一昨日の記事
「最も恐怖を味わう瞬間、またはカラスとフクロウ」
で取り上げた某アクション時代劇は
映像表現の追求において安直、
ないしテキトーだったわけですが・・・
言葉をいい加減に扱った映画というのもあります。
本日はそちらをご紹介しましょう。
これについては、タイトルを出さないと意味がない。
安彦良和さん原作・監督のアニメ「ヴイナス戦記」(1989年)。
21世紀後半、
地球と同じような環境に惑星改造され
人類が移民するようになった金星で戦争が起きる。
主人公のヒロは
金星移民第四世代の若者で、
バイク・レースの選手でもあったが
戦いに巻き込まれ
その中で成長してゆく・・・
ざっと、そういう話です。
金星をスペースコロニーに置き換え
バイクをモビルスーツに置き換えたら
ほとんど「機動戦士ガンダム」そのままでは?
という感もありますが、
それは脇に置きましょう。
この映画における言葉の扱い方が
どういい加減だったか?
なんと、
金星をどう呼ぶかという
基本中の基本からしてハズしていました。
当たり前の話ですが
作品タイトルが「ヴイナス戦記」である以上、
劇中において、金星の英語読みは「ヴイナス」で統一されねばなりません。
ところが!
この映画では主要人物のひとりが
のっけから金星を「ビナス」と呼ぶのですよ!!
タイトルの表記と一致しないのはむろんのこと、
VENUS の日本語読みとしてもこれはまずい。
「ビーナス」や「ビイナス」ならまだしも、
「ビナス」ですからね。
誰もアフレコの際に注意しなかったのでしょうか?!
いい加減な物作りとは、こういうことを指します。
ついでに。
ラスト近く、金星戦争の様子を伝えているはずの新聞記事が画面に映る。
英語なのですが、これがとんでもない代物。
1980年代後半に行われた
アメリカのレーガン大統領と
ソ連(当時)のゴルバチョフ書記長の首脳会談に関する記事を
どこかの英字紙から丸ごと引き写していたのです!!
こう言っては何ですが、
宮崎駿さんの「紅の豚」では
劇中に登場する新聞に
しっかりイタリア語で「紅の豚は死んだか?」と書いてありました。
やる人はやるのです。
英語の記事を創作するだけの語学力がなかったら
日本語で書けばいいんですよ。
日本映画なんだから。
ところが、こういうことをする。
そして、駄目押しをやってくれたのが主題歌「ヴイナスの風」。
聞かせどころの歌詞がこうなっているのです。
時空のクレバスを翔び越えてゆく
お前も選ばれた勇者なら任せろ
ON THE VENUS!
・・・オン・ザ・ヴイナスだって。
太陽系の天体の名前で
定冠詞 the が前につくのは
SUN, MOON, EARTH の三つだけということを
作詞家は知らなかったようです。
なるほど、
ON VENUS ではメロディに合わない(=音符がひとつ余ってしまう)のですが
ならば THE VENUS WARS とすればいい。
映画の英語題です。
これだって本当は
THE VENUS WAR と単数形のほうがいいんですよ。
金星戦争が数次にわたって続くわけではありませんので。
しかしまあ、この程度は許容範囲でしょう。
ちなみに「ヴイナスの風」、
ご丁寧にというべきか
タイトルの後にまで
(WIND ON THE VENUS) と銘打っておりました。
こちらは THE VENUSIAN WIND とすべきでしょうね。
VENUSIAN は「金星の」という意味の言葉。
「ヴイナシアン」ではなく、
「ヴェニューシャン」と読みます。
「金星人」という意味もありますよ。
ではでは♬(^_^)♬
8 comments
玉田泰 says:
8月 5, 2016
残念(でもない)ながらその映画は未見なのですが、記事を読んである程度察しがつきました。要するに高校の英語で赤点(懐かしい)をとった僕のような人をターゲットにした映画なのですね。
スタッフは表現者(先生が寄稿されている雑誌だ、未読です。寄った書店等が小さかったからか? 札幌の民の意識が高くて売り切れたのか?)たるモノが心得るべき有名な金言を知らないのでしょうか。
神は細部に宿る。
SATOKENJI says:
8月 5, 2016
「表現者」は定期購読もできます。
発行元のMXエンターテインメントまで問い合わせてみて下さい。
http://s.mxtv.jp/company/company.html のページ下端に
問い合わせの送信フォームがあります。(↓)
https://s.mxtv.jp/present/webmaster/
なお電話は03−5213−3985、
ファックスは03−5213−3947となっています。
アイラ says:
8月 5, 2016
定冠詞がつくのが Sun,Moon,Earthだけであるということと、日本語での他の惑星には金星、木星のように星がつき、太陽、月、地球には星がつかないことには関係があるのでしょうか?
SATOKENJI says:
8月 5, 2016
鋭いご指摘です!
そうだと思いますよ。
地球が人間にとって特別なものであることは当然ですが、天文学が発達する前の時代の人々にとっては、太陽や月も「天体として別格」だったに違いありません。
なにせ、他の星とは見た目の大きさが違う。
その意味でまさに「星」ではない。
だからこそ、英語でも定冠詞がつくようになったのではないでしょうか。
Guy Fawkes says:
8月 5, 2016
「なぜCIAに“the”がつかないか…」「神に“the”をつけるか?」
マット・デイモン主演 ロバート・デ・ニーロ監督作品 『グッドシェパード』 より
この作品が言葉をいい加減に扱った訳ではありませんが…(苦笑)
半ライス大盛り says:
8月 8, 2016
昨今のドラマは映画でも言葉の力を感じない作品が多くなってきたと思っていましたので
それが邦画の魅力を落としている原因なのではないかと思いました。
しかし、かの有名な『デビルマ○ レディ』と言う題名のマンガがあります。
題名だけで、矛盾しているのですが、これはこれで、感覚的ではありますが
正しいと思えてしまうのは不思議です。
SATOKENJI says:
8月 8, 2016
そのうち「キューティー⚪︎ニー メン」なんてマンガも出てきたりして・・・
せい says:
8月 10, 2016
漫画ですが、幽遊白書のセリフで、力量の劣る相手に「役不足だ」というセリフがあって、「役不足」の意味を間違えているという一部で有名なシーンがあるのですが、作者は映画の字幕を研究して、どうしたらそのシーンにあうように台詞を短く訳してるか考えているそうで、意味は違えどシーンに凄くぴったり合う台詞なんですよ。セリフをいったキャラがあまり頭が良くないのでキャラが勘違いをしていっただけとも取れるのがまた面白いです。