しばらく前、
玉田泰さんからこんな質問がありました。
要点を抜粋しましょう。
僕は先生の著書に触れることで、保守に目覚めました。
(幼い頃のプチ左翼的な思い込みから始まった思想的変遷の終着点だと考えています)
肉体的には前にも少し書きましたが、
今年、三か月程で10キロ以上減量しました。
他にも幾つか大きな変化が個人的に有りますが、
それらは自分が変革期にあるからだと考えています。
ですが、保守主義は急激な変化を嫌うんですよね。
僕にとって大きな矛盾が生じています。
僕は自ら選び取った保守主義に依って自己否定しなければならないのでしょうか?
質問全文をご覧になりたい方は
6月1日付記事のコメント欄をどうぞ。
玉田さんによれば、
大きな変化(の一つ)は禁煙とのこと。
西部邁先生のような愛煙家の保守主義者であれば、
煙草を目の敵にするのは、戦後の悪しき生命至上主義の表れだ!
とかいう話になるかも知れません。
じつは私も、ずっと以前は吸っていたことがあるのですが
喫煙をやめてすでに20年以上になりますので、
それも踏まえてお答えしましょう。
これは要するに
保守主義はなぜ急激な変化を嫌うのか?
ということに関わるものです。
拙著『本格保守宣言』でも論じましたが、
保守の根本的な目的は
物事をできるだけ望ましい状態に保つこと。
そのために変革が必要なのであれば
それはそれで認めるのですよ。
しかし急激な変化、
および抜本的な変化は往々にして
物事をできるだけ望ましい状態に保つことに失敗する。
コストがかかりすぎたり
思わぬ副作用が生じたり
反動が起きやすくなったりするためです。
だから保守主義は急激な変化を嫌うのですよ。
物事をなるべく変えず
変えるときもゆっくりやるというのは
つまりは成功の確率を高めるための知恵なのです。
禁煙の場合でいえば
煙草を吸わなくなるのはいいとして
禁煙クリニックの費用がかさむとか(→コストかかりすぎ)
ストレスで酒量が増えるとか(→副作用)
気がついてみたらリバウンドして、前より多く吸っていた(→反動)
なんて顛末になったらまずいでしょうに。
逆に進歩主義とは
物事をできるだけ望ましい状態に保つには
できるだけ広範な規模で
かつ、できるだけ早く変革してゆくのが良い
と考える理念。
物事をどんどん変えてゆき
かつ、変えるスピードも迅速にすることこそ
成功の確率を高めることにつながると構えるわけです。
というわけで
玉田さんが心身ともに以前より望ましい状態になるかぎりにおいて
禁煙は保守主義と矛盾いたしません。
ちなみに私は目下、
骨折によって硬くなった足首の皮膚や筋肉を
リハビリで柔軟にしようとしていますが
担当の医師や理学療法士からよく言われるのは
焦って無理をしてはいけないということ。
身体には身体の
自然な回復のペースがあるわけで
それを強引に速めようとすると
かえって状態が悪化しかねないのです。
これがつまり
変革に関する保守の知恵ということではないでしょうか?
ではでは♬(^_^)♬
5 comments
くらえもん says:
6月 17, 2016
禁煙の場合は一般的には徐々にやるとかえって依存性が悪化して、禁煙失敗の確率が上がってしまうので、徐々に本数を減らしていくよりも急にやめた方がよいとされております。もちろん、徐々にやめてうまくいく人もおりますが、確率的な話です。
物事には徐々にやった方がよいものもあれば、迅速にやった方がよいものもあると思いますので、リハビリと禁煙を同列に語るのは不適切かもしれません。嗜好品の中には急にやめるとストレスを増大させるものもありますが、タバコに関しては徐々にやめた方がよりストレスを増強させる傾向にあるようですので。
また、補足ですがタバコにストレス解消効果は存在しません。ストレス解消と錯覚されているのは禁断症状(ニコチン切れ)から逃れられるためであり、禁煙成功後はストレスが増加するどころか、むしろストレス指数が低下することが知られております。
SATOKENJI says:
6月 17, 2016
ありがとうございます。
禁煙は、やるならスパッとやめた方がいいというのは、おっしゃる通りだと思います。
変革が成功するかどうかを慎重に見極めたあと、
迅速さが必要ならば迅速にやるのが良い、
というところではないでしょうか。
ちなみに私の場合、なんとなく煙草を吸わなくなって、そのまま・・・という展開でした。
夜更かし says:
6月 17, 2016
はじめまして。
この記事を読ませて頂いて思ったのですが、
人々はこと健康の事となると自然に保守的な態度を取ることができるというのが、私には妙に不思議に感じられます。
たとえば、健康や医療にまつわるスタンスにはこんなものがありますよね:
・たとえ難病に苦しむ人を目の前にしても、新薬は限られた条件下でしか処方も認可もするべきではない
・原理が解明できなくても歴史的に有効とされる薬剤や治療法は使ってよい
・体重ダイエットや体質改善は無理にせず、ゆっくりと毎日の運動や栄養バランスを考えておこなうのが最善だ
・例え重大な副作用があったり、病気を根治できるものでないとしても、医学史的・統計的に裏付けられた基準による処方箋には従った方がよい
…これらの考え方は、「理屈の上では正しいことを急進的に改革するのは止めて、石橋を叩いて渡ることに終始するのが大抵一番マシ」という点において保守的ですが、いかに革新主義的な人や合理主義的な人であっても比較的これらの考え方を共有しているのではないでしょうか。
推測するに、「健康」というものは我々が日々直接的に関わりのあるリアルな物事なので、「理論上正しい手術であれば、まったく前例がないとしても容易に自分の命を預けられる」といった言説について、医学の知識に頼らずとも、その危うさやリアリティのなさを感知するのが簡単なのかもしれません。
しかし、それならば、「健康」だけでなく「政治」や「社会」だって「自分達に日々直接的な関わりのある、至極リアルなもの」のはずです。
「健康」に対するのと同じように、みんなもう少し政治的・社会思想的に「慎重な姿勢」、つまり「保守的な姿勢」を取ってくれたって良いはずです。
「健康」と「社会」の間には一体どんな溝があるのでしょう…?
Guy Fawkes says:
6月 18, 2016
すいません、当記事の保守的な話から一つ思い立ったので関連してある創作物を取り上げたいと思います。
それは今から5年前の2011年3月9日(←時期に注目、欧州では3月11日に発売)にアメリカで発売された
架空戦記FPS(一人称視点シューティングゲーム)作品、その名も「HOMEFRONT(ホームフロント)」
物語は2012年、北朝鮮の金正日総書記の死去を受けて(発売当時は存命だった事に留意)後継として就任した金正恩が
朝鮮半島南北統一を成し遂げノーベル平和賞を受賞、大朝鮮連邦(Greater Korean Republic)が誕生、
軍事プレゼンスの必要性低下を受け在韓米軍が撤退。
その後の2015年、石油資源の危機感が続く中、サウジアラビアとイランの紛争が勃発(現実では紛争勃発まで行かずとも、
国交断絶状態になっている事に留意)、ロシアの欧州向け原油供給削減により価格急騰。
なんと翌年2016年、米軍が日本を筆頭とする東アジア諸国から全面撤退!(現実では今年、トランプ現象が席巻)
社会情勢不安を受けアメリカ全土で戒厳令が布告、更に大朝鮮連邦の特殊部隊が「中国の原子力施設」を攻撃し破壊!
日本に対しても「降伏しなければ同じ運命を辿るだろう」として日本はASEAN諸国と共に全面降伏、
以後六ケ所再処理工場を利用される等の属国となる。
遂には大朝鮮連邦は人工衛星をカンザス州上空で爆破、EMP(電磁パルス)を発生させアメリカ全土のインフラを破壊。
そして、2026年。大朝鮮連邦はアメリカ本土への大規模侵攻を行いほぼ全土を支配下に収める…
一言に荒唐無稽な世界観なのですが実際のゲームシステムは兎も角、設定が予言的にかなり的中している事に驚きました。
しかも、この脚本を執筆を担当したのは何方と思います?
なんとマーロン・ブランド主演、フランシス・フォード・コッポラ監督作「地獄の黙示録」のジョン・ミリアスなんですよ!
尚この作品、先月に続編が発売されています。その名も「HOMEFRONT the Revolution」
レボリューション(革命)と聞いて、ここで連想するのが西部先生のお言葉…「アメリカは左翼国家である!」
現実では所謂・社会主義国として未だに体制を崩さない大国化した北朝鮮と
日本保守層の大多数が崇める対象として存在するアメリカに共通する言葉…「革命」
創作物とはいえ、劇中ではアメリカから大朝鮮連邦の属国となった日本を鑑みると…なんとも意味深長な洞察を抱かせるのです。
申し訳ありません、とんでもない長文になってしまいましたorz
お手すきの際によかったら調べてみてくださいね。
玉田泰 says:
6月 19, 2016
拙い質問に答えて頂きありがとうございます。
それなのに何故書き込みが遅れたかと言うと、この時点ではまだ禁煙していなかったからです。(苦笑)
取り敢えず、禁煙開始から24時間経ちました。タバコに乾いた飢餓感は有りますが、一服したくなると一々自分と対話して吸うべきか判断しています。、今のところ、答えは吸わない方がいい、です。
先生の、禁煙は保守主義と矛盾しないとの言葉に勇気づけられ禁煙しましたが、タバコのことばかり考えています。でもそれで良いんです。先生のおっしゃる通り焦って無理するのはいけません。タバコのことばかり考えるのは、何十年も吸ってきたのだから当たり前と受け入れることにしました。
また、くらえもんさんの指摘の通りに一気にやめました。ニコチンガムを噛んだりして未練がましいよりもいいと思います。
保守っぽく(笑)、禁煙出来たらと思います。