まず断っておけば、
医大に落ちた女性が知り合いにいるわけではありません。
渡辺美里が1989年に発表したアルバム
「FLOWERBED」を聴いていたら
「彼女が髪を切った理由(わけ)」という曲があったので
それにちなんだだけのことであります。
ちなみに美里さんには
「サマータイム・ブルース」という
じつにタイムリーな印象を与える歌もありますが
これについてはまたいずれ。
♬サマータイム・ブルース、サマータイム・ブルース、熱中症になったとしたら・・・♬
さて。
裏口入学疑惑によって
ただでさえ揺れている東京医科大学が
またまたやってくれました。
入試にあたり、
女子を中心とする一部受験生について
合格しにくくなるよう得点を恣意的に操作していた
という話が持ち上がったのです。
操作の方法については当初、
1次試験の女子の受験者の点数に係数を掛けて一律に減点し、合格者の数を抑えていた
女子の点数を10%以上一律に減点した年もあった
と報じられました。
ただし、これは十分に正しくなかったようで
のちに話がこう変わる。
1次と2次の結果が出そろった段階で、
全員の小論文の得点に一律「0・8」の係数を掛けて減点。
ただ、男子の場合、減点後に現役と1~2浪の受験生に一律20点を加点し、
3浪には10点を加えていた。
逆に女子と4浪以上の男子には一切加点していなかった。
この結果、2浪までの男子は、本来よりも小論文の得点が増えた可能性が高い一方、
女子と3浪以上の男子の得点は抑えられ、合格者数が抑制されていた。
得点操作方法についてのマニュアルも存在し、
入試を担当する学務課長の間で引き継がれていたそうです。
3浪以上の男子も加点が制限されるか、
そもそも加点されていない以上、
ここには男女差別というだけでは説明しきれないものがある。
しかし女子は現役だろうが何だろうが加点されないのですから
女性差別の性格が強いことは否定できません。
そして入試は男女平等のタテマエで行われてきたことを思えば
批判されるのは仕方ないでしょう。
しかるに面白いのは
関係者がこの点について並べている弁明。
ずばり、罪の意識が薄いんですな。
ある大学関係者いわく。
女性は結婚や出産で医師を辞めたり休職したりするケースが多く、
あまりに増えてしまうと大学病院の態勢を維持できないという危機感があった。
べつの元幹部いわく。
どこの医大でもやっている。不正という認識はなかった。
体力的にきつく、女性は外科医にならないし、
へき地医療に行きたがらない。
入試を普通にやると女性が多くなってしまう。
単なる性差別の問題ではなく、日本の医学の将来に関わる問題だ。
医師でタレントの西川史子さんもテレビでこのように発言。
(東京医大に)限らないです。全部がそうです。
上から取っていったら、女性ばかりになっちゃうんですよ。
だから眼科医と皮膚科医だらけになっちゃうんですよ、世の中が。
(女性の)外科医は少ないです。
やっぱり外科医になってくれるような男手が必要なんです。
お腹が大きくて手術はできないんです。
「ふーん、男の子ってバカなんだ」(※)個人の感想です。
してみると女性医師は
「生産性」(Ⓒ杉田水脈)が高くあるべきではない
という話になりそうですが、これは脇に置きましょう。
ついでに東京医大の得点操作法を踏まえると
三浪した男子は女々しくなってゆき
四浪以上は完全に女になる
という、じつに興味深い結論が出てくるものの
これも脇に置くことにします。
「どういうクライテリオンにもとづく結論だ?!」(※)個人の感想です。
とはいえ、ここで紹介した三者の弁明が
じつは何の弁明にもなっていないことは指摘しておかねばならない。
なぜか。
1)女性医師は特定の部門に集中しがちなので、
医大合格者の男女比を操作する必要があるということは
それを公表せずにすませてよいことを意味しない。
たとえば男子校が女子の入学を認めなかったり、
宝塚歌劇団が男の役者を認めなかったりしても
差別だという話にはなりません。
性別を限定することが前提になっているからです。
ついでに演劇においては
女優のほうが男優より役をもらうのが難しいのは常識。
たいていの戯曲では
登場人物の男女比が7:3か8:2ぐらいになっているからです。
しかし、シェイクスピアやモリエールを男尊女卑と批判する人はいないでしょう。
「というか、いたらタコだ」(※)個人の感想です。
同様、なぜ医大はこうハッキリ言わないのか。
医療は人々の命に直結する分野です。
よって本学は、あらゆる部門の医師をバランスよく育成する責任があります。
しかるに女性医師は、特定の分野に集中する傾向が強い。
そのため遺憾ながら、女子合格者の数に一定の制限を加えざるをえません。
女子で本学を受験される方は
完全に公平な選抜になるとは限らないことを承知したうえで志願して下さい。
大学病院の態勢が維持できないという危機感だの
女性は僻地に行きたがらないという懸念だの
世の中が眼科と皮膚科だらけになるという予測だので
こう公言しないことが正当化できるのでしょうか?
さらに。
2)医大入学時点ではどの部門に進むか分からない(はずである)以上、
これは現役〜2浪までの男子受験生を一律に優遇する理由にはならない。
上記三者の弁明の内容が正しいとすれば、
受験の時点で外科医になると確約した学生(女子含む)だけを
「外科枠」に入れて加点すればいいのです。
他の受験生より有利な条件で入学するのですから
最低でも数年間は外科医として勤務することを義務づけ、
医師免許資格取得の条件とすればよろしい。
今のやり方よりはずっと公平でしょうに。
のみならず。
3)人手不足は待遇改善によって解決するのが基本である。
そんなに外科医不足が心配なら、
女性医師だろうと外科に行きたくなるぐらい
待遇を良くするのが筋ではないか。
過度の市場原理主義には弊害が多いとしても、
市場メカニズムをそこまで排除する理由は何なのか?
だってそうでしょうに。
上記三者の弁明に見られる論理を突き詰めれば
苛酷な勤務をいとわない(であろう)途上国出身の男子学生について
日本人よりも合格しやすくなるように点数操作を行う
ことだって正当化されてしまいます。
けれどもこれはこれで
医療崩壊への一本道ではないのか?!
・・・以上三つの点に共通するのは
不都合な真実に直面するのではなく、
どうにか適当にごまかそうとする態度です。
とはいえ、そのような態度で患者を治療することができるか?
病気とは要するに、身体に関する不都合な真実なのですぞ。
♬認知す〜る〜なら、チョイと不協和音頭、ヨイヨイ♬
不都合な真実ほど率直に認めるべし!
これぞ医療の基本であるべきではないでしょうか。
彼女が医大に落ちた理由は、根深いのでありました。
国家や社会の不都合な真実(つまり病)を知るために、読むべき4冊はこちら!
10 comments
さかな says:
8月 7, 2018
1)そのとおり公表するべきだった
2)現場のアンケートによると女医と同様に高齢の医者の労働力は低いという結果
適性は専門教育をした後に見極めた方が良い
医者の腕前はミスをした数に比例するという側面があるため長く継続して同じ科で働くことが合理的
3)市場原理があるからこそ女性の科が偏る
医者の数が増えるという事は経験を積む機会が減るという事であり質が低下する可能性がある
日本で働くのであれば言語や文化に精通している方が良い
いろいろ調べて読みましたが産婦人科に女性が偏り女医が不満を持っているのが味わい深い
鶏 says:
8月 7, 2018
国際的に見て医師の総数が足りないことや(人口当たりの医師の数は、OECD35ヶ国中、30番目)、地域(東京に比べて、福島の医師数は人口比で約3分の1)や診療科目(直近20年で、麻酔科の医師は1.84倍に増えたが、外科は0.99倍、産科・婦人科は0.97倍に減った)によって医師が偏在していることは、様々な統計を見ても明らかです。ただ最近はこうした問題意識から、医大の入学定員を増やすなど、医師の数を増やす政策的な取り組みが行われていたことも事実です。
こうした状況下で、東京医大における不当な措置が発覚した訳ですが、彼らは何故そうしたことを行ったのか、また部外者も含めて、不当な措置を正当化するような意見が出てくるのは何故なのか。そこに大いなる問題があるような気がします。
医療そのものの世界では、最近はEBM(Evidence Based Medicine:根拠に基づく医療)が一般化してきています。EBMとは、科学的な根拠に基づき、明示的な態度をもって、的確な治療法を見出すということかと思います。しかし今回の東医大の対応は、EBMの精神とは正反対のものでした。仮に擁護派の方々が言っていることが事実であったとしても、佐藤先生のおっしゃるような合理的かつ公正な解決方法がある訳ですからね。
私が呆然とするのは、「西洋の没落」ではありませんが、現代日本においては「科学技術」を万能と思うというか、盲信している人が多いにも関わらず、今回の東医大の事例にみられるように、データや状況を正確に把握して、合理的な解決策を見出そうという科学的な意識が、非常に希薄であると感じられることです。
何でも合理主義というのは、それはそれで問題かと思いますが、合理性が全くないのではお話になりません。やはり日本の没落は、必然なのでしょうかね。
拓三 says:
8月 7, 2018
これは面白い !
不合理な真実 !
自由平等博愛 !
どう解決するのか ?
妄想では何時もの様に女性を男性化(家畜化)するんやろうけど、女性が女性(思考)で無くなれば女性の優位性も無くなる事じゃね ? つまり底辺の競争 ?
マゼラン星人二代目 says:
8月 7, 2018
>女優のほうが男優より役をもらうのが難しいのは常識。
>シェイクスピアやモリエール
というか、シェイクスピアの時代には、「女優」なるものが存在しなかったはず。
オフィーリアだろうとマクベス夫人だろうとゴネリルだろうと、男が演じることになっていた、と聞いたことがある。
コバ says:
8月 7, 2018
ここのブログを読んできて、たまにコメントを書いてきた男性医師として、批判的にコメントをさせていただきたいとおもいます。
論理的には詐欺の入試であり、炎上も仕方ない紛れもない悪徳であり、佐藤先生の言う通りです。
しかし、医師の立場から深く(?)掘り下げると下記の問題があり、この大学の取っていた行動は倫理的には誤っているのですが、合理的に振る舞った結果という可能性があります。
1緊縮財政の煽りで当直勤務などのハードワークをこなす医師を低賃金で働かせなくてはならない(残業代を払わないで働かせている病院だらけで、極端な話当直勤務するほぼ全ての医師が病院を訴えればいつでも勝てる状態です、実際ほとんどの裁判で勝ってる)
2ポリティカルコレクトネスの関係上対外的に女子を排除すると言えない現実
3大学は緊縮財政の煽りで補助金ゲットに夢中で無給勤務を医師に要求したりし、東京医大だけでなく大学での研究や臨床が限界スレスレである
4医師会は勤務医の待遇改善を求めず、むしろ応召義務を果たせと過剰労働を許可するよう国に圧力をかける始末
5女性は必然的に当直・救急医療の少ない楽に稼げる診療科を選択していき、これも合理的。
この国は緊縮財政で女医も男の医師も待遇など改善される余地がないです。
緊縮財政、マイナス成長、労働者意識の低さ、大学への締め付け、エリート集団(?)にいる女性の振る舞い方の難しさ、等さまざまな問題が底流にあると思います。
私が思うに事態はより深刻で、この大学がバカで悪質なのではなく、この国の大学や医療、もっと言えばこの国そのものが没落し滅びる過程を見ているだけなのではないかと思います。
ホワホ says:
8月 8, 2018
ただ、西川が語る用に上からとると女性ばかりになるってのは真実ならば、それはそれで
元のテストの方がなんかおかしいんじゃないですかね?女性ばかりの意味がどのくらいか分かりませんけど
ランダムで集めた集団ならいざ知らず、ちゃんと訓練を行った集団の
ペーパーテストや論文でそんな強烈な性差出るのでしょうかと
思想発想以前のもっと根本的なところでダメなんじゃないかなと
不正内容を見ても0.8を掛けた後にすることが、1にするための逆数を掛けなおすのではなく
大雑把に20を足すって発想は、一応理系の高度専門職の試験としてあんまりにレベルが幼稚です。
そもそも医者とは幼稚である。と言われれば、そうかもしれないと考える余地もありますが
(科学的医療として出てきたのが、当の統計学者(具体的に言うと林)から首を傾げられたEBM
というのを考えると、数学や自分たちの職業の扱いをそもそも大雑把にする職業文化があるのかもしれません)
プリンセスナッツ says:
8月 10, 2018
私は佐藤さんの映画評論が好きなのですが、マーベルシネマティックユニバースについて論評していただけないでしょうか。なぜ大ヒットしているのか、その背景にあるものに興味があります。これって題材になりませんか。よろしくお願いします。
SATOKENJI says:
8月 10, 2018
すみません。
MCUについては、じつは詳しくないのです。
まずはもっと観てみます。
レギーム作 says:
8月 14, 2018
じゃあ僕は、
エディ・コクランのをカヴァーしたザ・フーの方で。
政府「ダメだ、ボランティアしろ(低い声)」
♬ねっちゅーしょーたいさくサマタイブル~⤴♬
玉田泰 says:
8月 21, 2018
「不都合な真実に直面するのではなく
どうにか適当にごまかそうとする態度」
今、日本を腐らせている根本原因なのではないですかね?