アメリカ人とフロンティアとの関係を理解するうえで
もう一つ、重要と思われるのが
作家のノーマン・メイラーが1960年に語った言葉。
フロンティアから送られてきたメッセージに、こんなものがある。
すなわち、無法者は保安官より大きな価値を持つ。
なぜ無法者のほうが
保安官より重要なのか、
メイラーは詳しく説明していません。
とはいえフロンティアのあり方を考えるとき、
この言葉は分からなくもない。
フロンティアに、確立された法秩序というものはないのです。
これから社会を築いてゆかねばならない未開の地なんですから。
となると、
確立された法秩序をよりどころとする形で
人々の行動を規制しようとする保安官よりも、
合法か違法かはともかく、
やることをやってしまう無法者のほうが
結果的に、そこで暮らす人々の役に立つこともありうる。
ちなみにアメリカのロック評論家デイブ・マーシュは、
ブルース・スプリングスティーンについて、
そのような意味での無法者と位置づけています。
そしてマーシュはこうも書いている。
スプリングスティーンは、伝統的な価値を否定したいという欲求と、
それらの価値をよりどころにしたいという欲求の間で引き裂かれているのだ。
これは非常に面白いポイントです。
マーシュが正しければ、
無法者とは、どこか保守的な存在だ
ということになるからです!
保守すべき伝統のないところ(なにせフロンティアですので)において
なお伝統をよりどころにしようとすれば、
人は保安官よりも無法者に近くなる、
そういうことなのでしょうか?
なにやらサルバドール・ダリの名言
伝統に従わない作品は盗作だ
が思い出されますが・・・
けれども問題は、
フロンティアでは無法者のほうが保安官より価値がある
という発想が、
アメリカの対外政策にも、しばしばうかがわれること。
中野剛志さんが「世界を戦争に導くグローバリズム」で指摘したように、
アメリカは自国の価値や理想を広めようとする際、
国際的なルールを無視して行動する傾向があるのです。
世界の警察官などとも呼ばれたアメリカが
同時に世界の無法者でもある。
ここらへんが、厄介なところですね。
しかしフロンティアでは、本当に無法者が保安官(=警察官)より大きな価値を持つとしたら?
ついでに無法者は、根底では保守的な存在だとしたら?
アメリカという国のあり方は、
いろいろ考えるべき点を含んでいるのです。
ではでは♬(^_^)♬
2 comments
マゼラン星人二代目 says:
11月 14, 2014
>すなわち、無法者は保安官より大きな価値を持つ。
>スプリングスティーンは、伝統的な価値を否定したいという欲求と、
>それらの価値をよりどころにしたいという欲求の間で引き裂かれているのだ。
>無法者とは、どこか保守的な存在だ
はたから見れば、たしかに、矛盾していてツジツマが合わない感じがします。
が、公権力や実定法の存在を待たずして、社会はそれ自体として秩序を形成・保持し、ある種の規範に律せられうる、という暗黙の確信がこの「矛盾」を支えているのだとは考えられないでしょうか。
無秩序とかアナーキーとか「リアル北斗の拳」とか「官から民へ」とか表記してはみるけれど、自生的秩序のヴィジョンをどこかで密輸入しているのが実際のところであって、ホッブス説(「拳王でも寝首をかかれる」「弱肉強食など生ぬるい」)のような極論には思いいたらないのが常なのでしょう。
マゼラン星人二代目 says:
11月 14, 2014
>が、公権力や実定法の存在を待たずして、社会はそれ自体として秩序を形成・保持し、あ
>る種の規範に律せられうる、という暗黙の確信がこの「矛盾」を支えているのだとは考え
>られないでしょうか。
さらには、(そういう社会から析出された)「自分」の善性に対する素朴で強固な確信、内省の不足、悪くすると、「独善」に傾きかねない。