3月29日23:00(ロンドン時間)のブレクジットまで
あと三週間を切りましたが
状況は未だ混沌としています。
テリーザ・メイ内閣は
1月に歴史的大差で否決をくらった離脱協定について
再交渉のうえ
12日に採決にかける予定。
ただし再交渉は
要するに成果を挙げておらず、
12日の採決も
あらためて否決となる可能性が大です。
英国保守党の議員で
EU離脱特別委員会のメンバーでもある
アンドレア・ジェンキンズは
8日の時点で
「バックストップ(アイルランドと北アイルランドの
国境管理をめぐる妥協案)の扱いについて
何か進展がないかぎり、
可決の見込みはほとんどない」
と発言。
他方、メイ首相は同じ8日、
イギリス北部の町グリムズビーで行った演説でこう発言。
Next week, Members of Parliament in Westminster
face a crucial choice.
Whether to back the Brexit deal – or to reject it.
Back it and the UK will leave the European Union.
Reject it and no one knows what will happen.
We may not leave the EU for many months.
We may leave without the protections that the deal provides.
We may never leave at all.
The only certainty would be ongoing uncertainty.
来週、ウェストミンスターで
議会は決定的な選択に直面します。
EUの離脱協定を承認するか却下するかです。
承認すれば、イギリスはEUを離脱します。
却下の場合、そのあとどうなるかは誰にも分かりません。
離脱が何ヶ月も延期されるかも知れません。
離脱協定によって保護されることなく
離脱することになるかも知れません。
そもそも離脱が中止になるかも知れません。
唯一、確実なことは
何も確実でない状態が続くことだけです。
離脱中止?!
合意なき離脱ならともかく、
離脱中止が今さらどうやって成立するのか
という感じですが、
リーアム・フォックス国際貿易相も
同様の懸念を表明しました。
話を整理すると、
どうもこういうことのようです。
1)12日に離脱協定案がまた否決される。
2) 合意なき離脱も否決される(13日採決予定)。
3) 離脱の延期を可決する(14日採決予定)。
(※)このいずれかの段階で、メイ内閣には任せておけないとして、
議会がブレクジットに関する権限を掌握する。
4)離脱延期をEUに通告する。
5)再度の国民投票などで、リスボン条約第50条(EU離脱)の行使を撤回する。
ジェレミー・ハント外相もBBCでこう述べています。
ブレグジットを止めようとする人々の動きが広がっているので、
29日かそのすぐ後に
EUを離脱する機会をしっかりつかみ取ることが重要だ。
われわれは非常に危険な水域にある。
メイ内閣は現在、
合意なき離脱の恐怖を強調することで
議会とEUの両方を脅かし
妥協に追い込もうとする戦術、
「地獄の特等席チキンゲーム」(Ⓒ佐藤健志)に出ているようですが
ジェンキンズ議員が述べたとおり、
これが成功するかどうかはまるでおぼつかない。
ロイターの記事いわく。
同党(注:保守党)欧州懐疑派や
政権に閣外協力している北アイルランドの民主統一党(DUP)幹部らは、
このままなら否決とメイ氏の政治的敗北は必至だと
冷ややかな見方をしている。
・・・というのもEU側が
強気に出ていればイギリスは土壇場で折れる
と構えている気配濃厚なんですね。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は4日、
「新生ヨーロッパのために」
という文章を、なんと22ヶ国語で発表。
EUで用いられる言語は24なので、
ほとんどすべてを網羅しています。
で、ブレグジットについてどう述べたかというと・・・
Never, since the Second World War,
has Europe been as essential.
Yet never has Europe been in so much danger.
Brexit stands as the symbol of that.
It symbolises the crisis of Europe,
which has failed to respond to its peoples’ needs
for protection from the major shocks of the modern world.
It also symbolises the European trap.
The trap is not being part of the European Union.
第二次大戦後、今ほどヨーロッパが重要な役割を負っている時はない。
が、今ほどヨーロッパが危機に瀕している時もない。
それを象徴するのがブレグジットだ。
現在の世界がもたらす巨大な衝撃から
ヨーロッパは人々を保護できていない。
ブレグジットはこの危機の象徴なのだ。
しかし同時に、ブレグジットはヨーロッパを待ち受ける罠の象徴でもある。
罠とはつまり、EUから離脱したいという誘惑にほかならない。
グローバリズムの問題点を認めつつ
なおナショナリズムを否定する
修正グローバリズムともいうべき立場を打ち出したのですが
ここでマクロン、
ヨーロッパの主要国際機関とEU加盟国の代表からなる
「ヨーロッパ会議」を今年中に創設しようと提案しています。
EUにどんな改革が必要か、
ここでハッキリさせたいのだとか。
そして、話はこう続く。
In this Europe,
the peoples will really take back control of their future.
In this Europe, the United Kingdom, I am sure, will find its true place.
Citizens of Europe, the Brexit impasse is a lesson for us all.
(ヨーロッパ会議が改革の道筋を示すことで)
ヨーロッパ諸国民は、自分たちの未来への決定権を真に取り戻すだろう。
イギリスもまた、このようなヨーロッパにこそ
真の居場所を見出すと私は確信する。
ヨーロッパ市民諸君、
泥沼に陥ったブレグジットは、
われわれ全てに向けられた教訓なのだ。
まるでEU離脱撤回が
すでに決まっているような口ぶりですが、
その場合、
2016年のイギリス国民投票の結果はどうなるのか。
国民投票が示した民意を無視するのが
未来への決定権を真に取り戻すことなのか?!
あるいは2回目の国民投票が行われたとして
そこでEU残留派が勝利したとしたら
そもそもイギリスの民意は
一体何をめざしていることになるのか。
1回目の民意と2回目の民意のうち
後者こそが真に正しい民意だと
判断しうる根拠いずこにありや?
とはいえブレグジットが国民投票で決まった以上、
撤回決定にもやはり国民投票が必要でしょう。
未来への真の決定権を取り戻すとは
自分の都合にあわせて民意を解釈することなのかな?
ヨーロッパ新生も宇宙のジョーク、あっソレ♬
これだからグローバリストは!
と言いたくなった人もいるでしょうが
マクロンの主張にも一理なくはない。
つまりですな、
イギリス議会だって民意によって選ばれているはずなのです。
そのイギリス議会が
ブレグジット撤回に動きかねないとすれば
それもまた民意の表れではないのか?
・・・お分かりですね。
ブレグジットの真の教訓は
EUから出てゆこうとしてはいけない
などではなく、
民意が自己矛盾、
つまり認知的不協和に陥っていたらどうするのか
なのです。
直接民主主義によって示された民意こそ
民意の最も純粋な形であり
ゆえに尊重されるべきだというのは本当に正しいか、
そう言い替えてもよいでしょう。
エドマンド・バークは、ずばりこう言い切っています。
完璧な民主主義こそ、
もっとも恥知らずな政治形態なのだ。
そして恥知らずとは、
とんでもないことを平然としでかすことを意味する。
「民意はつねに正しい」という発想を許容してはならないのである。
本書128ページより。
ちなみに完璧な民主主義がなぜ、
とんでもないことを平然としでかすのか。
落選のリスクを抱える政治家と違って
民衆はどんなメチャクチャな選択をしようが
責任を取らずにすむからです。
そしてこれは、わが国にとっても何ら他人事ではない。
たとえば沖縄の基地問題。
2月の県民投票では、
辺野古の埋め立て反対という民意が示されました。
けれども2月25日の記事
「沖縄の民意を真摯に受け止めるなど、誰が総理であろうと不可能だ。なぜなら・・・」
で指摘したように
辺野古への基地移転は
現地の誘致運動によって決まったもの。
埋め立て面積が増えるような工事案を提示したのも現地側です。
なのに県民の総意で埋め立て反対?
なるほど、民意はつねに正しいなどと構えるのは禁物ですな。
あるいは大阪都構想。
2015年5月の住民投票では、反対の民意が示されました。
しかるに大阪府の松井一郎知事と
大阪市の吉村洋文市長がそろって辞職したうえ、
知事は市長選に、
市長は知事選に出るという最近の経緯が示すとおり、
都構想推進派は、2回目の住民投票をめざしている模様。
今回のダブル選挙、
都構想がつぶれかけている状況を打破するため
とのことですが
住民投票の結果をくつがえすためには、
やはり再度の住民投票が必要になりますからね。
しかし2回目の住民投票で都構想賛成派が勝った場合、
そもそも大阪の民意は何をめざしていることになるのか。
1回目の民意と2回目の民意のうち
後者こそが真に正しい民意だと
判断しうる根拠いずこにありや?
その一方、
吉村さんが大阪市長に当選したのは2015年11月。
住民投票の後です。
松井さんが大阪府知事に再選されたのも2015年11月。
都構想を否決しつつ、
都構想推進派を当選させるのだって、
大阪市民の民意なのですぞ。
保守派の悲願とされる憲法改正にも、同じ問題がつきまとう。
かりに国民投票までこぎつけたとして
9条改正が否決されたらどうするのか。
自衛隊が違憲だと言われないようにするための改正なんでしょう?
その場合、
自衛隊はやはり違憲だったということになるんじゃないですかね。
それとも9条改正を否決するような民意は
本当の民意ではないと言い張りますか?
「まあ、爽快な負け惜しみだこと」(※)お姉さまのお言葉です。
アニメから sayaさんの熱唱まで、豪華絢爛たるプロモーション動画はこちら!
エドマンド・バークによれば
かのアリストテレスは
民主主義と独裁は、驚くほど多くの共通点を持つ
と喝破したとか。
未来への決定権を真に取り戻す道は
この点を直視することにあるのかも知れませんよ。
とんでもないことを平然としでかす前に、読むべき4冊はこちら!
ではでは♬(^_^)♬
5 comments
安治 says:
3月 12, 2019
民衆はどんなメチャクチャな選択をしようが責任を取らずにすむのは確かにそうですが、その結果選ばれた政治家によって酷い政治が行われて、日本の自死を招くようなことがあればその責任は間違いなく民衆にあります
問題なのはその自覚があるかないかだと思いますし、議会制民主主義は民衆が賢くあって初めて機能するものであって、そうでないと結局は騙されて間違った選択をさせられてしまうだけで終わってしまいます
我が国だけではありませんが、間違った選択をさせられた結果が今の現状であるということで、騙されないように賢くなる努力を求められるのが議会制民主主義であると私は強く思います
ただ政治の素人である国民に政治家を選ばせるというのは無理があると思っていて、選挙自体私は昔から否定的でした
日々の暮らしの中で賢い選択ができるように勉強するのは過酷ではないのか
例え責任の自覚がないとしても選んだ政治家がロクでもない人間だった場合、損をするのは国民で当選した方は知ったことかで終わりだから、政治家が無責任になるのは当たり前です
だって選んだ方が悪いのですからね
これで一番怖いのはどんな莫迦にも等しく選挙権が与えられることと、どんな莫迦でも立候補できるということです
特に緑の妖怪が当選した東京都知事選なんてその典型ですよ
あんな妖怪に300万近い人が票を入れるんですよ
普通に考えて恐ろしいです
そういう議会制民主主義の怖さをほとんどの国民が理解していないことが問題で、それが分かっていたらこんな民主主義はとっくに潰されているはずです
人にはそれぞれ役割があると思っていて、政治家もその一つにすぎず、それらを見極めて道を示してあげるのが教育のはずで、まず教育からやり直して国民一人一人が余計なことを考えず安心して日々暮らせるような世の中にすることが政治家の本来の役割のはずで、余計な負担をかけさせる選挙なんてものが必要のない政治システムの構築が急務であると私は考えます
安治 says:
3月 12, 2019
連投失礼します
佐藤さんも出演されている討論番組でよくでる急進主義的な意見を言う人はとにかく国民を締め上げることを考える傾向にあると思います
確かに国民が莫迦だからこうなったという意見はその通りかもしれませんが、だから国民は賢く有らねばならないというのは議会制民主主義にどっぷり嵌りこんだ考え方しかできなくなっていることの証明です
そこには強烈な差別意識が働いていて、政治に関しては素人かもしれないが、日々の仕事を一生懸命こなして家族を養っている方達が大半で、どんな仕事であれ世の中の何かしらの貢献をしていることは間違いないのですから、そうした多くの国民の勤勉性への敬意の気持ちが欠けているから間違うのだと思います
政治家の役割を持った人間はいると思っていて、その資質を開花させるのが教育の役目であり、政治家でなくても人それぞれ生まれ持った資質に応じた道はあるのだから、それぞれが生まれ持った資質に応じた役割をこなして世の中に貢献していけばいいのであって、国民全員に政治的責任を負わせるような選挙なんていうものは害しかないと思います
プロの仕事はプロに任せればいい 何も国民全員が何かしら行動を起こさなくてもそれぞれが役割をこなしていけばいい その辺の区別ができないと例え政治家の資質を持っていたとしても才能の芽を潰されて終わってしまうだけで、それは数えきれないほど沢山いるはずです
急進主義の最大の盲点は優しさ 思いやり 感謝 敬意といった心が欠けていることで、強烈な差別意識が根底にあるという事が分かってないことだと私は強く思います
議会制民主主義に変わる新しい政治システムを構築しないと急進主義が蔓延するだけで、私達にとって優しい政治が行われることはありません
豆腐メンタル says:
3月 12, 2019
昔話面白いですね。手長足長の言い伝えは各地にあるそうです。そして”手長足長”の話は”有耶無耶”という言葉の語源かもしれないそうです。有耶無耶。。どこかの没落国家の統治のことでしょうか。
その昔、手長足長という人喰い鬼が住んでいました。「手足が異常に長い巨人」という点では日本各地と共通していますが、手足の長い一人の巨人、または夫が足が異常に長く妻が手が異様に長い夫婦の巨人とも言われ、この点は各地で異なります。その手長足長という人喰い鬼は、秋田県と山形県の県境にある「鳥海山」に住んでおり、山から山に届くほど長い手足を持ち、旅人をさらって食べたり、日本海を行く船を襲うなどの悪事を働いていました。鳥海山の神である大物忌神はこれを見かね、霊鳥である三本足の鴉(カラス)を遣わせ、手長足長が現れるときには「有や」現れないときには「無や」と鳴かせて人々に知らせるようにしました。
国道7号線にある「三崎峠」が「有耶無耶の関」と呼ばれるのはこれが由来とされています。
それでも手長足長の悪行は続いたため、後にこの地を訪れた慈覚大師が吹浦(現・山形県 鳥海山大物忌神社)で百日間祈りを捧げた末、鳥海山の噴火で手長足長の鬼は吹き飛んで消え去ったと言われています。http://jimoto-b.com/3545
一説によれば、噴火でなく「ビーム」だったそうです笑。
唐突ですがぐだぐだブレグジットと没落日本の関係という意味で、今になって意味深長になっている先生のエントリーがこの有耶無耶の入り口となりました。
>安倍内閣の主要な問題(の一つ)は
>ナショナリズムとグローバリズムの間で適切なバランスを取れていない
もっと言えば、
>ナショナリストのような雰囲気を漂わせているくせいざとなると、きっちりグローバリズムに流されることにあります。
しばしば見かける先生による過去エントリーの自家ツイート。とても興味深いです。。ただ疲れて酔っているからでしょうか?
富田師水 says:
3月 13, 2019
実際、ここまで国民を貧困化させても、
PB目標の数字に邁進しているから世間的には
安倍晋三は歴代ナンバーワンの節約宰相として名を残すと思いますね
つまり認知的不協和によって責任を取るべき事態を覆い隠す事に成功している
6年も権力の頂に居続けるなんて、半端な事やってたら出来ない。
とことんまで痛めつけて反抗の気力がそもそも生まれないように情報操作も完璧
高橋聡 says:
3月 14, 2019
>都構想を否決しつつ、
>都構想推進派を当選させるのだって、
>大阪市民の民意なのですぞ。
おっしゃる通りで。
最近の世論調査でも「大阪都構想は反対(42%)」だけど「大阪維新の支持率38%」と、ねじれてます。
なんで? と仮説を立ててみると、どうも「おらが村の政党」という心象を、大阪人が大阪維新に持っているのではないか? と思います。
しかしこれもねじれているわけです。「おらが村の政党(大阪維新)」が「大阪市解体」を進めるわけですから。
……だめだこりゃ、です。