11月11日の記事

「マップ・トゥ・ザ・スターズ」で、

デイヴィッド・リンチ監督の映画

「マルホランド・ドライブ」

「インランド・エンパイア」について触れました。

 

どちらもハリウッドを題材にしていますが、

そこはそれ、

シュールな作風で知られるリンチ監督の手にかかれば

たんなるハリウッド内幕ものになるはずはない。

 

パラレルワールドよろしく

現実と幻想、

あるいは異なる現実が錯綜する

映像の迷宮のような仕上がりになっています。

 

ついでに「マップ・トゥ・ザ・スターズ」のクローネンバーグ監督なら、

いかに表面を錯綜させようと

どこかで論理的にきっちり腑分けするのですが

リンチ監督は「錯綜を錯綜のまま提示する」クセがある。

 

「インランド・エンパイア」など

3時間の大作ということもあって

論理的に整理するのは至難の業。

 

「内容が理解できなかったって?

それがリンチを理解したってことなんだぜ」

とまでコメントした雑誌があったくらいです。

 

だいたい「インランド・エンパイア」というタイトルの意味からして、よく分からない。

直訳すれば「内陸の帝国」ですが、

それらしきものは映画に出てきません。

 

だからと言って、適当につけたものとも思えません。

リンチ監督は言葉に強くこだわる人でもあるのです。

 

1997年の映画「ロスト・ハイウェイ」など

バリー・ギフォードという作家の小説「ナイト・ピープル」で

「ロスト・ハイウェイ」なるフレーズを見つけたリンチが、

言葉の響きにすっかり惚れ込み

一緒にシナリオを書こう! とギフォードに持ちかけたところから始まったのです。

 

単語二つのフレーズから映画が生まれるのがスゴいのですが、

ならば「インランド・エンパイア」にも何かあるはず。

 

・・・と思っていたら、

トマス・ペインの「コモン・センス」

そっくりのフレーズが出てくるのです!

 

第4章「われわれには独立する力がある!」より。

The great empires of the east are mostly inland…

 

私の訳では

東洋の大帝国は、概して内陸に位置している

となっていますが(「コモン・センス完全版」、183ページ)、

逆順とはいえ

「インランド」と「エンパイア」がしっかり隣接しているではありませんか。

 

リンチ監督、自分の映画について

「アメリカに根ざしたものであってほしい」と発言した人。

独立のマニフェストとも言うべき「コモン・センス」から

映画のタイトルを取ってきた可能性もあるのでは。

 

ちなみにトマス・ペインは独立の達成を

「グレート・ワーク」(偉業)と形容しているものの

1990年代のブロードウェイで大評判となったトニー・クシュナーの芝居

「エンジェルズ・イン・アメリカ」は、

「グレート・ワークが始まろうとしている」という台詞で終わります。

 

建国の精神はこうやって生き続けているのかも知れません。

ではでは♬(^_^)♬