みなさんもご存知のとおり、
ロックの天才、デヴィッド・ボウイが亡くなりました。
かれこれ30年以上、ファンだった私としては
何ともショックなものがあります。
音楽のみならず、
ボウイの初主演映画
「地球に落ちて来た男」(ニコラス・ローグ監督、1976年)は
スタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」(1968年)や
アンドレイ・タルコフスキー監督の「ノスタルジア」(1983年)などと並ぶ
私の人生を変えた映画の一本ですので。
ちなみにボウイ、
亡くなる直前に最後のアルバムをリリースしました。
タイトルは「★」。
これで「ブラックスター」と読みます。
アルバムをプロデュースしたトニー・ヴィスコンティによれば
ボウイは「★」が遺作になることはむろん、
発売と前後して命が尽きるだろうということも知っており、
ファンへの別れの挨拶としてつくったとか。
涙なしには聴けない作品ですね。
ブラックスター、つまり黒い星とは
待ち受けている死のことだったのでしょうか。
私はまだ聴いていないのですが、
かなり暗い作品だと言われています。
もっともここで注目したいのが
ボウイの出世作「ジギー・スターダスト」(1972年)と、
この新作タイトルとの関係。
「ジギー・スターダスト」は
宇宙人から霊感を受けてロックスターになった男の
栄光と没落を描いたコンセプト・アルバムですが、
ボウイによれば、ジギーに霊感を与えた宇宙人は
ブラック・ホール・ジャンパーズというのです。
で、ブラック・ホール・ジャンパーズの正体は
本物のブラックホールなのだとか。
「★」を思わせませんか?
ブラック・ホール・ジャンパーズから霊感を受けた男を演じることで
ロックスターになった男が
生涯の最後に「黒い星」というアルバムを残す。
ボウイはおのれの霊感の源に還ったのかも知れません。
とはいえ敬服のほかないのが
「★」のリリースのされ方。
1月8日、ボウイの69回目の誕生日に合わせて発売されたのです。
ボウイはその2日後、1月10日に亡くなったのですが
発売日を決める段階では
そこまで生きられるか分からなかったはず。
裏を返せば、1月8日発売という日取りには
見事な計算が施されています。
かりにボウイが誕生日の前に亡くなったとすれば
「★」のリリースが追悼となる。
生きて誕生日を迎えれば
やがて亡くなったとき、
最後の誕生日にアルバムを出した本当の理由が分かり、
「★」という作品の意味合いもガラッと変わる。
ヴィスコンティは
ボウイの人生は芸術そのものだったが、彼の死もまた芸術だった
と語っていますが
みずからの最期をここまで演出するとは
あっぱれとしか言いようがありません。
「★」の最後の曲は
I CAN’T GIVE EVERYTHING AWAY
(すべてを手放すわけにはゆかない)
というのですが
死を目前にしてボウイが手放さなかったもの、
それは天才的なショーマンシップだったのです。
なにせ亡くなるまでは
ガンで闘病生活を送っていることが
完全に伏せられていたのですから。
ブラックスターを残し
みずからブラック・ホール・ジャンパーズとなったボウイが
これからも無数のアーティストに
霊感を与え続けることを祈ります。
4 comments
ひぐQ says:
1月 13, 2016
国内外で昨日から読んだ中で最も的を得たコメントであります。
私も昨日から軽いショック状態で飲み続けでしたが(笑)、
なんとなく「思っていたことが言葉になった」気分です。
感謝。
「黒星」アルバムは聞く値打ちがありますですよ。
筋金入りのプログレ人間の私ですが、初曲からぶっ飛びました。
特に、歌詞とビデオを見ると、大変な前衛舞台劇です。
最後のアルバムの出し方に至るまで芸術だった…
ホントに最後までありがとう!っていう気分です。
SATOKENJI says:
1月 13, 2016
ありがとうございます。
プログレだと、ピンク・フロイドにジェネシス(とくにピーター・ガブリエル)、それにマグマあたりが好きですね。
Guy Fawkes says:
1月 13, 2016
私の父は洋楽フリークでもあるのですが、マルチアーティストとして活躍していた彼の死には
ジャンルを問わない各界からの追悼が寄せられていますね…RIP
昨年12月中旬に刊行された表現者の「アメリカとは何か」という座談会に於いて
詩人の城戸朱理さんと文芸評論家の田中和生さん・浜崎洋介さんが西部先生と富岡先生と共に
詩や小説、映画を通じて非常に興味深いお話を展開されており、
この場に佐藤先生がいらっしゃったら…と思わずにはいられませんでした。
同号の佐藤先生の一言一会での「内と外の境界を守れ」も大変興味深く拝見しました。
去年、父の日ギフトに購入したBlu-ray BOXのH・R・ギーガートリビュートコレクションで
初代エイリアンを観返した直後だったので凄まじい偶然の一致でした(苦笑)
尚、オーディオコメンタリーで憎きウェイランド湯谷からのアンドロイドだった
科学主任・アッシュを演じたイアン・ホルムがこんなことを述べていました。
「敵だというが、ノストロモ号のクルーは誰一人、彼(エイリアン)に対話を求めなかったじゃないか」
これは境界を守ろうとするあまり、排外主義に陥る危険性を匂わせているのでは…?(考え過ぎ)
ちなみにチェストバスターに寄生された哀れ副船長・ケイン役の英国の名優サー・ジョン・ハート氏は
私の愛する作品「Vフォー・ヴェンデッタ」で独裁者アダム・サトラー議長を演じておりました。
(ジョージ・オーウェルの代表作『1984年』の実写映画では主人公のウィンストン・スミス役!)
SATOKENJI says:
1月 13, 2016
ジョン・ハートさんはエレファントマンもやりましたね。
サトラー議長役は、「1984」を知っているかどうかで、インパクトがかなり違うのでは。