「オンディーヌ」の作者で、

20世紀前半のフランスを代表する劇作家でもある

ジャン・ジロドゥ

昨日ご紹介した

「芝居がむしばまれたら、国民もむしばまれる」の他にも、

こんな名言を残しています。

 

いわく。

芝居というものは、一国の文化が爛熟(らんじゅく)し、

まさに崩壊しようとするとき、やっと完成する。

 

「オンディーヌ」は、まさにこれを証明するかのごとき芝居。

なにせパリで初演されたのは、1939年5月4日なのです。

第二次大戦勃発の、わずか4ヶ月前。

 

ジロドゥは戦争の終結を見ることなく、

1944年に亡くなってしまうのですから

彼の言葉はまさに正しかったと言わねばなりません。

 

さて、日本でこの芝居を深く愛したのが

劇作家の加藤道夫さん。

1953年、若くして亡くなりますが

当時の演劇青年に多大な影響を与えました。

 

そして浅利慶太さんはじめ、

加藤さんの弟子にあたる人々が旗揚げしたのが劇団四季。

 

四季を離れた浅利先生が

最初の公演に「オンディーヌ」を取り上げたのは

まさに必然と言えるでしょう。

 

・・・というわけで、観てきました!

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(↑)自由劇場の入り口です。

 

「オンディーヌ」は中世的な世界を舞台に

ハンスという遍歴の騎士が、

水の精オンディーヌと恋に落ち、

そのことで滅びてゆく物語。

 

ファンタジックな筋立てに、

自然と人間、

社会的規範と自由、

虚構と現実、

有限と無限など、

さまざまなレベルの葛藤が盛り込まれています。

 

おとぎ話のような外見とは裏腹に

テーマは深く、構成は複雑。

一筋縄で片づく作品ではありません。

 

第二幕(全三幕)など、劇中の時間経過が

わずか1時間にして、同時に10年でもあるという

驚異のアクロバットが展開されるのです。

分かりやすく見せるのは、決して容易ではない。

 

けれども、舞台を観て驚きました。

すべてが明快なのです。

しかも簡素。

ほとんど素っ気ないくらい。

 

にもかかわらず、舞台の上で展開される世界は豊か。

作品の素晴らしさがストレートに伝わってきます。

 

セザンヌやレンブラントといった画家たちが

キャリアの仕上げの時期に残した作品は

本質的なものしか残っていないがゆえに

幾何学的な単純さに達していたと評されますが、

今回の浅利演出もそれに通じるものがありました。

 

じつは私、

日本が繁栄の絶頂にあった1988年にも

浅利先生が演出された「オンディーヌ」を観ているのですが

日本が衰退の色を強めている2015年

あらためて観た「オンディーヌ」には

かつてなく完成されたものを感じます。

 

開演前や休憩時間に

先生とお話しする機会があったのですが

「ようやく、ちゃんと出来るようになった」

穏やかにおっしゃっていました。

 

ジロドゥの言葉通り、芝居というものは

一国の文化が爛熟し、まさに崩壊しようとするとき

やっと完成するのでしょう。

 

浅利慶太プロデュース公演「オンディーヌ」

上演は5月5日までです。

ただし当日券が若干あるそうですので

今からでも間に合いますよ!

 

興味のわいた方はこちらをどうぞ。

 

ではでは♬(^_^)♬