2019年になっても
ヨーロッパはガタガタしている感が濃厚。
まずイギリスでは明日(15日)、
EU離脱についての合意案が
ついに議会(下院または庶民院)で採決にかけられますが
可決されると見ている者は
あいかわらずほとんどいません。
共同通信いわく。
与野党双方で反発が根強く、
メイ首相は昨年12月の当初の予定を延期して
事態の打開を目指したが苦境は変わらず、
否決の公算がなお大きい。
与党保守党は定数650の下院で317議席と過半数に満たない上、
複数の英主要メディアは11日前後までの時点で、
100人強が合意案に反対の立場だと伝えた。
ちなみに否決された場合、
メイ内閣は3日以内に
議会に代案を提示しなければならないとのことですが・・・
そんなことできるのか?!
EUはEUで
合意なき離脱は英国にも欧州にも大惨事だ(ユンケル欧州委員長)
として、
この合意案では、結局ズルズルとEUから抜けられないのではないか
という英国議会の不安を払拭するための文書を用意中らしいものの、
今のところ公表されていません。
ついでに合意案の再交渉はしないとのことなので
これで議会が納得するかどうかも疑問。
で、どうなるかというと・・・
合意案否決なら、
合意なき離脱を避けるため、
4月以降に離脱が延期されるとの観測も強い。
ただ、延期には英国がEUに要請し、
全加盟国が同意することが必要。
合意案の英議会承認の見込みがある場合を除けば、
英総選挙や2度目の国民投票実施などが条件になるとみられている。
また、5月下旬の欧州議会選挙後に離脱がずれ込む事態への懸念から、
仮に延期しても最大3カ月程度にとどまるとの見方もある。
だとしても、
2年以上かけてまとめた合意案がこれだけ支持されないとき
3ヶ月程度の離脱延期で
事態が収拾できるとは信じがたい。
そもそもイギリスで国民投票を行うには
半年程度の準備期間が必要とされたはず。
しかもそれで万一、
「EU残留」の結論が出たらどうなるのか。
2016年の民意は間違っていて、
2019年の民意こそが正しい。
そう割り切って良いものでしょうか?
国のあり方の根本をめぐる問題について
数年のうちに国民投票を二度やること自体、
民主主義を揺るがす意味合いを持ちかねないのです。
ちなみにイギリス政府、
合意なしの離脱という事態に備え
物流をめぐるシミュレーションも行っていますが、
焼け石に水の印象は否めないとのこと。
なにせイギリス東部、ケント州の港ラムズゲートから
ベルギーの港オーステンデ(英語読みだと「オステンド」)にいたる
フェリー定期航路を新設することが決まり、
シーボーンという新興海運会社に業務を委託したのはいいものの、
この会社、まだ船を1隻も持っておらず、
ラムズゲートやオーステンデの港湾使用許可も得ていないというのです!
というわけでブレクジット、
いよいよ八方塞がりの感があるものの、
ドイツと並ぶEUの中核、
フランスもフランスで混乱が続いています。
例の「黄色いベスト」運動は年が明けてもおさまらず、
むしろ参加者が増える傾向まで見せている。
暴力沙汰は収まりつつあるとのことですが、
クリストフ・カタネール内相によれば
今までのデモによって
仏国内の道路に設置された自動速度違反取り締まり装置3200台のうち
60%近くが破壊された
とのこと。
マクロン大統領は13日、
「大国民議論」と銘打った対話集会を各地で行い、
どの税を最初に引き下げるべきだと考えるか
具体的にどのような案であれば、環境配慮型社会への移行が促されると思うか
などについて話し合ってもらうと発表。
実施期間は1月15日〜3月15日で、
結果はその一ヶ月後(つまり4月)に報告するとのことです。
くしくもブレクジットの期日(3月29日)と重なりますが
(大国民議論は)選挙でも国民投票でもない
という留保もついており、
意見がどの程度、反映されるかは不明。
事と次第によっては、
「黄色いベスト」運動がさらに盛り上がる結果になるかも知れません。
新しい「5月革命」ですね。
要するにグローバリズムも反グローバリズムも
同じくらい混迷しているのですが、
この状況を把握するキーワードはこれかも知れません。
つまり階級対立(または階級闘争)。
チャンネル桜の新春キャスター討論の冒頭でも触れた話ですが
こう思うようになったきっかけは
ベルナルド・ベルトルッチ監督の大作『1900年』を
昨年暮れに観たこと。
イタリアの農園を舞台に
1900年から1945年までの
(エピローグでは1970年代も出てきますが)
地主と農民(小作人)たちの対立を描いた
二部構成、全5時間16分の映画です。
しかるに劇中、農民が地主にこう文句をつけるんですね。
地主は不都合なことがあると、すべてオレたちの責任にする。
嵐で作物の出来が悪いのもオレたちの責任。
ケガをするのもオレたちの責任。
病気になるのもオレたちの責任で、
死ぬのもオレたちの責任とくる。
勝手すぎるぞ!
「でも、これを読まないのは完全にあんたの責任よ!」(※)お姉さまのお言葉です。
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・・・この論法、聞き覚えがありませんか?
そうです。
新自由主義者の大好きな自己責任論です。
思えば新自由主義は
市場原理を絶対視し、
格差拡大を容認するなど、
富裕層にとって都合の良い理念。
となれば
新自由主義 vs 反新自由主義
の対立にしても
資本家(富裕層) vs 労働者
という階級対立のバリエーションとなります。
けれども問題は、
これがグローバリズムとどうからんでくるか。
往年の階級対立では
「万国の労働者よ、団結せよ」
という有名なスローガンが示すように
労働者の側がグローバリズム寄りでした。
『1900年』にしても
富裕層は地主ですから
特定の土地を基盤として生きている。
つまりローカルな存在なのです。
しかし現在の富裕層は
カネを基盤としたうえ、
それを国境を越えて活用しようとします。
言い替えればグローバリズム寄り。
逆に労働者は
自国の制度や規制による保護が必要な点で
ローカル色を強めた。
すなわち
グローバリズム vs ナショナリズム
の図式も
資本家(富裕層) vs 労働者
のバリエーションとなります。
新自由主義とグローバリズムは基本的に相性が良いので
大まかにまとめれば、
「国」の枠にこだわる人々=一般民衆(労働者)
「国」の枠を否定したがる人々=富裕層(またはエリート)
という図式になる。
「黄色いベスト」運動は、まさにこの図式通り。
あれは労働者や農民から火がついたものですからね。
しかし見落とせないのは、伝統的に言えば
「国」の枠にこだわる人々=富裕層(またはエリート)
「国」の枠を否定したがる人々=一般民衆(労働者)
という反対の図式が成立していたこと。
これを踏まえれば
労働者の扱いを国際的な基準より低くするために
反グローバリズムを唱える
という
「一国新自由主義」の発想だって
出てこないとは限りません。
というか、
イギリス労働党はまさにその理由で
保守党のメイ内閣がまとめてきた合意案に反対しているのですよ!
ジェレミー・コービン党首は
先週行った演説で
メイ内閣がやろうとしているのは、
一部富裕層だけが得をするような形のブレクジットだ
と断言したんですから。
事実、労働党の提起したブレクジット案は
EUとの関税同盟を肯定するなど
いわゆる「ソフト・ブレクジット」的な色彩が強い。
ただし国民投票によってEU離脱の結論が出た以上、
その民意は無視できないし
自国労働者の保護という点から
移民についてもそうそう肯定できず、
歯切れが悪くなってしまうのですが。
すなわちイギリスとフランスが
ともに混乱に陥っている現状は
新自由主義 VS 反新自由主義
または
グローバリズム VS ナショナリズム
という対立の図式が、
富裕層 VS 一般民衆
という階級対立の図式と
微妙にねじれた形で重なり合っていることを
提示しているように思うのです。
それはすなわち
新自由主義とグローバリズムは
相性が良いにしても完全にイコールではない
ことを暗示する。
のみならず。
「反グローバリズム的な新自由主義」が存在しうるのであれば
反グローバリズムを唱えることと
ナショナリズムを唱えることも
完全にイコールではありえない。
この点に気づかず
反グローバリズムならナショナリズムのはずで、
すなわち正義である!
なおと構えてしまうと
いずれ予想外の落とし穴が待っているかも知れませんよ・・・
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ではでは♬(^_^)♬
8 comments
拓三 says:
1月 15, 2019
難しい話でごじゃりまするな …..。最後は歴史に培われた民度かな。
日本でも農業や漁業、水道など有りとあらゆる所において佐藤氏が懸念する改革が進められてますし。それに輪を掛けグローバルに全力疾走…..。中間共同体を壊して大企業(グローバル&株主)がその役割…国民はいずこへ ~ 。
近代国家が何故必然的必要になったのか。その前の宗教も。そして資本主義と民主主義のバランス。それを踏まえ私がよく考えるのが技術進歩による自然淘汰の崩壊。それにより必然的に作り出された人類の思想。試行錯誤しながら現代にいたる人類の歴史。(なのに市場原理を信じるバカ)
まっ、ここを考え出したら男必要か ? てなるわけで未来の為に自害するのが正義 ? と迷う今日この頃で御座います。
豆腐メンタル says:
1月 15, 2019
ここではグローバリズムに対置される言葉はネイティビズム(nativism/排外主義。極端な保護主義)が相当かと思われます。
つまりグローバリズムと反グローバリズムは、ヒト・モノ・カネの移動の自由度合いに関するイデオロギーです。
一方、新自由主義に対置されるのは反新自由主義。
これは、公の介在の度合いに関するイデオロギーです。
上記イデオロギーの組み合わせの事と次第により“自己責任論”または“階級闘争運動”が興ります。
求められるのは今も昔も「力」。
一強多弱または独裁が幸せ。。なんて言ってるのは常に少数派の側です。
福祉国家の否定までが射程圏内。なんなら多数派の不幸せが新自由主義の推進力と言えるでしょう。
>「国」の枠にこだわる人々=富裕層(またはエリート)
>「国」の枠を否定したがる人々=一般民衆(労働者)
先生の言われるように伝統的にはこの↑式が成り立っていた。
ただし、技術の進歩が”枠”を飛び越えてしまった。
>労働者の扱いを国際的な基準より低くするために反グローバリズムを唱える
これ↑も技術の進歩が原因としか考えられない状況ですよね。
移動や情報に関する技術が進みすぎちゃって今は人類最強でないと弱者なんですよ。
皆さ〜ん幸せですか〜?
GUY FAWKES says:
1月 16, 2019
>ここではグローバリズムに対置される言葉はネイティビズム(nativism/排外主義。極端な保護主義)が相当かと思われます。
つまりグローバリズムと反グローバリズムは、ヒト・モノ・カネの移動の自由度合いに関するイデオロギーです。
>一方、新自由主義に対置されるのは反新自由主義。これは、公の介在の度合いに関するイデオロギーです。
豆腐メンタル旦那の興味深いご指摘を三橋貴明さんもよく引用されているダニ・ロドリック氏の「国際政治のトリレンマ」と並行して考えてみると、今回の佐藤先生の記事もより意味深長なものになる。
「グローバリズム」「国家主権」「民主主義」この内2つを選択したら、残り1つは諦めなければならない、というアレです。
>それはすなわち新自由主義とグローバリズムは相性が良いにしても完全にイコールではないことを暗示する。
>のみならず。「反グローバリズム的な新自由主義」が存在しうるのであれば
反グローバリズムを唱えることとナショナリズムを唱えることも完全にイコールではありえない。
>これを踏まえれば労働者の扱いを国際的な基準より低くするために反グローバリズムを唱えるという
「一国新自由主義」の発想だって出てこないとは限りません。
ここがポイントですね。「反グローバリズムな新自由主義?一国新自由主義?そんなもんある訳ないだろ(鼻ホジ)」と思われる賢明()な方々も真正保守層()にはいらっしゃるかもしれませんが、そもそも日本は内需が8割以上を占める国。
先の「国際政治のトリレンマ」を「国内政治のトリレンマ」として「グローバリズム」を「新自由主義」に置き換えてみると、
あ〜ら不思議!「国内のモノ・カネ・ヒトの自由化と国家主権を選んだなら、民主主義は諦めなければならない」となる!
例として大店法(大規模小売店舗法)の改定と廃止を振り返ってみればいい。アメリカの圧力があったのは事実とはいえ、
国内の大手ショッピングモールもしのぎを削りあう中で地元商店街はシャッター通りと化し、
公共交通機関の整備が不十分な地方都市ではご年配の方や肉体的に不自由な方に買い物難民が続出した。
その末路は地方創生ならぬ地方早逝!インフューラー閣下の憤怒が聞こえます…
正に、技術の進歩が人や国家と足並みを揃えられなくなった最たるものですな。
もっとざっくばらんに言ってしまうと、健全なナショナリズムの醸成の為には「アメリカの圧力ガー!」と
あまり声高に叫びすぎると必然的に陰謀論じみたものになるとも言えるかもしれません。
なんというか、それは保守層がよく言う「WGIPによって日本人は洗脳された!」とかいうアレと既視感を覚えるのです。
一国でも新自由主義が成立するんだから、外的圧力の脅威を殊更槍玉に挙げるのは主体性の欠如を露呈しているも同然。
豆腐メンタル says:
1月 17, 2019
早いものでそろそろ一年経ちますね。
「国内政治のトリレンマ」についてはよく考えてみます。さて。。
イギリスのグダグダブレグジットにしても、フランスのイエロージャケット運動&暴動にしても、もちろんトランプ大統領が選出されるアメリカにしても、ハンチントンの『分断されるアメリカ』の見立てが正しかったようです。
彼によれば、各国指導層(富裕層)は信条(イデオロギー)を重視して「市民的」であろうとする。脱構築主義で考え動いている。いろんな意味で国の枠を超えている。
一方、国民(一般民衆)は「愛国的」。いつも“幻想”の共同体の中が居心地が良い。多文化主義など面白くない。
この乖離を分断と呼んだ。
この先は私の考えですが、この乖離が“自己責任論”または“階級闘争運動”の育つ土壌になっています。また、情報技術の進歩とヒトモノカネの移動の自由は居心地の良いレベルをとうの昔に過ぎている。
ハンチントン先生に言わせれば「はたして「信条(イデオロギー)」だけで国家は維持できるのかという疑問である」となるようです。
>新自由主義とグローバリズムは相性が良いにしても完全にイコールではない
永遠の周回遅れの日本において重要な佐藤先生の指摘だと思います。
国は違えど、行き過ぎた新自由主義は「国とは何か」を呼び醒まし、行き過ぎたグローバリズムは「主体は何か」を呼び醒ますのでは無いでしょうか。
呼び覚ますとは言っても基は“幻想”の共同体。。現行きすぎたイデオロギーに対するコレじゃない的反動となって現れる。
何が言いたいかと言えば、この反動に文句は無いのですが、この反動自体が愛国や保守や正義であるなどと構えられても吹きますよってことです。
マゼラン星人二代目 says:
1月 16, 2019
>労働者の扱いを国際的な基準より低くするために
>反グローバリズムを唱える
>という
>「一国新自由主義」の発想だって
>出てこないとは限りません。
保守の重鎮で、
「残業してもいいからスキル磨きたい」というやる気のある(=都合のいい)従業員、どこかにいねえかなあ。。。
とのたもう御仁もいる。
「社長」だけあって、経営者サイドの「階級意識」まるだし。
マゼラン星人二代目 says:
1月 17, 2019
>「残業してもいいからスキル磨きたい」というやる気のある(=都合のいい)従業員、どこかにいねえかなあ。。。
続けて「日本の美風、今いずこ」などとこれみよがしに嘆いてみせるのがお約束。
アトロ says:
1月 17, 2019
一国新自由主義的政策って何だ?と思って考えてみたのですが、
新自由主義ではないかも知れませんが、東京一極集中は明らかに国内で格差を拡大していますよね。
東京と地方の対立ではありますが、東京=経営者や資本家、地方=労働者と変換することもできます。
東京と沖縄の遠方でもインターネットなどを使ったアウトソーシングで済ませられます。
これは海外にアウトソーシングをするのと同じじゃないでしょうか。
問題は現在の日本の労働者の賃金が海外に比べて高いだけで。
グローバリズムによって破壊しつくされた後でナショナリズム的な主張を唱えても経営者、資本家は損をしないのではないでしょうか。
風街マロン says:
1月 19, 2019
天皇制反対・護憲お花畑の人達も反グローバリズムを唱えていますので、
特に日本の場合、反グローバリズム=ナショナリズムでないのは、極めて明確ですよね。
今、佐藤先生の「未来喪失」を古本で買って読んでいるのですが、
めちゃくちゃに面白いし、本を読み進めるうちに
私自身の意識が変わりつつあります。この本は(この本も)傑作中の傑作だと思いました。
平和主義は貧困への末路も買いました。2冊並べてみると、未来喪失の表紙は、
大人になる前の、どこの誰でもない(裏返せば、どこにでも存在する)女の子の
絵なのに対し、最新本では、表が菜々緒さん、裏が橋本マナミさんに
似ている絵で、表紙がもの凄い対照的です。
あと何年か後の佐藤先生の本の表紙は、中年のおばさんになっているのかもしれない。
・・・それはないですね。(笑)