私の大好きな

スタンリー・キューブリック監督の作品では

車椅子に乗った男が現れると、物語が大きく動く

と言われます。

 

その頂点に立つ人物が

傑作「博士の異常な愛情」

ストレンジラブ博士でしょう。

 

「博士の異常な愛情」は

偶発核戦争による人類滅亡を

ブラック・コメディとして容赦なく笑い飛ばす

という、キューブリックでなければ絶対に思いつかない作品。

 

で、ストレンジラブ博士は

アメリカ政府お抱えの核戦略学者なのですが・・・

 

この人の英語は、ドイツ訛りが非常に強い。

もとはナチスに関わっていたことが暗示されているわけです。

 

第二次大戦直後、アメリカは本当に

ナチスの核開発に従事した科学者を引き抜いていますから

これは十分ありうる話。

 

人間を月に送った「サターン5型」ロケットだって

こうして生まれたものなのですよ。

 

で、ストレンジラブ(異常愛)という名にふさわしく

博士は人間より核兵器のほうを愛している。

 

物語が進み、

偶発核戦争が不可避になってくるにつれて

他の登場人物は暗く落ち込んでゆくのですが(当たり前だ)、

ストレンジラブ博士だけは盛り上がってくるのです。

 

そして有名なのが幕切れ。

 

人類滅亡を目前にして

今まで車椅子に座っていた博士が

突如として立ち上がる。

 

なんと、なぜか歩けるようになっているのです。

 

博士自身、これには驚いたようで

大声でこう叫ぶ。

 

総統! 私はまた歩けます!!

 

第二次大戦後のアメリカには

ヒトラーの亡霊、

つまり全体主義が取り憑いていたという次第。

 

この点については

「夢見られた近代」に収録された

「アメリカの終わりなき滅亡」で詳しく論じましたので

興味のある方はぜひ、そちらもご覧ください。

 

夢見られた近代

 

それにしても

車椅子を使っていると、

この場面が思い出される。

 

私も早く、また歩きたいものです。

ストレンジラブ博士と違い、

そうなっても人類が滅亡することはないでしょうし・・・

 

ではでは♬(^_^)♬