チャンネル桜「闘論! 倒論! 討論!」
「映画を通して見る現代世界」、
いかがでしたか。
今回の討論では
最近の日本やアメリカ映画、
とくにメジャー系のものについて
現在が21世紀であることを否認し、
「本当はまだ20世紀(後半)なんだ」と言いくるめたがる
20世紀ノスタルジアとも呼ぶべき傾向が感じられる
と指摘しました。
20世紀後半と言えば
いろいろな意味で物事が現在より安定していた時代。
アメリカは世界の覇権国として冷戦に勝利しましたし、
日本はそのアメリカに従属しつつも
繁栄への道をひた走っていました。
ですから20世紀ノスタルジアが生じるのも
相応の理由があるわけですが、
「戦後」も実質的に20世紀後半から始まっている以上
(敗戦は1945年ですが、独立回復は1952年なので)
このノスタルジアに取り込まれたら最後、
戦後脱却は望めません。
ここらへんが
戦後レジームからの脱却と言いつつ
アメリカへの完全従属に邁進してしまう現政権と
妙に重なるのがポイントですが・・・
1997年、わが国では実際に
「20世紀ノスタルジア」というタイトルの映画が公開されました。
監督は原将人さん。
そして主演は、なんと広末涼子さん!
初主演作品でした。
けれども「20世紀ノスタルジア」、
いわゆるアイドル映画とはちょっと違う。
じつは1995年夏、
まだ広末さんが無名の頃に製作が始まったのです。
その段階ではかなりマイナー、ないしカルト的な企画だったようで、
現に撮影が1年半にわたって中断されたくらいなのですが
ほどなくして広末さんが大ブレイク!!
かくして1997年初頭、撮影が再開されたころには
映画の扱いもメジャー化。
同年夏の公開にあたっては
サントラCDは出るわ、小説版は出るわ、写真集など2種も出るわ
という盛り上がりを見せました。
だとしても、途中までは出来てしまっているのですから
もともとのマイナー色を完全に払拭できるはずはない。
こうして「20世紀ノスタルジア」は
トップアイドルを主役に据えたカルト映画
という、なかなか希有な作品になりました。
簡単に要約すれば
広末さん演じる女子高生・遠山杏(とおやま・あんず)が
ニューヨークから転校してきた同級生の片岡徹と
ビデオで映画をつくるという話なのです、が・・・
片岡徹には「チュンセ」なる宇宙生物が取り憑いていたのです。
フォルクス第七惑星なるところにある
宇宙生命文化研究所の調査員なのだとか。
ところがこれを客観的に裏付ける描写が何もない。
ハッキリ言って、妄想にとらわれているだけとしか見えなかったりします。
「チュンセ」は分裂生殖によって「ポウセ」なる分身を生み出し、
これが遠山杏に取り憑く。
ところが例によって、これを客観的に裏付ける描写が何もない!!
宇宙生物に取り憑かれたのではなく、
宇宙生物に取り憑かれたというごっこ遊びをしているとしか思えないんですよ。
それはともかく、チュンセ、または片岡徹によれば
地球人は繁栄のしすぎか何かで、そう遠くない将来に滅びてしまう
らしいんですな。
こうして徹と杏は
地球人滅亡の原因をさぐると称して
あちこちでビデオカメラを回すうち
互いに惹かれ合ってゆく・・・
何が何やら、訳が分からない?
ハイ、その通りです。
「20世紀ノスタルジア」は、
こういうものとして受け入れるか、拒絶するかの二者択一しかないタイプの映画
なんですよ。
トップアイドル主演のカルト映画という特殊性ゆえに
作り手の観念が
十分なリアリティを持たないまま肥大化してしまったのでしょう。
しかし「20世紀ノスタルジア」の場合、
そのリアリティを欠いた観念性が
当時の日本の雰囲気を妙にうまくとらえていた気がします。
これについては、また次回。
ではでは♬(^_^)♬
11 comments
Guy Fawkes says:
3月 27, 2016
先の討論、視聴させて頂きました、お久しぶりにご尊顔を拝見できて嬉しいです。
また、要らぬお世話を承知で申し上げさせて頂きますと、昨年の事故の後遺症故か
些か佐藤先生に老いが見られたというか、窶れられた様で少し心配しております。
大変に失礼な事を申し訳ありません。
前半部の佐藤先生のご考察と本記事を元に現代のポップカルチャーを改めて見直すと、
どれもかしこも「自分達の未来はこんなものではない、断じて違う!」という強烈な情念が感じますね。
近現代に筋を通さなかった故に生まれた、正に「夢見られた未来」!
「昔、外がこの町と同じ姿だった頃、人々は夢や希望にあふれていた。21世紀はあんなに輝いていたのに。
今の日本にあふれているのは汚い金と燃えないゴミくらいだ。」
-当該作品の悪役・ケン 『劇場版 クレヨンしんちゃん オトナ帝国の逆襲』より
SATOKENJI says:
3月 27, 2016
お気遣いありがとうございます。
収録直前に剥離が生じた影響でしょう。
歩きづらいと、やはり疲れますよ。
ブギーナイツが忘れられない says:
3月 27, 2016
今回のブログ記事内容とは関係がなくて恐縮ですが、佐藤先生は東大在学中にオザケンとは遭遇されましたか?ひょっとして話したことあるとか?
世代的に相当近いし・・。
加えて、渋谷系などのムーヴメントも直撃された世代だと思います。佐藤先生的にあまり興味がなかったのか、或いはその逆なのか。あのムーブメントを佐藤先生が当時どう見ていたのかとても知りたいな。
以上とってもミーハーな質問で佐藤先生に怒られるかもですが、機会があれば教えてほしいです^^;
SATOKENJI says:
3月 27, 2016
期待を裏切るようで恐縮ですが、オザケン氏との遭遇はありませんでした。
渋谷系のムーヴメントもあんまりでしたね。
一般論ですが、ムーヴメントというのは「後から振り返ると際立つ」性格が強く、
起こっている最中は、さほど意識されないことが多いのです。
半ライス大盛 says:
3月 28, 2016
闘論! 倒論! 討論!
拝見させて頂きました!
随分お痩せになられて、体調が宜しくないのかと
少し心配になりました。
しかし、目つきが武術家かのそれのように鋭くなり
柴田錬三郎の剣豪ものの小説に出てくる侍のようにも
見えました。(すみません訳分からない事言いまして・・・)
番組すごく良かったです。今まで、邦画に魅力を感じていなかった
モヤモヤ感の訳がようやく分かったような気がしました。
邦画ってもはや、邦画と言うジャンルの結論が決まった
世界観によって生産される映像なので、
いつも、カットが長いなぁと感じていたのは
実は、何処かの何かの作品の焼き直しなので、先が分かっている
からカットが長く感じていたのでろうと勝手に
理解いたしました。世界観がよく出来た作品は長いカットも
時間が立つのを忘れて見入ってしまいます。
そういう意味では、アニメやゲームは邦画に出来ない世界観を
作ってますね。
また、広末涼子さんは、後に『バブルへGO!!』って言う映画にも
出演されてましたっけ。
考え深いものが有りました。
SATOKENJI says:
3月 28, 2016
お気遣いありがとうございます。
たしかに体重は事故前より10キロぐらい落ちました。
が、これは入院中、間食を控えていたことによるものです。
入院中はどうしても運動不足になるため、体重が増えないように・・・
と思ったのですが、身体がその状態に慣れたのでしょう。
退院後も小食になりました。
体調について言えば、足の痛みを別にすればべつに大丈夫ですよ。おかげさまで。
メルケル says:
3月 28, 2016
先日の討論拝見致しました。話の流れの中で、佐藤先生が「シェイクスピアも自分の作品の中で、当時の王権(政権)を批判していた」と言った趣旨のご発言があったように記憶しますが、そういう視点でシェイクスピアの作品に触れた事が無かったので、これを機に勉強したいと思います。
シェイクスピアの当時の社会批評の要素をクローズアップして研究したような書籍で、佐藤先生のお薦め等ございましたらお教え頂けませんでしょうか?
SATOKENJI says:
3月 28, 2016
書籍となるとパッと思いつきませんが、各作品の解説などでも、時代背景との関連について触れたものがあります。
たとえば福田恆存さんの説だと、「ヴェニスの商人」のシャイロックは、じつはイギリス国内のピューリタンを表していたとのことですよ。
メルケル says:
3月 28, 2016
ありがとうございます!とりあえず福田恆存の解説から当ってみようと思います
SATOKENJI says:
3月 28, 2016
「ヴェニスの商人」をめぐる福田さんの解説は、評論「シェイクスピア劇のせりふ」に収録されています。
ただしこの評論が「ヴェニスの商人」文庫版に収められているかどうかは未確認なのでご注意を。
なお、要の文章はこれです。
「法を楯に敵を裁こうとするシャイロックのうちにシェイクスピアは当時のピューリタンの正義派を見ていたのに相違なく、(中略)ピューリタンの代わりに、当時ならどこからも文句の出ないユダヤ人を持ってきただけの事ではないか」(原文旧かな、表記を一部変更)
メルケル says:
3月 28, 2016
細かい情報まで教えて頂き恐縮です。調べてみたら全集で読めるようなので、早速購入しました。他の評論と合わせて熟読したいと思います。本当に有難うござました!