議論の正しさというやつ、
どこまでの条件を考慮に入れるかによって大きく変わります。
たとえばMMTの根本は
政府の信用創造能力は、
実体経済の供給能力とのギャップを問題とせずにすむかぎりにおいて無限である
というものであり、
政府の信用創造能力は無限である
と言っているわけではない。
このギャップが顕在化してくると、インフレが加速しますからね。
もっともMMTは、上記の条件をちゃんと考慮に入れていますので、
MMTの発想に従って積極財政をやったらインフレが止まらなくなる!
などと批判するのは当たりません。
あるいは昨日のブログで取り上げた桜田義孝議員の発言。
あれだって、
少子化の進行を考えると
女性一人が産む子どもの数は
わが国における養育費や教育費の実情、
および世帯収入の実情や、
住宅事情を無視しうるかぎりにおいて
最低3人ぐらいが望ましい
としておけば、
べつに間違ってはいないのです。
ただしこの場合、
そこまで非現実的な条件設定をしなければならないとは、
要するに「少子化を食い止めるなどムリ」ということじゃないか
と笑いものになるのがオチでしょうが、
そこはそれ、自己責任というヤツで。
笑う門には福来たる! みんな、笑っていいとも!!
エドマンド・バークもこう喝破しました。
現実の社会では、いかなる政治的理念も、具体的な状況と無縁ではない。
この具体的な状況というやつ、
ある種の連中には何の関心も引き起こさないようだが、
じつはこれによって、
同じ理念が異なる特徴を持ったり、違った結果をもたらしたりする。
本書39ページより。
さて。
EUからの離脱をめぐって
合意案をどうにかまとめようとしていたイギリスのテリーザ・メイ首相が
ついに万策尽きてギブアップ、
今週金曜、6/7をもって辞任することとなりました。
次期首相(つまり保守党党首)には
最有力と言われるボリス・ジョンソン元外相をはじめ、
ジェレミー・ハント外相、
ジェームズ・クレバリーEU離脱担当次官、
ドミニク・ラーブ元EU離脱担当相、
マイケル・ゴーブ環境相、
マット・ハンコック保健相、
サジド・ジャビド内相、
キット・モルトハウス住宅担当相(閣外大臣)など、
6月2日の時点で、すでに13人が名乗りを上げています。
来週までは立候補できるそうなので、
まだ増えるかも知れません。
しかし誰が首相になっても
ブレクジットを一体どうするのかという問題は残る。
5月末に行われた欧州議会選挙を見ても
イギリスではナイジェル・ファラージ率いるブレクジット党が第一党となりましたが、
第二党についたのは残留派の自由民主党。
どうぞ。
英国では早期の離脱を目指す「ブレグジット党」が3割超の得票率を獲得し、
国内第1党となった。
英国独立党(UKIP)と合わせると約35%の得票率となった。
一方でEU残留や2回目の国民投票を掲げる自由民主党も約20%の得票率を獲得した。
同じくEU残留を目指す緑の党も約11%で、
両党に親EUの地域政党を加えた得票率は、
ブレグジット党などの離脱派と拮抗する結果となった。
割を食ったのは従来からの二大政党、
つまり保守党と労働党。
民意があまりに二分化されたせいで
〈民意を一つにまとめ上げよう〉とする勢力が
どちらからも支持されずに負けた、
ということのようなのです。
とはいえ、民意を一つにまとめ上げる努力を放棄したら
EU離脱が達成できたとしても、
イギリスのナショナリズムは強化されないのではないか?
ナショナリズムとは、国民の結束なんですからね。
関連して興味深いのが、
欧州議会選の結果を受けたナイジェル・ファラージの発言。
彼はこう述べたのです。
10月31日にEU離脱がなされなければ
今日、わが党が勝ち取った成果が
きたる国内の総選挙でも繰り返されることになるだろう。
望むところだ!
おい、ちょっと待て!
それってつまり、
自由民主党や緑の党も次の総選挙で躍進するってことじゃないのか?
それでイギリスの民意はまとまるのか?!
ついでにファラージ発言には
EU離脱が達成できたら最後、ブレクジット党は支持を失う
という含みもある。
「ブレクジットをめざす党」なんだから、
それでいいじゃないかという声もありそうですが、
EU離脱の後、
イギリスが政治的にも経済的にも安定することを見届けるのが
離脱を推進する者の政治的責任のはず。
そもそもブレクジットは
イギリスの国家主権にたいする制約を取り除き、
ナショナリズムを強化するためにこそ
行われるはずだったと思うのですが
どうも今や「ブレクジットのためのブレクジット」
となりつつあるのではないでしょうか。
(イギリス人にとって)EU離脱は、
それがイギリスのナショナリズムを強化し、
その結果、国内の経世済民に資するかぎりにおいて望ましい。
この条件設定を再認識すべき時が来ているように思うのです。
しかも興味深いのは、
欧州議会選挙全体に同様の傾向が見られること。
日経の記事をどうぞ。
欧州議会選ではイタリアの極右「同盟」や
フランスの極右「国民連合」がそれぞれ国内で第1党を獲得。
両党が参加する欧州議会の会派「国家と自由の欧州」は
改選前に比べて21議席増となった。
ドイツの極右「ドイツのための選択肢」などでつくる反EU会派
「自由と直接民主主義の欧州」も13議席増やした。
おお、揺らぐEU!
と、言いたいところですが・・・
ただ親EU派も従来の中道の二大勢力は大きく議席を減らしたものの、
政策面で他党との違いをアピールした
リベラル派や環境会派は逆に議席を伸ばした。
なかでもEU懐疑派をしのぐ勢いをみせたのがリベラル会派のALDEだ。
選挙後の合流が有力視されるフランスのマクロン大統領の新党
「共和国前進」と合わせたリベラル会派は改選前に比べて41議席増えた。
「従来の中道の二大勢力」とは
欧州人民党(EUROPEAN PEOPLE’S PARTY, EPP)と
欧州社会進歩連盟(SOCIALISTS AND DEMOCRATS, S&D)のこと。
欧州議会の会派は、国籍を超え、政治信条によって形成されます。
現在、公認されているのは7会派。
「ALDE」は「欧州自由民主連盟」
(ALLIANCE OF LIBERALS AND DEMOCRATS IN EUROPE)の略です。
ふたたび、ちょっと待て!
EUに懐疑的な会派の議席増が34で、
従来の中道とは違う親EU会派の議席増が41って、
つまり欧州議会選挙は親EU派が勝ったということじゃないのか?!
「まあ、ヨーロッパも爽快ね!」(※)お姉さまのお言葉です。
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実際、
ALDEを率いるベルギー元首相
ヒー・フェルホフスタットは、
5月26日、ツイッターでこう勝利宣言したのですよ。
最も議席数を伸ばしたのは、
大衆迎合主義(ポピュリズム)政党でも極右でもなく、
われわれ親EUグループだ。
おいおいおい。
これで本当に、反グローバリズムは時代の流れなのか?
世界の歴史はイギリスから変わってきているのか?!
この状況では
かりにEUが解体・消滅の道をたどったとしても
各国のナショナリズムが強化されるかどうかは疑わしい。
つまり、ヨーロッパ諸国の経世済民が改善されるかどうかも疑わしい。
関連して興味深いのは
ロンドンのシンクタンク「欧州外交評議会(ECFR)」の調査です。
フランス、イタリア、ポーランドでは
なんと60%近い人々が
今後10〜20年のうちにEUが崩壊する
と考えています。
他方、どこの国でも若者(18〜24歳)の20%以上は
次の10年のうちに欧州で戦争が起きる
と考えている。
オランダ、ルーマニア、チェコ、ハンガリー、フランスなどでは
その比率が半数に達します。
これってつまり、
EU崩壊は戦争への道
ということではないのか?
はたせるかな、有権者の2/3は
EUは自分の国にとってプラスと支持しているとか。
EUへの反発は、
大枠としてのEUが存在しているかぎりにおいて正当である、
こういう条件設定がかかっているのではないでしょうか。
のみならず。
こんな話まで出てきているのですよ。
ヨーロッパの極右はやはりロシアとつながっていた
(ニューズウィーク、5月28日配信)
オーストリアで「国民党」と連立政権を組んでいた
右派政党「自由党」(当然、反EUです)の
ハインツ=クリスティアン・シュトラッヘ党首
(オーストリア副首相でもあります)について、
ドイツのメディアが隠し撮り映像を公開したんですが、
これがヤバかった。
どうぞ。
問題の映像は17年7月のもので、
シュトラッヘが酒に酔い、
ロシアの富豪の姪を名乗る女性に便宜供与を約束する様子が映っていた。
女性がオーストリアの大衆紙
クローネン・ツァイトゥングを買収してくれれば、
国内の主要インフラ工事を高値で受注させてやる――
シュトラッヘはそう持ち掛けていた。
それだけではない。
自分が目指すのは(ハンガリーのオルバン首相がしたように)
メディアを政府のプロパガンダ機関にすることだとも、
シュトラッヘは豪語している。
これによってシュトラッヘは自由党党首と副首相を辞任。
連立政権まで崩壊するにいたり、
9月に総選挙をやるハメとなりました。
と・こ・ろ・が。
イタリアも似たようなことになっている。
ポピュリズム政党の「五つ星運動」との連立で政権に参加した
極右政党「同盟」(旧称「北部同盟」)は、
党首のマッテオ・サルビニを副首相に送り込んだが、
この男は今やヨーロッパにおけるプーチンの最大の代弁者だ。
フランスでも、マリーヌ・ルペン率いる極右「国民連合」
(旧称「国民戦線」)が過去に、
ロシア政府とつながりのある銀行から融資を受けていたことは公然の事実だ。
イギリスでも、ブレグジット(EU離脱)推進派の一部に
ロシアマネーが渡っていた疑惑があり、当局が捜査中だ。
「ねえ、世界はどうしてこんなに爽快なの?」(※)お姉さまのお言葉です。
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そう言えば今日から
ドナルド・トランプがイギリス、アイルランド、フランスを訪問しますが、
5月31日、トランプはEU強行離脱派とされる
ボリス・ジョンソンを絶賛したとか。
おっと、これもプーチン・コネクションか?
トランプにもロシアとの関係をめぐる疑惑がありますからね。
・・・4月14日の記事
「反グローバリズムのはずのブレクジットが、
中華グローバリズムを利するかも知れない話」で、
私はブレクジットによるEUの弱体化が
ヨーロッパ各国のナショナリズムを強める以上に
中国の覇権確立に有利に作用する可能性を取り上げました。
けれどもEUグローバリズムの衰退は、
ついでにロシアのナショナリズムも強化するかも知れません。
そしてアメリカの国家情報局は今年1月、
報告書「世界における脅威の分析」において
今や中国とロシアは
1950年代半ば以来で最も強い結びつきを見せており、
これからも関係は強化されるだろう
と述べているのですぞ。
詳細は2月3日の記事
「北朝鮮はアメリカをナメているようだが、
それにも相応の根拠があるのかも知れない。」
をどうぞ。
EUグローバリズムへの抵抗は
1)視点を「EU対各加盟国」に限定したうえ、
2)反EUによって国民が分断されないという条件が満たされるかぎり
正当なことに違いありません。
EUが強化されてゆけば、各国の主権が制限されますからね。
しかし、そんなふうに視点を限定して良いのか?
反EUによって国民が分断されないという条件設定は正しいか?
この点を見落としたままだと、
例のフレーズが待っているかも知れませんよ・・・
物事を理解せずに行動することは
意図とは正反対の結果をもたらすのだ。
──『ブレードランナー』本編未使用の台詞
行動すればいいってものじゃない! まずは知性を鍛えるべし!
ではでは♬(^_^)♬
3 comments
GUY FAWKES says:
6月 4, 2019
今日までのグローバリズムがもたらした有形無形問わずの損失、ナショナリズムへの転換を図る上でのコスト。
これらを勘定に入れて赤字になるとわかっていてもナショナリズムを強化するのであれば、
それは中露のナショナリズムを利するのは至極当然のことですね。
そりゃそうだ…奴さんは国家資本主義を地で行く政策を地道に打ち出しては成功させている。
彼らは独裁体制を基に、独自のグローバリズムというなのナショナリズムを推進する為に中国はWTO加盟の後押しといい、
他ならぬ米国の後ろ盾を以ってここ十数年で大躍進してきた。
欧州諸国なんて個々の主張が強すぎるから無理矢理にでも統合をした結果がEU、それを変えるとならばEUを構築した過程で生まれた負の遺産を生産しなければならない。国家を破壊するグローバリズムを打倒せんとして、そのグローバリズムが統合を維持していたことを突きつけられるとは何たる皮肉!(いや、歴史的経緯を知れば当然か)
中野剛志さんも5、6年前に過去の著書で「米国は世界全体に軍を張り巡らせていることが返って自分らの身動きをとれなくしている、しかし中国は当面の間は東アジアにのみ注力してればいい」という旨を仰っていましたが、ここに来て一帯一路の進行具合をみると見事に予言的中ですね、いやはやお見事。
マゼラン星人二代目 says:
6月 7, 2019
>実体経済の供給能力とのギャップを問題とせずにすむかぎりにおいて
「信用創造の連鎖を制止すべき時点が少なくとも一点存在する」ということは、
「信用創造の連鎖を制止すべきいずれかの時点において、信用創造の連鎖を制止できる」というのと必ずしも同一ではない。
そこはどう考えられているのか。
斑存・フォード says:
6月 27, 2019
(200%まったくどうでもいい話なので削除構いません。)
>ギブアップ
メイ首相が辞めるとの報道で浮かんでいたのは、となりのトトロに出てくるめい(漢字が分からない)をさがす時のおばあちゃんでした。「メイしゃぁ~んっ!」の声は素晴らしい。
それとこれも200%更に倍っ!程に脱線してますが、sayaさんって石田ゆり子さん(妹さんは解りませんけど)に似ていることに最近気がつきました。もしかしたら男系か女系かわかりませんけどRootsは何処かで重なるのではないでしょうか?。
ワシはJTの缶コーヒーRootsが好みでしたントン。しかし日本政府は規制緩和で起業乱立馬鹿りするもんだから、JTの缶コーヒーと言うか食品事業は潰されたよう?です。思うに気がつかない程度に供給(多様性と言うべきか?)淘汰的(ある意味エスタブリッシュの政策思考もですね。)な面が80年代とは逆に水面下では怒って?いる気がしてなりません。
話がめちゃくちゃですね。失礼しました。