平成30年間は

新自由主義やグローバリズムの発想に基づく構造改革が繰り返された結果、

世界的な繁栄を誇っていたわが国が

だんだんゆとりを失い、

低迷・衰退の道をたどった時代でした。

 

で、低迷・衰退を(主観的に)脱するつもりで

さらなる構造改革が進められ、

いっそうの低迷・衰退に陥ってゆく次第。

 

これがすなわち

「日本の自殺」を阻止しようとして「日本の自死」にいたる

というヤツであります。

関連動画はこちら。

 

この悪循環を脱しないかぎり

日本再生などありえないわけですが

関連して提起したいのが

「ゆとり」とは何か、

あらためて考えてみること。

 

広辞苑で「ゆとり」を引くと、こんな定義が出てきます。

余裕のあること。窮屈でないこと。

 

ならば「余裕」の定義はどうか。

1)必要な分のほかに余りのあること。また、その余り。

2)精神的にゆったりしていること。ゆとり。

 

ついでに「ゆったり」の定義はこちら。

1)空間・気分などにゆとりがあるさま。

2)ゆるやかに時間をかけて行われるさま。

この言葉、ひらがな表記が普通ですが、漢字では「寛」と書きます。

 

・・・何が言いたいか,分かりますね。

「ゆとり」や「余裕」の本質は、効率にこだわらないことなのです。

 

「余裕」という字を見ても、この点は明らか。

「余」はずばり「余り」です。

そして「裕」は、漢和辞典によると

衣服がゆったりしていて、身体との間にすきまがあること

を表した文字。

 

「遊び」や「ムダ」があることこそ、ゆとりの必須条件なのです。

 

となると「富裕」や「裕福」にしても

たんに豊かであることとは少し違う。

物や金銭に富んでいればいいわけではなく、

「遊び」や「ムダ」を楽しめる境地に達していなければ

「富裕」「裕福」とは言えません。

 

現に広辞苑で「豊か」を引くと、

物が豊富で、心の満ち足りているさま

とありますが、

大」「容」といった言葉が示すとおり、

そのような心のあり方も、ゆとりなしには成り立たない。

 

そして効率にこだわってばかりいるところに、ゆとりは存在しないのです。

 

ところが新自由主義もグローバリズムも

効率をとにかく重視する発想。

平成日本が構造改革のあげく、ゆとりを失っていったのは

その意味でも必然と言えるでしょう。

 

効率を上げるな、などと言っているのではありませんよ。

生産性の向上によって

人々が多くの報酬を得られるようにすることは

経済発展の重要な条件です。

 

ただし、そのような効率の向上は

生活に全体としてゆとりを持たせる、

つまりは遊びやムダを楽しめるようにするためのものでなければならない。

効率向上が自己目的化したら最後、

いかに物や金銭が増えようと

そこに「裕」はなく、

ゆえに「富裕」「裕福」にもならないのです。

 

さて。

 

ニューズウィーク日本版に、こんな記事が出ていました。

「デジタルファースト」で岐路に立つ日本の「はんこ文化」

(2月1日配信)

ご覧になりたい方はこちら。

 

現在の通常国会では

デジタルファースト法案なるものが審議される見込みです。

 

この法案、

デジタル・ガバメントを推進するためのものですが、

これは一体何か。

 

内閣官房の情報通信技術総合戦略室によれば

行政のデジタル化や

府省庁の情報システムの一元化を推し進め、

最終的には政府・地方・民間すべてを通じた

データの連係、サービスの融合をめざすことなんだとか。

関連資料こちら。

 

これによって、

・安全、安心、公平、公正

・持続的で豊かな社会

・国民、企業への具体的なベネフィット(利益)

などが期待できるとのことですが

「具体的なベネフィット」の中身が具体的に書かれていない一方で、

「政府運用コストの3割削減」などと記されているところを見ると、

要するに

1)「効率化の追求によるコストダウン」という新自由主義的発想が

2)「デジタル化の推進=国際競争力の強化」というグローバリズム的発想と

結びついたものである可能性が濃厚でしょう。

 

しかるにデジタルファースト法案には

行政手続きのオンライン化を徹底するためとして

本人確認手法のデジタル化

が盛り込まれている。

関連資料こちら。

 

具体的には

電子署名(二重化された暗証番号による確認)

ID・パスワード

フォーム送信

などがあるそうですが

ここで問われるのは

わが国の伝統的な本人確認手段である

印鑑、つまりハンコがどうなるか。

 

デジタルガバメントの趣旨からいって

いずれは行政機関のみならず

民間にも本人確認のデジタル化を求めようとしているのは

明らかですからね。

 

デジタルファースト法案を推進する

平井卓也科学技術担当大臣は1月22日、

国民に広く普及している

重要な本人確認の手段である押印が

民間で直ちになくなることはない

としつつも、

(書類に)三文判とか、

どこでも売ってるようなはんこを押さないといけない

局面は一体何なのか

と発言。

 

つまりは

書類にいちいちハンコをつくのは非効率だから良くない

という話ですな。

 

ニューズウィークの記事にも、こうあります。

大口のビジネスの契約書から社内の経費精算書まで、

会社の書類は押印欄のオンパレードだ。

それぞれの印鑑は、原則的に担当者本人が押さなければいけないため、

はんこを押すために書類が社内外のあちこちをたらい回しにされることになる。

書類のやり取りに膨大な手間と時間がかかる「はんこ文化」は、

日本の生産性の低さの象徴だという意見が、最近はよく聞かれる。

 

お気づきとは思いますが

そろそろ話が怪しくなってきました。

なにせ昭和のわが国は

生産性が低いはずのハンコ文化のもと

世界的な経済大国になったのですぞ。

 

ハンコ文化は生産性の低さの象徴であり、

生産性を直接的に下げているのではないというのであれば

本人確認をデジタル化したところで

生産性が直接的に上がることはありません。

 

のみならず。

決裁(つまり意志決定)に手間と時間がかかるから

ハンコ文化は生産性が低い、

ないし生産性の低さの象徴だ

という主張は、

ある重要な前提のもとに成り立っています。

 

すなわち、

手間と時間をかけた意志決定も

手間も時間もかけない意志決定も

正しさの点では変わらない

という前提。

 

はたしてこれは正しいか。

ロクに重要性を持たない些末な事柄ならともかく

大事な案件であればあるほど

手間と時間をかけて、じっくり決裁したほうがいいのではないか。

 

のみならず。

時間や手間が省けるということは

裏を返せば

悪用されるリスクも高まりかねないということ。

なにせ面倒じゃなくなるんですから。

 

手のひらの血管や、網膜をチェックする生体認証システムならともかく

電子署名やフォーム送信ごときでは

たやすくハッキングされるんじゃないですかね?

 

ついでに今はサイバー攻撃によって、

一国の基幹インフラすら機能不全にできる時代。

デジタル・ガバナンスを実現したはいいが

どこかの国のサイバー攻撃で政府・地方・民間がそろって麻痺!!

なんてことになったらどうするのか。

 

「だから平和主義から脱却しなさいって言うのよ」(※)お姉さまのお言葉です。

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・・・断っておけば

本人確認のデジタル化はすべてダメ

などと言っているのではありませんよ。

 

デジタル化によって行政手続きや社内稟議が簡素化され

そのことでメリットが生じるケースも

少なからず存在するでしょう。

 

ただしデジタル化の推進は、以下の点を踏まえて行うべきではないでしょうか。

1)世の中には、手間や時間をかけたほうがいい意志決定も多々存在する。

2)手間や時間が省けるということは、悪用のリスクが高まることでもある。

3)デジタル化された情報インフラは、サイバー攻撃の危険につねにさらされている。

 

つまり政府が本当に

「安全、安心、公平、公正」

「持続的で豊かな社会」

「国民、企業への具体的なベネフィット(利益)」

を達成したいのであれば、

デジタル化されたガバナンスと

デジタル化されないままのガバナンスの

適切なバランスをさぐるべきであり、

何でもデジタル化すればいいなどと

安直に考えてはいけない、ということです。

 

し・か・も。

 

今や日本を訪れる外国人観光客の間では

自分のハンコをつくるのが大人気なのだとか。

「日本で買うべき最もクールなもの」として

印鑑を紹介している旅行情報サイトまであるそうです。

 

「ハンコ王子」の異名を持つ

在日フランス人のロマ・トニオロさんいわく。

 

はんこは日本の文化を象徴するとても大切なもの。

だから、はんこを使うことは

僕が(大好きな)日本人に近づく大切な一歩なんだ。

 

ロマさん、「兎弐桜路(トニオロ)」という印鑑を愛用し

折に触れて恍惚の表情で押すのだそうですが

(書類に)三文判とか、

どこでも売ってるようなはんこを押さないといけない

局面は一体何なのか

という平井大臣の発言にたいする答えは、

もはや明らかでありましょう。

 

それこそが素晴らしき日本文化なのですよ、大臣!

 

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