昨日の記事

「デジタルとヴァーチャル、または誤った二分法」

について

GUY FAWKES さんが寄せてくれたコメントに、

こんな一節がありました。

 

「世界が進歩したのは、怠け者がもっと簡単な方法を探そうとしたからだ」

−ロバート・A・ハインライン

 

ご存じの方も多いでしょうが

ハインラインは20世紀アメリカを代表するSF作家の一人。

 

アイザック・アシモフ(「われはロボット」「銀河帝国の興亡」)、

アーサー・C・クラーク(「2001年宇宙の旅」「幼年期の終わり」)と並んで

SF界の三巨頭と見なされました。

 

「宇宙の戦士」という作品では

戦闘用の強化装甲宇宙服というアイディアを考案、

パワード・スーツと名づけましたが

これがアニメ「機動戦士ガンダム」における

モビルスーツの元ネタとなったのは有名な話です。

 

もっとも「宇宙の戦士」を映画化した

「スターシップ・トゥルーバーズでは

パワード・スーツが出てこなかった!

 

この物語には人類の敵勢力として

「バグス」と呼ばれる昆虫型エイリアンが登場するのですが

そちらのCGにカネがかかりすぎたのだそうです。

 

これがホントの金食い虫、なんてね。

 

おかげで映画の宇宙兵たちは

普通の手袋をはめただけの状態で

核手榴弾を扱うハメになりました。

 

それはともかく。

「世界が進歩したのは、怠け者がもっと簡単な方法を探そうとしたからだ」

とは、なかなかの名言です。

 

「簡単な方法」とは

1)時間

2)労力

3)費用

について、より効率的な方法と定義できるでしょう。

 

ところがですな。

 

理屈ではこの定義をすべて満たしているはずの方法が

実際には従来の方法より高くついたりするのです!

 

さしずめ

「簡単な方法」のパラドックス

というところ。

 

たとえば映画におけるCG。

 

「スター・ウォーズ」の生みの親ジョージ・ルーカス

1980年代からCG技術の開発を熱心に進めていました。

 

で、そのころルーカスは

こんな趣旨のことを言っています。

 

CG技術が発達すれば

今は100万ドルかかる特撮映像を

10万ドルでつくれるようになる。

つまりは予算面の心配が

それだけ少なくなるわけで

 そのぶん物語とか演技といった

より重要なポイントにエネルギーを注げるだろう。

 

CGこそ、映画を進歩させる「簡単な方法」というわけです。

 

「スター・ウォーズ」のような映画でも

作品の魅力の75%は物語と演技であり、

特撮映像は残り25%を支えるにすぎない

というのがルーカスの持論でしたからね。

 

しかし、実際にはどうだったか?

 

CG技術が発達しても

ルーカスが予想したような形で映画が進歩することは

私の判断するかぎり

ほとんど起きていません。

 

それどころか

10万ドルかけるだけで

従来の100万ドルぶんの映像がつくれるんだから

CGに100万ドルかけたら

前代未聞の映像がつくれるはずだ!!

とばかり、

製作費が膨らみまくっているのが

ハリウッド娯楽大作の実情です。

 

当然、多くの場合

物語や演技は脇に追いやられるハメに。

「簡単な方法」にこだわるあまり

かえって高くついているのですよ。

 

「スターシップ・トゥルーパーズ」もそうでしたが

最たる例はルーカス自身がつくった

「スター・ウォーズ」新三部作(エピソード1〜3)。

 

CGを駆使しまくった映像は豪華だったものの

作品の魅力の75%を占めるはずの

物語と演技に関しては

どう見ても、旧三部作(エピソード4〜6)に遠く及びませんでした。

 

ついでにルーカス、旧三部作についても

デジタル技術による改訂を何度か行っていますが

それで出来が良くなったとは思えない。

ハッキリ言えば、変に手を入れすぎて逆効果になっている感が濃厚です。

 

ミイラ取りがミイラになってどうするんですか、ルーカスさん?

 

 世界が進歩したのは、怠け者がもっと簡単な方法を探そうとしたからだ。

ただし「簡単な方法」による進歩は、

うわべだけのものにすぎないことも多いから気をつけろ。

 

ハインラインの言葉も、

こう言い直したほうがいいかも知れませんよ。

ではでは♬(^_^)♬