今日はabengersさんのご質問にお答えしましょう。

質問はこれでした。

 

最近のJPOPの歌詞を見てると、

「私」と「君」の二人をテーマにしたものが目立ちます。

二人だけの狭い世界を描くよりも

平和や社会といった大きなテーマを扱った方が

歌詞に深みが出ると思うのですが、なぜそうしないのでしょうか?

 

歌を通じて何を描くかは

最終的には、個々のアーティストの人間観、

ないし世界観に関わることですし、

個人的な世界を描いても

深みのある内容になることもあるので、

なかなか一概には言えません。

 

しかし一般論としては

詞にさまざまな視点が盛り込まれていればいるほど

歌の世界は豊かになります。

 

ですから、

社会的なテーマを扱ったほうが深みが出るというご指摘はその通りです。

 

ただしここに一つ、重要な留保をつけねばなりません。

すなわち、自分のオリジナルな視点を持ち

自分の言葉で表現できていれば。

 

こう言っては何ですが、

いわゆる言論人にだって、社会や国のあり方について

オリジナルな視点を持っている人は意外に少ない。

自分の言葉で表現できている人も少ない。

 

ましてミュージシャンや作詞家は、

社会分析を本業としているわけではありません。

そういう人が社会的なテーマを扱おうとすると

いとも簡単に、紋切り型の受け売りになってしまう場合が多いのです。

 

しかも歌とはコワいもので、

歌っている内容を本気で信じているかどうかが、すぐ声に出てしまう。

 

Sayaさん関連の記事で、

「歌の世界を自分のものにする」ことの重要性を

繰り返し書いているのはそのためです。

 

ただしこれは、社会的なテーマを取り上げる場合に限りません。

「私」と「君」の関係を描きつつ、しっかり紋切り型の受け売りになっている詞は無数にあります。

 

というか、

二人きりの狭い世界しか描いていないように感じられるのは、

「私」と「君」の関係を描いているからというより

視点がオリジナルでないか、

自分の言葉で表現できていないか、

あるいはその両方という可能性が高い。

 

実際、私は Sayaさんとこんな話をしたことがあります。

 

日本のポップスの詞には

法律で使用を禁じるべきフレーズがいくつかある。

トップは何と言っても「私らしく」。

次は「何かが変わりはじめた」。

「少しずつでも歩いていこう」とか「夢に向かって」も要注意。

 

なぜか。

これらのフレーズは、何も考えなくとも条件反射で書けるから!!

 

私らしくと言うが、その中身は何か。

変わりはじめた何かとは、つまり何なのか。

少しずつでも歩いていく、歩幅はいったい何センチか。

向かっている夢とは、要するにどんな夢か。

 

具体的なディテールはどこにもない。

つまりは無内容。

ところが組み合わせるだけで、なんとなくムードだけは出来上がってしまう。

たとえば・・・

 

青い街角 あなたと歩くの

私らしい足取りで

二人の距離 少しずつでも

夢に向かって縮めてゆこう

いま 何かが変わりはじめた

 

こんな歌には、聴き手の心に届く何物もない!

歌い手の側に、真に表現すべきものが何もないからだ!!

 

Sayaさんもまったく同感だと言っていました。

 

逆にすぐれた詞の世界では、

「私」と「君」の関係を描くだけで

背後にある社会が見えてくる。

 

イギー・ポップとデイヴィッド・ボウイのヒット曲「チャイナ・ガール」を例に取りましょう。

 

かわいいチャイナ・ガール

僕なんかとつきあっちゃいけないぜ

君のすべてをダメにしてしまうからな

テレビをあげよう

青い目をあげよう

世界を支配したがっている男をあげよう

 

分かりますね?

これは植民地における、白人の男と中国系の女のラブソング。

 

「僕なんかとつきあっちゃいけないぜ」などと言いつつ

男はチャイナ・ガールが自分のものになると知っている。

なぜか。

彼にはテレビと、青い目と、世界を支配したい欲望があるから。

 

あるいはブルース・スプリングスティーンの「川向こうでの会見」はどうか。

 

チェリーは俺を捨てるんだとよ

あいつのラジオを質屋に入れたとバレちまってね

だけどエディ、あの子は分かっていないんだ

今夜の仕事がうまく行けば、俺のポケットには2000ドル入ったも同然なのさ

 

歌の主人公や、その恋人チェリー、そしてエディはどういう世界の人間か。

主人公がやろうとしている仕事は、どんな性格のものか。

これだけで察しはつくでしょう?

 

裏を返せば、平和や社会をテーマにしたところで

戦争はいやだよ 九条ばんざい

とか、

押しつけ憲法はいらない これからがホントの独立さ

といったレベルでは話になりません。

 

天下国家について

自分の視点を持ち、自分の言葉で歌えるか。

ポイントはそこだと思います。

 

ちなみにかつての中島みゆきさんは、その意味でかなり良かったと思いますよ。

「成人世代」「時刻表」「ファイト!」「僕たちの将来」あたりですね。

 

・・・ということで、どうでしょうか?

ではでは♬(^_^)♬