人間のホンネというのは
何気なく口にしたことに
えてして最も良く表れます。
というわけで、ご紹介したいのが
産経新聞のこの記事。
支持率急落の安倍晋三首相に今贈りたい言葉「是非に及ばず」
愚直に国民目線で政権を運営することに尽きる
都議選の大惨敗以後、
内閣支持率の低下が止まらない状況を論じているのですが、
書き出しはこうなっています。
「是非に及ばず」。
戦国武将の織田信長が本能寺の変に際して発したとされる言葉です。
意味は「当否や善悪を論じるまでもなく、そうするしかない」ということで、
信長は明智光秀の謀反という現実を目の前にして、
討ち死にを覚悟したうえで「迎え撃つしかない」と達観した心境に至りました。
第2次安倍政権発足以来、
最大の危機を迎えている安倍首相の心中はいかばかりでしょう。
「自分が大きな失政をしたわけでもなく、こんなに頑張ってきたのに、
なぜこんなことになっているのか」という思いもあるのではないでしょうか。
そこで今、安倍首相に贈りたいと思う言葉が「是非に及ばず」なのです。
安倍首相は内閣支持率に一喜一憂することなく、
低迷し続けることをも覚悟して、
「是非に及ばす」流に達観した心境で「“そうする”しかない」と思います。
2014年の消費増税いらい、
わが国の実質消費は、ほぼ一貫して減少しています。
三橋貴明さんによれば、これは憲政史上初とのこと。
むろん、デフレ脱却も達成できていません。
よって
安倍総理が「大きな失政をしたわけでもなく、こんなに頑張ってきた」かどうかは
控え目に言っても疑問の余地があるものの
これは脇に置きましょう。
問題の記述は、総理の心境にたいする推察であり、
文字通りの忖度(※)だからです。
(※)「他人の心中をおしはかること。推察」(広辞苑)
また「内閣支持率に一喜一憂することなく」とか言っていますが
現在の低下傾向に歯止めがかからなければ
安倍内閣は遠からず退陣に追い込まれる。
で、記事の筆者も内閣改造に関連して
顔ぶれによってはさらに支持率が下落する可能性がある
と認めているのですぞ。
退陣ロードまっしぐらではありませんか。
「一喜一憂することなく」もないものですが
これも脇に置きましょう。
当該記事で注目されるのは
明智光秀の謀反にあったときの織田信長の言葉を
内閣支持率の急落にあっている安倍総理に贈るという
根本の発想そのものだからです。
これはつまり、
家臣の謀反と支持率急落とがイコールに扱われているということ。
となると、ふつうに考えるかぎり
記事の筆者は
国民が安倍内閣を支持しなくなったのを
「家臣の謀反」「裏切り」と見なしているのではないか?!
それは誤解です!
・・・なんて声が聞こえてきそうですが
二つの出来事をモロに重ねる形で書いている以上、
そう受け取られても仕方ないでしょう。
信長は討ち死にしましたが、安倍首相はまだ退陣に追い込まれているわけではありません
なんて、しっかり書いてあるんですからね。
(↓)ついでに「誤解」の真の意味については、こちらの「政治経済用語辞典」をどうぞ。
それはまあ、「是非」に及ばないのですから、
国民の「裏切り」について、善悪を論じている場合ではない
(=支持率急落を「悪」と断定しているわけではない)
ということにはなります。
ただしこの記事は総理について
「大きな失政もなく、こんなに頑張ってきたのに」と忖度している以上、
ふたたびふつうに考えるかぎり
支持率急落について「悪」と見なしているものと解釈せざるをえません。
だいたい光秀は謀反を起こしたのですぞ。
信長の視点に立てば悪いに決まっているでしょう。
「是非に及ばず」についても
謀反の善悪に言及しているのではなく
「光秀が本当に謀反したのか、情報の真偽を論じている場合ではない」という意味だ
とする説があるようです。
とまれ上記の点を総合すると、記事にひそむニュアンスは以下の通り。
1)国民は安倍総理の家臣である。
2)したがって、国民は総理を支持する義務がある。
3)ゆえに不支持に回るのは悪しき反逆行為である。
おいおいおい!!
さらに。
信長は「光秀の軍勢を迎え撃つしかない」と決意したそうですが、
これを安倍総理にあてはめたら、どうなるか。
そうです。
総理が迎え撃つべき相手は
不支持によって政権を裏切り、退陣に追い込もうとする悪しき国民だ
ということになるのです!!!
いや、じつにご立派。
感服いたしました。
炎上政治の極致といっても過言ではありません。
こう言っては何ですが
この記事の論理構造と、
そこにひそむ意味合いが広く理解されたりしたら
内閣支持率はそれだけでまた落ちるんじゃないですかね?
・・・と思ったら、
その必要すらなかった模様。
どうぞ。
<内閣支持率>続落26% 初の2割台 不支持56%
毎日新聞は22、23両日、全国世論調査を実施した。
安倍内閣の支持率は6月の前回調査から10ポイント減の26%、
不支持率は同12ポイント増の56%。
7月21日の記事
「グッバイ憲法改正、または『反安倍炎上』の可能性」でも書きましたが
まさに
支持率が急落しているという理由で、さらに支持率が急落する
という感じです。
しかし26%とは。
退陣水域(20%以下)まで、あと6%しかありません。
これがホントの「是非に及ばず」!
この場合は「しかたない」「どうしようもない」の意です。
ではでは♬(^_^)♬
(↓)そう、あらゆる革命は指導者への支持を強要することに行き着くのです。
6 comments
Daniel says:
7月 24, 2017
安倍内閣発足当初から、遠からず、かかる瓦解の日を迎えることになるだろうと周囲に公言して、リベラル系からは苦笑されたり、保守系からは気色ばまれたり冷笑されたりして参りましたが、、安倍政権も正直、良くここまで持ち堪えたものです。
日本経済の足腰が、私の想定よりもしっかりしていたことが主因でしょう。
まぁまだ別に退陣したわけでもなく、挽回の可能性が消滅し切ったわけでもないですが。
一に最大看板の経済政策で失敗するであろうこと、二に止むことのない構造改革路線がいずれ国民と衝突するであろうこと、三に強引な政権運営で足を引っ張られることになろうこと、概ね全て企図した通りです。
一応、それなりの功績も一方ではあります。日米同盟やテロ対策等において、安全保障の穴を大分と埋めたこと。日露、日米外交等において、それなりの存在感を発揮したこと。当初だけではあれども、財政金融政策に一定の成功を収め、貴重な経済政策の教訓を得たこと、などです。
一番惜しむらくは、安倍総理が、後継者の育成、もしくは後継政権への移行の想定を考えていなかったため、まともな次政権への展望が国民にも全く見えないことです。きっとそうなるだろうと思ってはいましたのでやっぱりかとは思いますが、次世代の育成は、為政者の最大の責務の筈で、小泉政権ですらそれはやっていたのに、一体この問題、どうするんでしょうかね?
一般国民としては、この焦土の中から、次のリーダーの良き出現を祈るのみです。戦国時代に、庶民が、次の天下は今川がいい、いや織田がいい、などと言ってみたところで、何の意味もないことです。只の民草にとっては、行く末を信じて、気の置けない人と笑い合い、今日の糧を得ることが一番大事なことです。
それと、私個人としては、「右も左も燃え落ちる」という、「炎上政治」への視点が先生から学べたこと、比較的時間の猶予に恵まれ、深い思索が色々得られたことが良かったです。先生、皆様、どうもありがとうございました。
Daniel says:
7月 24, 2017
追伸:
そういえば、一つだけ気になったことがありました。先月半ばくらいでしょうか。生れて初めて中国大陸へ行く機会がありました。
泥棒やスリ、銭ゲバの詐欺師、ゴーストビルディングに満ち溢れたトンデモない国で、とっても面白かったのですが、案内の中国人が、「いやぁ、安倍さん(謂わずと知れた日本国総理)は、もうすぐ辞めることになりますから。」と堂々と言い切ってたのは気になりました。
確かに色々と安倍政権に行詰りの兆候はありましたが、支持率にまで特段の影響がみられなかった時期でしたので、何をもって彼はそう判断し得ていたのか、訝しく感じられたのを覚えています。
私の予見はあくまで中長期のものでしたので、短期予見であそこまで的確に言い切れたのは、何だったんだろうと。偶々なのか、何かあるのか、彼の能力なのか。ま、備忘録です。
中国政府が推進している交通インフラ整備は、なかなかのものでした。私は片側7車線(両側では14車線!)の高速道路区間を初めて見ました。今までの最高は、アメリカでの片側6車線のハイウェイでしたので、誠に壮観。日本の高速道路では、片側4車線もあれば、凄く広いなと思ってしまうのですが、何とも、やられたと思いましたね。
マゼラン星人二代目 says:
7月 24, 2017
いや、産経新聞の戦後かぶれぶりが堪能できて楽しい。
こんな戦後脳で戦後レジームの脱却とか、藁、みたいな。
敗死を前提に従容と戦に臨む。
いやしくも右のオピニオン紙を自らもって任じるなら、そこは「湊川」でしょうに。
それを、「戦国三傑もの」しか思い浮べることができない、それも、日本史のハイライトと言わんばかりに顕彰されているのが、秀吉をさしおいて信長ときた日には、もう。
戦後的な、あまりにも戦後的な歴史観。
Daniel says:
7月 25, 2017
ところで皆さん、昨夜(日曜夜)のNHK総合、「Geo Japan」視られました?
何だか、何だか、とっても感動しました。日本列島は、何と3000万年前辺りでアジア大陸の端から千切れて出来た島が合わさったものなんですって。
そんなに前から独立していたらしい。
いやぁ、国生みの神話を思い起しますな。まさしく「大八洲(おほやしま)」だ!
色々あるんですが、とにかく奇跡の島らしいですよ!?
やっぱりそうだったんだ。西日本と東日本の違いも、よっく分りました。
樺太だって日本列島だとも、更によっく分りました。
あの画像では分りません(わざと見せてません)でしたが、北方では千島やカムチャツカ、恐らく南方では台湾までも、どうやら、地学的には間違いなく日本列島であるようです。
どうして、極めて理地学的なプレートテクトニズムと、些かも文学的な「大八洲(おほやしま)」が、かくも一致するのか、ひょっとして演出か?(笑)
只のNHKの「劇」かも知れませんが、余りにも私の心を捉えてしまったので、ついついご紹介してしまいました。m(_ _)m
Daniel says:
7月 25, 2017
えーと、真面目な話、国民を裏切ったのは、どーー考えても、安倍総理だと思うんですけど。
(まぁそういう奴だとずっと思ってきたので、私ゃ驚きゃしませんが)
何でこんな倒錯した話に…。どなたか、解説のできる方、いらっしゃいませんか?
tinman says:
7月 31, 2017
根本の発想が大魔法峠並だったので、
なるほど、サカミチワヅカとはこういうものか!
と感嘆しました。
三沢さんのイメージされた坂は多分、黄泉比良坂のほうでしょうけど。