今年4月から、働き方改革関連法が施行されます。
残業時間が規制されるので、
過度の労働に(少なくとも一定の)歯止めがかかる
と期待される一方、
残業代が得られなくなることで勤労者の収入がさらに減少、
デフレ脱却がますます難しくなる恐れが濃厚。
とはいえ、この規制の例外とされた人々がいる。
つまり医師です。
どうぞ。
この3月(注:2017年3月)
政府がまとめた「働き方改革実行計画」では、
時間外労働の上限を原則1か月45時間とし、
労使が合意した場合は1か月平均60時間
(特に忙しい月は100時間未満)とすることになっています。
もし、この上限を超えた場合、罰則が課されることになります。
しかし医師は、この「働き方改革計画」において例外とされ、
2年後(2019年3月)をめどに「規制の具体的な在り方や、
労働時間の短縮策等について検討し、結論を得る」とされました。
で、2019年3月も間近になった現在、
こんな記事が。
厚生労働省は11日の
医師の働き方改革に関する有識者検討会で、
地域医療を支える医療機関の勤務医の残業時間の上限について
「年1900~2000時間」とする案を示した。
検討会は今後、厚労省案を踏まえて議論を進め、
今年度末に具体的な規制案をまとめる。
おいおい、ちょっと待て!
年1900〜2000時間って
月割りにすると158時間〜167時間(1時間未満は四捨五入)だぞ!!
「特に忙しい月」でも残業100時間未満という
先の実行計画に比べて
あまりに差がありすぎやしないか?!
ちなみに記事によりますと
厚労省は医師の残業時間を
1)一般的な勤務医
2)地域医療の核となる医療機関の勤務医
3)専門性や技能などを高めようとする若手医師
の三つに分けて検討。
開業医は雇用されているわけではないので
当てはまらないということでしょう。
で、(1)の一般医については
過労死の労災が認められる目安
(残業月80時間)をもとに
年960時間未満という方針を打ち出した。
先の実行計画に基づいた残業時間は
原則で年540時間、
労使合意の場合でも年720時間ですから
これでも相当なもの。
ところが・・・
厚労省の調査によると、
病院勤務医の1割に当たる約2万人が
月160時間以上残業をしている。
一律に規制すると地域医療に影響が出る恐れがある。
そこで月160時間前後を基準として
年1900〜2000時間という案を策定したのです。
これは2035年までの暫定措置で
以後は年960時間未満にするとか。
ただし「地域医療の核となる医療機関」の要件は
なんと、まだ未確定。
年度末までに具体的にまとめるそうです。
ついでに(3)専門性や技能を高めようとする若手医師の
残業時間については
とくに上限案が出ていない!
となると2036年以後の
「地域医療の核となる医療機関」では
若手医師がムチャクチャに酷使されることで
年長の医師の残業時間が
ようやく過労死労災認定レベルに抑えられる
ということになるのでは。
いいですか、現状はこれよりさらに悪いのですぞ。
(※)記事の内容と直接の関係はありません。
最初に紹介した記事は
医師の勤務状況に関する総務省の調査も引用していますが
それによると
1割の医師は月に1回は24時間以上の連続勤務をしている。
36時間以上の連続勤務を経験しているという医師も3%。
これでは医療の質だって
影響を受けないわけにはゆかない。
アメリカで小児科医を対象に行われた調査によると
週90時間以上の勤務+当直
の状態におかれた
医師の集中力や注意力は
週44時間の勤務だが飲酒している医師と
ほぼ変わらないレベルだったのです!
週44時間だって、週休2日とすれば8時間労働なんですけどね。
のみならず、
1)医師の勤務状況を改善するためという理由で、
労働条件が悪くとも文句を言わないような外国人医師を増やそうとする
とか
2)優秀な日本人医師が、より良い労働条件を求めて海外に出て行く
ということだって起こるでしょう。
(2)については、すでに海外での仕事を紹介するエージェントがいるそうです。
で、ここまでくれば
3)医療の質を維持するという名目のもと、医療自由化が進む
のもほぼ確実。
国民すべてに質の高い医療を安く提供する
というわが国の医療の目標は
いよいよ崩壊してしまいます。
ならば、どうすればいいのか?
これについては
最後に紹介した記事の筆者、
外科医の中山裕次郞さんの指摘が参考になります。
中山さん、
病院勤務の医師が超長時間労働を強いられる理由を
以下の三点にまとめました。
1)人間の身体は千差万別なので、同じ治療をしても、その後の経過が異なる。
つまり不測の事態への対応が欠かせないものの、
わが国では一人の医師が
特定の患者の治療に全責任を持つ「主治医制」が主流なので
交代することができない。
2)当直があるため、徹夜勤務が避けられなくなる。
3)書類仕事や単純作業など、医師でなくてもできる仕事まで
医師がやるものという通念ができあがっている。
中山さんは対策として
1)医師の給与を下げてもいいから医師の絶対数を増やす
2)病院を統合して数を減らし、各病院の医師を増やす
3)主治医制から交代制への移行を進める。
を挙げています。
しかし(3)はともかく、
(1)は外国人医師導入への道でしょうし、
(2)も地方の人々が医療を受けにくくなる恐れがある。
むしろ、こうすべきではないでしょうか。
1)積極財政により、医師の給与を下げずに数を増やす。
2)AIの導入により、書類仕事や単純作業、あるいは当直などの負担を減らし、
「本当に医師でなければできない仕事」だけをしてもらうようにする。
3)そのうえで、主治医制から交代制への移行を進める。
とくにポイントは(2)です。
これは要するに
技術革新によって医療の生産性を高めるという話。
当然、医師の給与向上にもつながるでしょう。
中山さんも書いていますが
じつは現在、
病気の「診断」はそう難しくなくなっている。
「治療方針の決定」にしてもしかり。
言い替えれば、AIでもやれる可能性大。
結果を人間の医師がチェックすればいいのです。
問題は、治療(たとえば手術)をしたあとの「経過」。
これが人によってまるで違う。
つまりはここに集中してもらうのですよ。
しかもこの方針、
わが国のハイテク産業の振興にもつながる。
何気にワイズスペンディングなのです!
医療は人の命を預かる仕事。
すなわち医師を粗末に扱う国は
結局、国民の命を粗末に扱うことにほかならない。
それで何が経世済民。
それで何が「美しい国」。
しっかりした医療制度も、
重要なインフラであり、安全保障の一部なのです。
緊縮の発想をやめて、医療の発展と拡大を!!
・・・とはいえこうなると、
平和主義は医療崩壊への道でもあるんですね。
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4 comments
コバ says:
1月 20, 2019
難しい問題です。
財務省・厚労省の方針だとベッド数(入院できる患者さん)を減らす方針になっております。
在宅医療を進めるという名目ですが、高齢者が多いのでその人たちに医療をなるべく施さないようにして家で介護を家族に押し付けて死なせる方針を更に進める。
在宅であれば開業医が多く関わることになり、開業医たちは労働基準法に関連しないので深夜でもいくらでも働かせられると考えていると思います。
これに対し日本医師会は完全にバカで無力で、そもそも消費税に賛成してます…。
2035年までというのは初めて知りましたが、その頃に医療需要が低下することが見込まれているので過剰勤務解消が可能なのは当たり前ですね(笑)。
その頃には医師の仕事は減って、増え過ぎた医師と高まった効率性により、今の歯科医の先生方のような惨状が待っていることは言うまでもありません。
怪しい自費診療に走る怪しい医師が後を絶たなくなるのでしょう…。
個人的にはここまで抜かりなく失敗が完全に約束された医療政策を描ける財務省・厚労省・医師会には脱帽どころか頭髪ごともっていかれそうです…
外科医の対策が微妙に間違っているのも医師の思考としては典型的なものだと思われます(むしろ医師の中でもいい人だと推測されます)
佐藤先生の対応が正解だと思います。(欲をいえば将来の医師余りについても対策が欲しいですが…)
ちなみに飲酒して勤務のくだりですが、当直明けに働き続けたことがある自分としては、ビール1杯でこんなに酔うかバカ野郎と思った当時が思いだされます。(笑)
いまも休日があってないような生き方をしてますが…
半存・フォード says:
1月 20, 2019
酷営ならぬ(爆・設備投資国家経営に依る)国営病院にも戻せる破綻扇導言論政官財メディアを潰す積極的な積極財政中央政府に・・・・なにもかもそこに行き着く終着点しかない。
キャピタル言ちゃん、今日も今日とて、進痔瘻?(字甘利)。
半存・フォード says:
1月 20, 2019
今まさにザ・お姉さま・・・じゃないっ!、ザ・ガードマンじゃないっ!、ザ・サンデーで“スパイラル”と言うバーと風俗のスパイラルに女子大生を嵌める商売の報道が成されていました。そうだったのか!とも思いましたが、
この医療の話のスパイラルにも似ている気がしました。しかしインフレーション状況でも起こりえる女子大生風俗問題よりも、政府の仕事のデフレの根本治療法を報道しきれないメディアの方が問題な気がしてなりません!
と書き込む世間知らずのワシの頭が可笑しい?ントン。
豆腐メンタル says:
1月 22, 2019
>1)積極財政により、医師の給与を下げずに数を増やす。
>2)AIの導入により、書類仕事や単純作業、あるいは当直などの負担を減らし、「本当に医師でなければできない仕事」だけをしてもらうようにする。
>3)そのうえで、主治医制から交代制への移行を進める。
賛成ー
官民の垣根なく基盤を支える現場があります。
先生の3提案は基盤を改善し将来に備える経済の正道。
一方、自己責任&放置&ブラック化は政治の結果。30年ほど頑張ってますが光は見えてきました?今の日本人の幸福度の低さはここに根があるとしか私は思えません。
一見生活は便利になったし特別なものも手に入る。しかしその実、お金のある間は非効率や非合理に直面しなくて済んでいるだけとも。
要は幸福はお金だと。でもデフレだから奪い合いだと。弱肉強食上等だと。
医師、教師、地方公務員、家庭や介護の現場、情報、移動、エネルギー、土木など基盤を締め上げてもろくなことにはならない。それどころかブーメラン。
新自由主義とは真逆に進めれば、晩婚少子化、東京と地方の格差、世代間収入(資産)ギャップは改善され幸福度アップですよ。