福田恆存さんの名言に
偽善は大人のすることで
偽悪は子供のすること
というのがあります。
なぜか?
偽善をする人間には
自分を実際より善良に見せないと
悪いヤツと思われるかも知れないという気持ちがある。
これは緊張感です。
ひきかえ偽悪をする人間には
自分を実際より悪質に見せても
悪いヤツと思われるはずがないという気持ちがある。
これは甘えです。
周囲にたいして緊張感を持っているのが大人で、
周囲にたいして甘えているのが子供。
明快ですね。
さて。
ツイッターを見ていたら
井上ひさしさんの文章を紹介する
「井上ひさしbot」というアカウントから
こんなツイートが来ました。
きれいはきたない
きたないはきれい
すべての値打ちをごちゃまぜにする
そのときはじめて俺は生きられる
冒頭の箇所が「マクベス」のパクリになっているところから見て
井上さんの芝居、
ないし小説に盛り込まれた人物の台詞という感じですが、
本当のところ、
どんな文脈で出てきた言葉かは知りません。
とはいえこの言葉、
恥ずかしいまでにみっともない偽悪の
見本のごとき代物。
なぜか。
問題のツイートは
俺以外に値打ちをゴチャマゼにする者などいるはずがない
ということを暗黙の前提にしている。
すべての値打ちが最初からゴチャマゼになっていたら
今さら「ゴチャマゼにする」も何もないからです。
つまりこの言葉の主、
世間的な価値観に反抗するかに見えて
じつはそれらの価値観が維持されることを
誰よりもあてにしている。
みごとなまでの甘え丸出し。
しかも、そのことが自覚できていない!!
なんともチープな反抗ではありませんか。
うわべだけのツッパリもいいところ。
・・・と思ったら、次はこんなツイートが。
平和は戦(いくさ)
戦は平和……
この混沌にしか俺は生きられぬ
今度は冒頭の箇所が「1984年」のパクリになっていますが
たとえウケ狙いのギャグだったとしても、
こうなるとウザったくなってくる。
ろくな工夫もないまま、
12歳の少年(©ダグラス・マッカーサー)レベルのツッパリを
ただ繰り返しているだけだからです。
おいおい、戦争と平和の区別が明確につけられると本気で思っているのか?
そう言いたくなるではありませんか。
児童向けならいざ知らず
大人向けの作品でこんな台詞が出てきたら怒りまっせ。
生は死、
だが死は生にあらず。
この混沌の中で
お前は生まれることもないまま死んでいる!
これくらいのツッコミがなければ
コメディとしても笑えませんね。
ではでは♬(^_^)♬
7 comments
TOMAS@ says:
9月 13, 2016
平和は戦、戦は平和…。成る程。佐藤さんのご持論は其は其でごもっともだと思いますが、もしかしたら私達の心が弱いので、戦争と平和の区別がつけられないという論もあり得るかも知れませんね。「そんなの比喩にすぎない」と強弁されれば其でおしまいですが(^^)/\(^^)
ワカズミ says:
9月 14, 2016
初コメント失礼します。
ここ1,2年、佐藤先生を初めとした先生方の説く、保守という考え方を知り、勉強させて頂いている者です。
浅学で恐縮なのですが、今回のブログを読んでの質問をさせていただきます。
まず、井上氏の言葉にあるように、異なる価値同士はごちゃ混ぜになることなく、相対するものであるという考え方を、甘えであり子供のすることと捉えるならば、その逆に、そうした矛盾を受け容れる度量のある、つまりは緊張感を持ち大人の態度をとれる者、その思考様式こそが佐藤先生の説く保守という立場と相通ずるものだ、と解釈したのですが、合っていますでしょうか?
また私自身、保守という立場を勉強し始めたばかりというのもあり、そうした価値の対立にあたって、価値相対主義に陥ることなく、その対立を乗り越えて真理に辿り着かんとする姿勢が取れず、安易に特定の立ち位置に流れてしまうのですが、世の多くの政治家や所謂知識人を見る限りでは人生経験の多寡が大人の思考を醸成するものとも思えず、半ば絶望しているのですが、何が要因となって大人になれるか否かが左右されるのでしょうか?
アンジェラマオ says:
9月 14, 2016
芸能人が不良だった過去を隠蔽して過去を偽装しようとするのは偽悪から偽装への流れなんですかね?
ホワホ says:
9月 14, 2016
偽悪はハロー効果を無効化して
相手を冷静にする為にやるものだと思ってました
っていうかそういう目的でやってます
玉田泰 says:
9月 18, 2016
ツッパリが甘えでしかないことは、事実でしょうけれど…。
先生の突っ込みは高踏に過ぎます。
井上氏のポカンと口を開けている様が目に浮かびます、氏が浮かばれないっすよ(笑)
SATOKENJI says:
9月 18, 2016
いえいえ、それは井上さんにたいして失礼というものです。
井上さんの言葉のセンス(とくに音の感覚)は非常に鋭敏です。
よって、「保守思想に基づく『大人』の条件(1)」でも書いたとおり
自分が小賢しいガキにすぎないことを自覚できず
アウトローを気取っているだけのおバカな人物の言葉として
確信犯的に書いたのだろう
と、好意的に解釈すべきでしょう。
玉田泰 says:
9月 19, 2016
申し訳ありませんでした。軽いジョークのつもりで調子コキました。
井上さんについてはあまり良くは存じ上げなくて…。
知らない人をネタにしちゃいけませんね。