自民党は目下、
「日本を、取り戻す。」というスローガンを掲げています。
最近はあまり聞かなくなりましたが
撤回したという話は聞いていないので、
まだ「日本を、取り戻す。」つもりでいるものと考えて良いでしょう。
このスローガンについては
すでに「言葉と呼吸」カテゴリーの記事
「句読点を軽視すべからず」(全4回+おまけ)で、
日本語としての問題点を指摘しましたが、
具体的な内容という点でも、どうも判然としない。
つまりですな、
一口に「取り戻す。」と言いますが
ここで取り戻そうとしている日本は、
一体、いつごろの日本でありましょうか?
戦前とは、ちと考えにくい。
明治維新以前は、さらに論外だろう。
敗戦直後というのもねえ。
となると、候補は絞られてきます。
高度成長期(1950年代後半〜1970年代初頭)か、
バブル繁栄期(1980年代半ば〜1990年代初頭)。
2020年、
1964年いらいとなる東京オリンピックが開催されることを思えば
前者と考えるのが妥当でしょう。
たしかにあの頃は、日本全体が希望に満ち、
上を向いて歩いていたイメージがあります。
ただし時代をめぐるイメージというものは、
往々にして当時の現実とはズレていることもあるのですが、
それは脇に置きましょう。
しかしですな。
英語のことわざには、こんなものがあります。
YOU CAN’T GO HOME AGAIN.
直訳すれば「家に戻ることはできない」ですが
この「家」とは実家のこと。
いったん実家を後にしたら
かりに戻ったところで、昔の状態が再現されるわけではないという意味です。
要するに「古き良き時代は取り戻せない」の意。
そして2014年の日本はどうなっているか。
昨日の記事でも取り上げたように、足下からかなりさびれてきています。
「上を向いて歩こう」の時代を
本当に取り戻せるんですかね?
対内的にも、対外的にも、あのころとはまるで状況が違う。
過ぎ去った時代というものは
結局、二度と戻ってこないのではないでしょうか?
ちなみにこの街には、
それを象徴するような光景がありました。
閉館となった映画館ですが、最後に上映された作品のポスターが残っています。
スタジオジブリの「コクリコ坂から」(宮崎吾朗監督、2011年)。
同作品の舞台は1963年。
まさに「上を向いて歩こう」の時代。
事実、映画の宣伝スローガンは「上を向いて歩こう。」なのです。
つまりこの「マウント劇場」は
高度成長期の夢を描いた作品を最後に閉館したことに。
それどころかスタジオジブリまで
上を向いて歩くどころか、
右肩下がりの時代に入ります。
2013年の二大作「風立ちぬ」「かぐや姫の物語」はともに赤字。
「かぐや姫」はもともと赤字覚悟のところがあったと思いますが、
大ヒット作「風立ちぬ」もそうなのです。
製作費がかかりすぎたもので。
今年の「思い出のマーニー」も
少女版「嵐が丘」とも呼ぶべき
なかなかの作品だったものの、
今のところ、興行収入は30億円程度。
「コクリコ坂から」(約45億円)の2/3、
「風立ちぬ」(約120億円)の1/4です。
「マーニー」も赤字じゃないでしょうか。
(注:映画の製作側に入るお金は、興行収入の半分以下なのです。
そして作品から判断するかぎり、「マーニー」の製作費は20億円前後と思われます)
これについては「文化・アート」部門の記事
「さらばスタジオジブリ」(全4回)もご覧いただきたいのですが、
こんなありさまで本当に、日本に活力が満ちていた時代が取り戻せるのでしょうか?
付記するならば
もし自民党が本気で「日本を、取り戻す。」つもりでいるのなら、
戦後レジーム脱却については信用すべきではありません。
高度成長期であれ、バブル繁栄期であれ、
戦後レジームが最もうまく機能していた時期にほかならないのです。
ではでは♬(^_^)♬
10 comments
kazu says:
9月 10, 2014
おはようございます。
取り戻すからには、「誰から」取り戻すか、も重要に思います。
誰からどんな日本を取り戻そうとしてるのでしょうね?
それを示さないで「日本を、取り戻す。」と言われても現実味がありません。
今の政権を見ていると、よりわからなくなります。
buttmedd says:
9月 10, 2014
佐藤さんは、なぜこの界隈をご覧になろうと思われたのですか。
新宿との直通特急が発着する都市代表駅に近接している(?)こと以外、特筆すべき地区でもないように見えますが、ぶらりと立ち寄られて撮って来られたのだとしたら、佐藤さんの嗅覚に驚くばかりです。「コクリコ坂から」の記述にも、はっとさせられました。
地方の沈滞は公共事業への過度の依存体質と努力不足だ、という一方的な物言いがしばしば耳目に届くので、こちらもそれに倣いますが、大店法で一帯を焼け野原にして「地方創生」だなんて新興国のような真似を、仮にも保守政党を名乗っておきながらよくもぬけぬけと口にできるものだと思います。TPPが焼畑政策なら道州制推進も焼畑政策で、この政策看板を下ろさない以上、おそらく連中のいう「地方創生」も、外資を呼び込んで外資に好き勝手やってもらう「国中みんな特区」思想から半歩も抜け出せないものとみていいでしょう。
>高度成長期であれ、バブル繁栄期であれ、戦後レジームが最もうまく機能していた時期にほかならない
醸成した機運に「正気」という水を差す佐藤さんからいつも心強さを得て、つい長くなってしまいますが、ことばを蔑ろにし、関税自主権すら守ろうとしないような連中は、いずれ自国通貨だって平気で捨てると思っています。
マチコ says:
9月 10, 2014
おはようございます。
国家のツジツマに引き続き、震災ゴジラを読みました。VNCオフィシャルショップから購入した所
・初回購入で500円もポイントがつき、しかもその場で使えました
・送料0円
・初版版と第2版のブックプレートと、震災ゴジラの素敵なポストカードがついてきた上に
佐藤先生のサインらしきものが、初版版のブックプレートに書いてありました。
マジックで、「kenji」と書いてあるように読めるのですが、本物の先生のサインなのでしょうか?そうだといいのですが・・・。
震災ゴジラを読もうかなと考えている方は、VNC出版から直接購入するとお得だと思います。
本の内容は、すさまじく面白かったです。最近、保守カテゴリの自分が、、どうやって、今後の日本で生きていったらいいのか、わからなくて悩んでいました。本を読んで、腑に落ちたことがたくさんあったので、悩みの大部分を消化することができたくらい、衝撃でした。
私個人の感想なのですけれども、、佐藤先生は天才だと思いました。言葉使い、表現の的確さが、政治評論、映画評論という枠を超えていて、文章が、圧倒的に正確で、読みやすくて、頭に入ってきました。今、本を読み返しています。
日本を取り戻すとか、戦後レジームの脱却とか、書いたり言ったりしていたので、相応の覚悟があるかと思っていました。自民党・安倍首相という組織や人を見抜けなかった自分の部分を反省しています。もう少し、物の見方を深く、広くしたいと思います。
SATOKENJI says:
9月 10, 2014
ありがとうございます。サインはもちろん本物です。
Kenji Sato とフルネームになっています(途中、波のように跳ね上がるところがSです)。
25年ぐらい前に考案したものですが、
セルジュ・ゲンスブール(フランスの偉大なミュージシャン)のサインと、はからずも似ていたりします。
ご希望の場合、お名前を入れてサインしますよ。
そのかわり、少々日数がかかるのでご了承ください。
ちなみにVNCからは、もうすぐ新刊「リミックス増補版 夢見られた近代〜日本とアメリカ、危険なホンネ」が出ます。
マチコ says:
9月 11, 2014
おはようございます。
お忙しいところ、ご返信どうもありがとうございます。
サインはファイルに入れて大切に保存してあります。^^
新刊、とっても楽しみにしております。
今度、日本史の資料集を買って、震災ゴジラの本を片手に、江戸末期から現在に至るまでの年表をじっくり眺めてみようと思っています。。
SATOKENJI says:
9月 10, 2014
なお「少々日数がかかる」というのは、ブックプレートの送付に関する話です。
本そのものはすぐに届きますので、念のため。
マチコ says:
9月 11, 2014
著者のサインを名前入りでリクエストできる通販は、なかなかないと思います。
別々で送ってくれるって、サービスがすごい充実ぶりです。。(吃驚)
初回のポイントで本が500円割引になったのと、
さらに次回使えるポイントが130円ついてきました。本当に、お得です!^^♪
マゼラン星人二代目 says:
9月 10, 2014
>対内的にも、対外的にも、あのころとはまるで状況が違う。
>過ぎ去った時代というものは
>結局、二度と戻ってこないのではないでしょうか?
仰るとおりだとは思いますが。だとすると、「改革」ないしそれに類する概念を全否定はできなくなるのではないでしょうか。
というのも、「歴史の不可逆性」を説くのであれば、「今は未曾有の事態だ」とか「今までのやり方では通用しない」とかいった局面が、すくなくともどこかでは、あり得ることは認めなくてはならなくなる。
そして、そうした局面に然るべき(斬新な)対処で臨むなり、これをただ縦容と受けいれるなりする、というこの事を、人によって「改革」と呼んだり呼ばなかったりするのだと考えることができようからです。
Shinya Sato says:
9月 11, 2014
はじめまして。
まだまだブログや著作等拝見していないのですが、
三橋さんのメルマガと、チャンネル桜では、存じ上げております。
ちょっと、お伝えしたい事があったので。。。
場違いかも知れませんが、まず、今回の三橋さんのメルマガの、“「日本的魂」とは?”について、
私が思いを逡巡した挙句、辿り着いたのは、
「共存心」ではないかと思ったのです。
そういうバイアスで色々推察すると、まぁ、合点がいくかな、と。
「人の魂は、生まれつき宗教的である(オリギネス)」という言葉がありまして、
宗教心が失われると、魂の力も減退する(=ニヒルやジャンク等)のでしょうかね?
それと、安倍さんが言う、「日本を取り戻す!」というのは、
時代を通貫する、「日本的な、何か」だと思います。
漠然としていますが、自分探しなのか、見失った自分なのか、私には厳密な事は言えませんけども。
以上です。
カインズ says:
9月 11, 2014
青山繁晴ザボイスそこまで言うか!_2014年09月11日 http://www.youtube.com/watch?v=tUcNQ7a1vDQ
こちらを見てみましたが、「期間を定めた外国人労働者は移民では無い」と強弁する安倍氏の声色から、やはり現政権はあまり支持出来たものではないなと感じさせられました。