カナダの天才映画監督、

デヴィッド・クローネンバーグの最新作

「マップ・トゥ・ザ・スターズ」

先週、試写で観てきました。

 

題名は直訳すれば「星々への地図」ですが、

ハリウッドで売られているスターの居宅の位置を記した地図、

あるいは、それらの居宅に案内するサービスのことでもある。

 

つまりはハリウッド内幕物ですが、

クローネンバーグの手にかかれば、それだけで終わるはずはない。

 

なにせ1975年の商業映画デビュー作「シーバース」から、

2012年の前作「コズモポリス」にいたるまで、

ホラー、サイコ・サスペンス、文芸的幻想映画、SF、犯罪映画など、

さまざまなジャンルを横断しつつ

「私は映画を通して人生の哲学的探求を行っています」

と宣言する人物なのです。

 

「マップ・トゥ・ザ・スターズ」についても

スクリーン・インターナショナルという雑誌のインタビューで

こんなコメントをしていました。

 

本当のところ、べつにハリウッド内幕物である必要はなかった。

自動車業界の話でも良かったんだ。

(注:クローネンバーグはカーマニアです)

これは本質において、

野心と絶望とアイデンティティに関する映画なんだ。

 

原文をご覧になりたい方はこちらをどうぞ。

 

野心と絶望とアイデンティティ。

 

これってじつは、近代日本を理解するうえでも重要なキーワードではないでしょうか?

東洋の国で、いち早く欧米化・近代化を達成するという野心。

ただしそれによって、本来の日本が失われてゆくのではないかという絶望。

両者が交錯する中、日本(人)とは何なのか、みずからのアイデンティティを問い続ける。

 

「国家のツジツマ」で、

中野剛志さんと語り合ったテーマも、まさにこれです。

 

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事実、「マップ・トゥ・ザ・スターズ」を観ていて思ったのは

「これは日本のあり方をめぐる寓話としても受け取れる」ということ。

 

ハリウッドに生きる人々が

富と名声という共通した夢を

世代を超えて追い求めつつ、

その夢の中にひそむ悪夢、ないし自滅願望に取り憑かれ

ついには破滅する。

 

ごく単純に要約すれば、そういうストーリーなのですが、

「富と名声」を「富国強兵」に置き換えたら、どうでしょう?

あるいは「繁栄する平和国家」に置き換えたら?

 

クローネンバーグ監督、

「芸術作品は特定の具体的な状況を描きながら、人間の普遍的な真実に迫るものなんだ」

とも語っているものの、

「マップ・トゥ・ザ・スターズ」は、まさにそれをなしとげていると言えるでしょう。

 

この作品については、

今後も折に触れ、取り上げてゆくつもりですが、

ぜひ紹介しておきたいのが、日本での宣伝スローガン。

いわく、

その祈りは、永遠の呪い。

 

永遠の呪いとなるような祈りを捧げてしまうのは、

ハリウッドのスターたちだけでしょうか。

われわれもまた、同じ事をしているのかも知れませんよ。

 

憲法九条を絶対視するような極端な平和主義は、

永遠の呪いとなるような祈りではないのか。

逆に「日本を、取り戻す。」という自民党のスローガンも、

そんな祈りと化してしまっていたら、どうするのか。

 

その祈りは、永遠の呪い。

 

最近聞いたフレーズの中でも、とくに冴えていたものの一つです。

 

映画「マップ・トゥ・ザ・スターズ」は、

12月20日より、新宿武蔵野館ほかで公開予定。

みなさんも、ぜひどうぞ!

 

ではでは♬(^_^)♬