北朝鮮情勢の緊迫を受けて
政府が「国民保護ポータルサイト」に掲載した
弾道ミサイル落下時の行動に関するQ&A
については、
すでに4月24日のブログで紹介しました。
で、このQ&Aなるものの内容が
ごく控えめに言っても話にならないもの
であることも、
4月25日、および26日のブログで紹介しました。
これだったら、
核弾頭や化学兵器弾頭のミサイルが近くに着弾したら、あきらめて下さい。
通常弾頭でも、直撃のときはあきらめて下さい。
心よりご冥福をお祈りいたします。
の三行ですませたほうが
読む手間が省けるうえに
内容がストレートに腑に落ちる点で
ずっとマシではないかと思うのですが、
そこはそれ、いろいろ事情があるのでしょう。
さて、このQ&Aをもとにした動画(英語字幕)が
YouTubeにアップされました。
題して
EXPLAINED! IF NUCLEAR MISSILES ARE FIRED TO JAPAN
(早わかり 日本が核ミサイル攻撃を受けたら)
いや、動画にすると
そのクールさ・・・
もとへ寒さがいっそう際立ちますね。
というわけで、ツイッターにはこんなコメントが。
Echoes of “When the Wind Blows”
Reassuring or terrifying?
No comparable prep in #ROK, presumably.
「風が吹くとき」を思い出す。
安心した、それともゾッとした?
どうも韓国では類似の広報をやっていないようだね。
ツイート主はイギリス人のジョン・ニルソン=ライトさん、
日本政治および国際関係の専門家とのことですが
ここで注目したいのは
ツイートに出てきた「風が吹くとき」。
これは「スノーマン」でも有名な
イギリスのイラストレーター・漫画家
レイモンド・ブリッグスさんが1982年に発表した漫画作品。
イギリスの田舎に暮らす老夫婦・ジムとヒルダが
自国への核攻撃が間近いことを知る。
国家は必ず国民の面倒を見てくれると信じるジムは
政府発行のパンフレットに基づいて
核攻撃への準備を始めるが
じつはそのパンフレット、まったくいい加減な内容のものだった。
やがて近くで核爆発が発生。
政府のパンフレット通りに行動したんだから大丈夫、
そう信じる二人は
救援が来るのを静かに待つが、
やがて放射線障害が深刻化、手を取り合って死んでゆく・・・
ブリッグスの絵は暖かみのあるものですが
それだけに涙なくして読めない内容です。
ちなみに作中に登場する「政府のパンフレット」の内容は、
ADVISING THE HOUSEHOLDER ON PROTECTION AGAINST NUCLEAR ATTACK
(家庭で出来る核攻撃対処法)
および
PROTECT AND SURVIVE
(身を守り生き残れ)
という
イギリス政府が実際に発行したパンフレットから
そのまま取られているとか。
「風が吹くとき」は大評判となり
1986年にはアニメ映画になりました。
監督はジミー・T・ムラカミさん。
日系アメリカ人で、日本名は「村上輝明」と言います。
音楽は反戦ロックの大物、
ロジャー・ウォーターズ(元ピンク・フロイド)が担当。
さらに主題歌はデヴィッド・ボウイという
じつに豪華なラインナップ。
このころのボウイは
「レッツ・ダンス」の大ヒットがむしろ裏目に出て
音楽的には方向性を見失っていた時期でしたが
さすがの貫禄で歌っています。
エンド・クレジットで流れるウォーターズの歌
「折りたたまれた旗」も
彼のベストの一つでしょう。
むろん、戦死者を埋葬するときに国旗を折りたたむことへの言及です。
そして「戦場のメリークリスマス」でボウイを起用した縁か、
日本語版はなんと大島渚さんが監修!
・・・しかし「この世界の片隅に」同様、
「風が吹くとき」についても、私は原作の方を推します。
この作品の本当の素晴らしさは
映画では再現できないところにあるのです。
つまり、コマ割り。
「風が吹くとき」の原作は大判の本ですが
ジムとヒルダの日常を描く場面では
コマが非常に小さい。
1ページに20コマ以上詰め込まれています。
つまり見開きだと45コマ前後。
ところがそこに
ICBMがサイロからせり出したり
戦略爆撃機が出撃したり
原潜が海中を航行したり
といった、核戦争につながる描写がインサートされる。
このときは、見開きすべてを使って
1つの巨大なコマにしているのです。
核爆発も当然、2ページで1コマ。
コマの大きさの対比によって
核による巨大な破壊の前には
日常生活などいかにちっぽけなものかを
ストレートに表現しているのですよ。
しかし映画では、場面ごとにスクリーンのサイズをガラッと変えるなど不可能。
どうしても、インパクトは弱まらざるをえませんでした。
とはいえ「風が吹くとき」を思い出すとは
ジョン・ニルソン=ライトさん、
ずばり本当のことを言ってくれたものです。
もうほとんど、
『右の亡国、左の亡国』という感じではありませんか。
おいジョー、そんなイデオロギーに取りつかれてどうしようっていうんだ?
自分が正しかったと証明はできるだろうさ
けど、お前の子供たちは生き返っちゃこない
幕を下ろせ
安っぽいメロドラマは終わらせなきゃいけない
冷たい風が吹く前に
(「折りたたまれた旗」)
なおウォーターズはこの6月、
25年ぶりとなるオリジナル・ソロアルバムを発表しますが
タイトルは
IS THIS THE LIFE WE REALLY WANT?
(われわれは本当にこんな生活を望んでいるのか?)
とのことです。
ではでは♬(^_^)♬
4 comments
GUY FAWKES says:
5月 6, 2017
レイモンド・ブリッグスとは懐かしい名前です。
幼少期のクリスマスに絵本を読んだり、父がスノーマンのアニメ映画のVHSを買ってくれたりしました。
>国家は必ず国民の面倒を見てくれると信じる
『風が吹くとき』が刊行されたのは1982年、フォークランド紛争の真っ只中でしたね。
また、第二次大戦後の英国では「ゆりかごから墓場まで」という言葉にみられる様な社会福祉政策がとられていましたが、
上述のフォークランド紛争を指揮した“鉄の女”ことサッチャー首相の政策転換によって
医療福祉が機能不全になっていた歴史と並行して読み進めますと…なんとも意味深長な洞察を見出せます。
この作品は単なる核戦争への恐怖という反核・反戦イデオロギーよりも、
保守主義が新自由主義と合致した末にイギリスの原風景が破壊されていくことを核ミサイルと
衰弱死する老夫婦という存在を通して描いていたのかもしれません、戦後日本がゴジラを用いてきた様に…
半ライス大盛 says:
5月 8, 2017
風が吹くとき。。。。懐かしいです。
アニメは絵本の画質を上手く表現してあって良くできた
アニメだなぁとは思っておりましたが、音楽がピンクフロイドだったとは、、、
ピンクフロイドと言えば、全日のタイガージェットシンの入場テーマ曲が
そうだったような記憶が有ります。
アニメには、絵柄や音楽が付いている分、時代性が出てしまいますね!
Joan Chandos Baez says:
5月 10, 2017
The answer is blowin’in the wind…
How many roads must a man walk down
Before you call him a man
Yes,’n’how many seas must a white dove sail
Before she sleeps in the sand
Yes,’n’how many times must the cannon balls fly
Before they’re forever banned
The answer,my friend, is blowin’in the wind
The answer is blowin’in the wind
How many times must a man look up
Before he can see the sky
Yes,’n’how many ears must one man have
Before he can hear people cry
Yes,’n’how many deaths will it take till he knows
Before too many people have died
The answer,my friend, is blowin’in the wind
The answer is blowin’in the wind
玉田泰 says:
5月 13, 2017
「レッツ・ダンス」ボウイは常にその時代を対象化することで音楽性をリニューアルする人でしたが、80年代のある意味ロックのバブル期を対象化しきれずに飲み込まれてしまった、あだ花のようなアルバムでしたね。
ウォーターズは「ウォール」の再現を、今度はメキシコ国境するかもとか?
「風が吹くとき」今回初めて読みました。核が落ちてあっさりと死ぬのだろうと高をくくっていたら、落ちてからの描写が長かったです。少しずつ汚染されて死んでゆく過程が、段々とくすんで行く色彩と共に表現されていました。それが居たたまれない程しつこく続き、リアルな恐怖を感じました。二人が最後まで政府を信じ、楽観的なのも逆に恐ろしい。
ただの風刺漫画を超えて胸に迫りました。