたがって行動していることすら自覚できなくなったのに違いない!

自覚していないふりをしているのではなく、

本当に自覚できなくなっているのがヤバいところだ。

 

だがクレムリンから観察していれば、事態は明々白々のはず。

西側諸国の指導者もメディアも「国際金融資本主導のグローバル型市場経済」こそが

唯一普遍の望ましいシステムだと信じ込んでいる。

この信念自体が、特殊な物の考え方、つまりイデオロギーではないかなどとは思いもよらない。

 

彼らにとって、これは絶対の真理なのだ。

連中の御用学者フクヤマなど、「歴史の終わり」が来たと大言壮語する始末。

(注:フクヤマとは、アメリカの政治学者フランシス・フクヤマ。「歴史の終わり」は彼の著書名)

 

だがそのあと、西側は「経済の大停滞」を経験した。

そこから生まれた「新しい正常な経済(ニュー・ノーマル)」の実態とはいかなるものか?

巨額の政府赤字、大量の失業、下がってゆくばかりの賃金、

そして所得と生活水準に関する、グロテスクなまでの格差拡大だ。

 

国境を越えた自由な金融活動や、グローバルな市場経済の徹底こそが、

人々を豊かで幸福にするなどという自画自賛など、

この現実の前には、泣けるほど哀れなタワゴトでしかない!

 


刺激的でしょう?

つづきは明日。

 

スピンラッドさんのサイトをご覧になりたい方はこちらをどうぞ。

 

ではでは♬(^_^)♬