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香港というと

私などはジャッキー・チェンの驚異的なアクション映画や

ウォン・カーウァイの芸術的な恋愛映画などを

まず連想します。

 

しかしこのところ、香港は映画どころの騒ぎではなかったのは

みなさんご存じの通り。

 

香港特別行政府が2月に提案した

逃亡犯条例の改正案をめぐって

反対運動が大きく盛り上がったのです。

警察がゴム弾や催涙弾をなどを使って

強硬な態度で鎮圧しようとしたことが

かえって火に油を注ぐ結果に。

関連記事はこちら。

 

行政長官キャリー・ラム(林鄭月娥)は15日

改正案の審議の無期延期を発表、

16日には政情不安を引き起こしたことについて謝罪しましたが、

反対運動は収まらず、

改正案撤廃とラム長官の辞任を求めて

さらにデモを繰り広げています。

関連記事はこちら。

および、こちら。

 

ならば、この条例改正の何がそんなにヤバかったのか。

ニューズウィークが簡潔にまとめています。

 

現在ケースバイケースで対応している

刑事容疑者の身柄引き渡し手続きを簡略化し、

香港が身柄引き渡し条約を結んでいる20カ国以外にも

対象を広げるという内容だ。

改正案は、香港から中国本土や台湾、

マカオへの身柄引き渡しも初めて明示的に認めている。

 

今回の改正案が成立すれば、香港住人だけでなく、

香港に住んだり渡航した外国人や中国人までもが、

中国側からの要請があれば本土に引き渡されることになる。

元の記事こちら。

 

具体的には、引き渡し要請を受けたあと

法廷での審理によって最終決定するのだとか。

 

行政府いわく。

・これによって、香港は中国本土の犯罪者の「駆け込み寺」でなくなる。

・政治的、宗教的な訴追に直面していたり、拷問を受ける恐れがある場合、

引き渡しを阻止する「安全弁」がある。

・死刑に処せられる恐れがある容疑者も引き渡さない。

 

とはいえ中国においては、

政治的自由が制限されているうえ、

反体制派への抑圧・弾圧も珍しくない。

 

ついでに反体制派を抑圧・弾圧する場合、

「お前は政府を批判したな! 逮捕だ!」

ストレートに言うとは限らない。

何らかの犯罪をやらかしたことにして、

別件逮捕とくるのは良くあること。

 

要するにこの改正が成立し、

かつ乱用された場合、

中国政府から目をつけられた人物は

香港に居住・滞在するどころか、

もしかしたら飛行機の乗り換えで立ち寄っただけでも

逮捕されるかも知れないのです。

 

2014年に起きた反政府デモ

「雨傘運動」の中心人物の一人で

「民主の女神」とも呼ばれる女子大生

アグネス・チョウ(周庭)さんいわく。

 

今回の改正案は日本人の皆さんにも無関係ではないと思います。

皆さんが将来香港に来たり、観光したりする機会があると思います。

香港に来たら中国に引き渡されるかもしれないというのは、

沢山の日本人も不安に思っていると思います。

元の記事こちら。

 

「さすがのアタシにも、ちょっと爽快すぎる・・・」(※)お姉さまのお言葉です。

 

ちなみに今回の条例改正、

香港人が台湾で殺人事件を犯したのがきっかけですが、

チョウさんによればこれは表向きで、

要するに香港への支配を強めたい北京政府の指示で

やっているのだとのこと。

まあ、その可能性は濃厚でしょうね。

 

本当の理由は殺人犯の引き渡しではない、とみんなが思っている。

中国が好きじゃない人、

中国に反対する人、

人権を求める人、

そして中国で商売をしたり、

中国情報を持っている人に対して何か目的があるのではないか。

私たちのような活動家だけではなく、

中国の官僚と深い関係のある、

中国で商売をやっている香港人や外国人をターゲットにするのでは、と思います。

元の記事こちら。

 

・・・ただし。

 

今回の経緯を

自由や民主主義を守ろうとする若者 vs 独裁志向の北京政府

という図式でとらえるのは

分かりやすいし、

香港側に共感しやすくもあるものの

必ずしも正確ではありません。

 

やはり雨傘運動のリーダーで

ジョシュア・ウォン(黄之鋒)という青年がいます。

この5月に収監されていたのですが

17日に釈放、

中国への(容疑者)引き渡しに反対し、徹底的に勝とう

と宣言した人物。

関連記事こちら。

 

しかるにお立ち会い。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の

経営学部ブログに掲載された

ダヴィッド・カントーニ(経済学者・経済史家)

デヴィッド・ヤン(経済学専攻の大学院生)

ノーム・ユクトマン(経営学者・公共政策研究者)

連名の記事によれば

ジョシュア・ウォンさん、

こう述べているのですよ。

 

ハッキリさせておこう。

香港の人々は北京政府に抵抗しようとしているのではない。

中国が(返還の際の)約束通り

普通選挙で指導者を選ぶ自由をわれわれに与え、

「高度の自治」を許容するよう求めているだけなのだ。

元の記事こちら。

 

この発言が

自由や民主主義を守ろうとする若者 vs 独裁志向の北京政府

という図式と

どこかズレているのは明らかでしょう。

「北京政府に抵抗しようとしているのではない」のですから。

 

香港行政府を不必要に刺激しないよう

あえて抑えた表現にしたという可能性も

考えられなくはない。

しかし、LSEの記事の筆者たちは

より複雑な真相を暗示します。

 

いわく。

北京政府が香港に望むのは以下の三点である。

 

1)「一国二制度」のもと、自由なイメージを維持して

世界有数の金融都市(※)の地位を保ち、外国からの投資を呼び込む。

2)民主的な自治をなるべく制限し、中国共産党の支配を徹底させる。

3)北京政府に反対する動きを抑圧する。

(※)ニューヨーク、ロンドンについで世界3位。

 

しかしこの三つを同時に満たすのは不可能。

わけても(2)と(3)が達成されたら、

自由な香港のイメージはなくなってしまい、

(1)がパアになる。

いわゆるトリレンマ。

 

よって中国は長らく、

民主的な自治を制限しようとする代わりに、

北京政府への反対は黙認する

という方針を取ってきた。

 

だからジョシュア・ウォンは逆に

北京政府への反対をしない代わりに

民主的な自治を認めろ

と主張しているのだ、と。

 

これは非常に意味深長な分析です。

というのもカントーニ教授らは

香港の反体制派もトリレンマを抱えていると

ひそかに指摘しているのです。

 

反体制派の理想は、以下の三点が同時に満たされることでしょう。

1)「一国二制度」に基づく、自由で繁栄する香港の維持。

2)中国共産党の支配を受けない、民主的な自治の実現。

3)北京政府に反対する権利の確保。

 

しかしこの三点をすべて満たそうとしたら、

それこそ人民解放軍が介入してくるかも知れない。

よって(2)か(3)のどちらかを選ばねば

(つまりどちらを捨てねば)ならない。

 

ジョシュア・ウォンが「北京政府に抵抗しているわけではない」と述べたのも

こう考えると、まったく必然と言えるでしょう。

 

さらに注目すべきは

繁栄する香港の維持

については、

北京政府と香港反体制派の利害が一致すること。

 

香港が衰退・没落するのは

北京政府にとって望ましくありませんが、

かりにそうなったら、

香港の自由や自治を認める理由もなくなります。

しかるに激しい反体制デモがあまり続けば

金融都市としての機能に支障が生じかねず

香港の繁栄にダメージを与えかねない。

 

こう考えると、

今回の事態の根底にあるのは

「自由と繁栄はどこまで一体か」

という問題なのです。

 

20世紀後半の世界では

「自由を抑圧した状態で繁栄はありえないし、

一時的に達成されたとしても長続きしない。

自由の保障こそ、真の繁栄にいたる道なのだ」

という発想が支配的でした。

現に東西冷戦は、

政治的自由にたいして抑圧的だった

社会主義陣営の崩壊で終わっています。

 

けれどもそれから30年。

新自由主義やグローバリズムといった

過剰な自由によって

格差拡大や貧困化が生じることが明らかになりました。

自由の保障が、真の繁栄にいたる道かどうか、

いささか怪しくなったのです。

 

しかも中国が

政治的自由を抑圧したままであるにもかかわらず

経済大国への道をたどったのも間違いない。

自由を抑圧しても繁栄が達成されうるという

実例が登場したのです。

 

すなわち香港の逃亡犯条例改正をめぐる対立は

自由を抑圧しても繁栄は達成できるのだから

民主的な自治やら反体制活動を封じても大丈夫なはずだ

という発想(北京政府・香港行政府)と、

自由と繁栄は今でも一体のはずだ

という発想(香港の反体制派)の対立と見るべきではないでしょうか。

 

・・・過剰な自由が貧困をもたらすこと、

政治的自由が抑圧されたもとでも繁栄がありうることがハッキリした現在、

後者の立場は以前より分が悪い。

ジョシュア・ウォンが「北京政府への抵抗」を捨てているのは

その表れと見ることもできます。

 

だとしても、

自由を抑圧しても繁栄は達成できる

というのは

21世紀の世界は中国のもの

というにひとしい、

 

その意味においてこそ

逃亡犯条例改正問題はまさに他人事ではないのです。

 

自由を捨てることこそ、経世済民の王道!

 

20世紀に葬り去られたかに見えたこの発想が

じつは正しかったとなったら、

みなさん、どうしますか?

 

「対米従属に徹するほうが、まだマシだったりしてね」(※)お姉さまのお言葉です。

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ではでは♬(^_^)♬