中野剛志さんの新著

「世界を戦争に導くグローバリズム」では、

国家の対外戦略のあり方として

理想主義現実主義の二つが提示されます。

 

どこぞのメルマガ執筆者ならば

外交戦略のパターンを二つのみに分類してしまい、

他の可能性を考えない過度の単純化に違和感をおぼえた・・・

などと書きかねないところですが、

むろん、そんなことは申しません(笑)。

 

だいたい、ああいう場合の「違和感」とは、

オレはこの議論が気にくわないが、反論も思いつかず、ゆえによけい口惜しい!

ことを意味しているんですからね。

 

むしろ注目したいのは、理想主義と現実主義との境界線を引くのが

実際には意外と難しいこと。

 

この理由は二つにまとめられます。

1)理想主義と現実主義は、まったく相容れないわけではなく、

「基本は理想主義だが、現実主義的な側面も持つ」とか

「現実主義には違いないものの、理想主義に通じる要素もある」といったふうに

重なり合ったり、からまり合ったりしているところがあるため。

 

2)また理想主義と現実主義のどちらにも、

「とくに理想主義的な理想主義」(超理想主義、あるいは超々理想主義)や

「とくに現実主義的な現実主義」(超現実主義、あるいは超々現実主義)など、

思想のグラデーションともいうべきものが見られる。

よって、ある国が対外政策を(たとえば)「超理想主義→理想主義」へとトーンダウンさせた場合、

基本が未だ理想主義であっても、それは「現実主義への転換」と評されることが多い。

同様、「超現実主義→現実主義」という変化は、たいがい「理想主義への転換」と位置づけられる。

 

事実、本にはこんな記述があります。

 

オバマは、多国間条約や国際連合によって、イランの核開発問題に対処しようとしている。

この国際的な枠組みを重視する国際協調の姿勢は(中略)理想主義のものであるとも言えるかもしれない。

しかし、すでに述べたように、国際条約や国際連合は、あくまでも国家主権の合意に基づき、

国家主権を前提とするものであり、その意味で、現実主義とは必ずしも矛盾しない。

 

むしろ、オバマが国際協調を呼びかけるのは、

アメリカ一極主義ではもはやイランの核開発問題を処理できないという

現実主義的な判断からなのである。

(147〜148ページ)

 

最初の4行で指摘されているのが、理想主義と現実主義の重なり合い(ポイント1)であり、

つづく3行で指摘されているのが、理想主義内部のグラデーション(ポイント2)。

 

いわゆる国連中心主義も、むろん理想主義の一種。

ただしアメリカが「世界国家」として国際問題を単独で仕切る(アメリカ一極主義)というのは

それ以上の超理想主義です。

 

つまりオバマの判断には、「超理想主義を理想主義にまで弱める」意味合いがあり、

よって現実主義的と形容しうる次第なのです。

 

ややこしい?

そんな印象を受ける方もいるでしょう。

 

しかし、であります。

中野さんと私が「国家のツジツマ」で展開した議論を重ね合わせると、

理想主義と現実主義の境界は、かなり分かりやすくなるのですよ!

 

 

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簡単にまとめてしまえば、理想主義も現実主義も、

何らかの合理的な規範に基づき、安定した国際秩序をつくりあげる

ことを前提にしている点では同じです。

国益、さらには覇権の追求は、当の秩序を基盤になされます。

 

ただし理想主義と現実主義では、

「合理的な規範に基づく安定した国際秩序」への期待のレベルが違うのですよ。

 

理想主義において、このような秩序は

「普遍化された理想的な状態を世界全体にもたらすはずのもの」と見なされる。

だから理想主義・・・というわけではありませんが、

人間が合理的に築き上げられる国際秩序への期待値が高いのです。

 

ひきかえ現実主義において、このような秩序は

「破局的な事態(たとえば大戦争)の到来を防ぐ程度の御利益しかないもの」と見なされます。

期待値が低いのです。

 

この違いはどこから来るか?

「国家のツジツマ」第二部をご覧いただければ分かりますが、根底をなす世界観の違いからです。

 

現実主義の根底にあるのは、

近代前期(17世紀半ば〜18世紀後半)の世界観。

人間の理性的能力にたいする信頼は、まだそれほどではありませんでした。

 

ひきかえ理想主義の根底にあるのは、

近代後期(18世紀後半以後〜)の世界観。

産業革命が始まったこともあって、人間の理性的能力への信頼が高まり、

「いずれは理想的な世界をつくりあげることができる」という発想が広まった時代です。

 

つまり理想主義的対外戦略は

進歩主義的対外戦略とも言い換えられる。

現実主義的対外戦略は、むろん保守主義的対外戦略です。

真の保守主義者である中野さんが、現実主義のほうを評価するのも当然でしょう。

 

とまれ、理想主義と現実主義を区別するモノサシはこれ。

この対外政策は、普遍化された理想的な状態を築こうとするものか?

それとも、破局的な事態の到来(だけ)は防ごうとするものか?

前者に近ければ近いほど理想主義、

後者に近ければ近いほど現実主義。

こう考えると、線引きが明瞭になると思いますよ。

 

そして過ぎたるは及ばざるがごとしというべきか、

理想主義の極致たるグローバリズム(の衰退)こそ、

かえって各地で破局的な事態をもたらす危険があるのです。

 

「世界を戦争に導くグローバリズム」、ぜひご一読を。

「国家のツジツマ」と併読すれば、さらに理解が深まると言っておきましょう。

 

 

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ではでは♬(^_^)♬