ノーマン・スピンラッドさんの公開書簡

「ウラジーミル・プーチンに告ぐ!」

完結の3回目と行きましょう。

 


 

 

歴史を通じて、ロシアは西方に目を向けたかと思えば、

シベリアから太平洋にいたる東方に目を向けるという

往復運動を続けてきた。

 

ウラジーミル・プーチンに告ぐ。

貴君の真意は「ロシアは西方と東方のどちらにも目を向けるべきだ」だろう。

そしてユーラシア連合の創設者として歴史に名を残す、

それこそ貴君の夢に違いない。

 

夢を実現するためのカギは何か?

1)ウクライナが主権と独立を維持すること。

2)ウクライナに、まともな交渉相手となりうるような政府が存在すること。

この二つである。

 

ユーラシア連合の中核となるべきは、

ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、そしてウクライナ。

上記四カ国の連帯が崩れたことこそ、ソ連消滅を引き起こしたのだ。

 

四カ国がふたたび連帯すれば、それだけでユーラシア連合の基盤はできあがる。

だがアメリカに仕切られた西側諸国が、

グローバル化の名のもとウクライナを取り込んでしまえば

ユーラシア連合の誕生はありえない。

 

ウラジーミル・プーチンに告ぐ。

ウクライナがNATOやEUに加盟することは

貴君にとり、絶対に許せないことのはずだ。

そして貴君は、必要なら実力を行使してでもそれを防ぐだろう。

ウクライナ東部国境付近にロシア軍が集結しているのは、理由のないことではない。

 

だが外交にはムチと並んでアメが不可欠。

国境付近の軍部隊は貴君のムチだ。

ただしいったん、ウクライナにまともな交渉相手となれる政府が誕生したら、

貴君はもっと魅力的なアメをちらつかせることができる。

 

EUと、その黒幕とも言うべき国際金融の元締めたちは、

ウクライナを従わせるべく、厳しい経済的な要求を突きつけている。

やらせておけ!

西側諸国の横暴に抵抗しようとすれば

「経済危機克服」に向けた貧困と苦難が待っている、

あらゆるウクライナ人に、そう実感させるのだ。

(注:ウクライナの対外債務は1400億ドル近く。

追放されたヤヌコビッチ大統領は、EUにたいして大規模な援助を求めていた。

ただしEUはこれに色よい返答を見せていない)

 

そして貴君が、ロシアとしての対案を提示する。

ウクライナがユーラシア連合に参加すれば、

西側の横暴に屈しなかった見返りとして巨額の援助を行い、

貧困と苦難から救ってやろうと持ちかけたまえ。

(注:2013年、プーチンはヤヌコビッチに大規模な経済支援を申し出ている)

 

のみならず、対外債務をゼロにするチャンスを与えようと宣言せよ。

どうやって?

ウクライナからクリミアを買い取る形にすることによってだ!

 

貴君はロシアの大統領である。

片やウクライナがどうなるかは、ユーラシア連合の成否を左右する問題だ。

英断を下したまえ。

 

ウラジーミル・プーチンに告ぐ。

貴君はKGBの出身だ。

相手が断れないようなオファーを提示し、手なずけるにはどうすべきか?

謀略のプロたる貴君は、そこでの経験から熟知しているはずである。

(終わり)


 

プーチン大統領がスピンラッドさんの提案に沿った行動を取るか、

現時点では分かりません。

 

ただし1867年、ロシアはアメリカにたいして

アラスカを売却した過去があります。

あそこを取っておきさえすれば、冷戦にだって勝てたかも知れないのですが、

(アラスカにソ連の核ミサイル基地があったら、アメリカはヤバかったでしょうに!)

ウクライナからクリミアを買い取るというのも

そう考えれば荒唐無稽な話ではありません。

 

もっと重要なのは

アメリカ主導のグローバリズムに反対する動きが、当のアメリカからも出ていること。

そして反グローバリズムの動きは、国際的なパワー・バランスを大きく変える可能性があることです。

 

つまりですな、

かりにユーラシア連合が誕生した場合、

向こうと連携することで、中国やアメリカを抑え込む

という戦略だって考えられるのですぞ。

 

戦前の日本だって、日露戦争のあと

「日露協約」を結ぶことで、満州での権益を確保していたんですから。

ついでに1910年の第二次日露協約には

アメリカの進出に対抗するニュアンスまで見られました。

 

安全保障をめぐるオプションは、できるだけ多様にしておくのが良い。

日米同盟は(今のところ)重要ですが、絶対ではありませんし、永遠のものでもないのです。

スピンラッドさんの公開書簡、いろいろな点で考えさせられるものではないでしょうか。

 

ちなみにスピンラッドさんは目下、

新作長編「WELCOME TO YOUR DREAMTIME(夢幻時間へようこそ)」を書き上げたところ。

読者自身が主人公になるという凝った構成の作品だそうです。

刊行が待たれますね。

 

というわけで、今日もスピンラッドさんの本を紹介します。

 

1985年の長編「星回りの良い娘」。

 

「CHILD OF FORTUNE」は、直訳すれば「幸運の娘」ですが、

カバーイラストが示すとおり、本作のヒロイン、ウェンディ・シャスタ・レオナルドは、

本当に星々をめぐります。

だから「星回りの良い娘」。

アメリカでは絶賛されました。

 

ノーマン・スピンラッドさんの公式サイトはこちらをクリック!

 

ではでは♬(^_^)♬