2013年9月、
ニューヨーク証券取引所におけるスピーチで
安倍総理はこう述べました。
私は、日本を、
アメリカのようにベンチャー精神のあふれる、
「起業大国」にしていきたいと考えています。
規制改革こそが、すべての突破口になると考えています。
言葉の響きだけ取れば、
なかなかいい感じです。
自由と開拓者精神の伝統のもと、
進んで困難に立ち向かい、
おのれの道を切り拓く姿勢こそ
アメリカに繁栄をもたらした源泉である!
日本もそれを見習おう!!
島国根性を脱却し、
攻めの姿勢で世界に羽ばたいてゆこうではないか!!!
・・・とまあ、そんなところ。
とはいえこの発言、
アメリカは繁栄しており、
人々は豊かで幸せに暮らしている
ことが大前提です。
でなけりゃ、
起業大国だか何だか知りませんが
アメリカのようになったって
何の意味もありませんからね。
はたして現在、この前提は正しいか?
紹介したいエッセイがあります。
著述家のニール・ゲイブラーさんが
2016年5月の「ジ・アトランティック」に発表した
「THE SECRET SHAME OF MIDDLE-CLASS AMERICANS」。
日本語に訳せば
アメリカ中産階級のひそかな恥辱。
格差の拡大が止まらない同国では
今や中産層のかなりの部分まで
貧困に脅かされているが
それをひた隠しにすることで
どうにか面目を保っているというのです。
では、ゲイブラーさんの言う貧困とは
具体的にいかなるものか。
たとえばこれ。
2013年より、アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)は
自国の消費者の経済状態について調査を行っています。
その中には
突然、400ドルのお金が必要になったら、あなたはどうしますか?
という質問がある。
400ドルですから
現在のレート(1ドル=115円ぐらい)で4万6000円。
べらぼうな大金とは言えません。
しかるに。
回答者の47%が、次のいずれかの答えをしたらしいのです!
・借金する。
・何かを売る。
・そんなカネは用意できない。
ヾ(℃゜)々\(◎o◎)/それってちょっとヤバくないか?!\(◎o◎)/(゜;)エエッ
のみならず。
ニューヨークにある個人資産運用サービスサイト
BANKRATE (バンクレート)が2014年に行った調査でも、
1000ドルかかる病院の救急医療が、貯金で負担できる人の割合はなんと38%。
500ドルかかる車の修理が、貯金で負担できる人の割合も38%です。
ジョージワシントン大学、
オックスフォード大学、
それにプリンストン大学の合同調査では
突然の出費に対応するため、30日以内に2000ドルを用意できますか?
という質問にたいして
約25%は無理と回答。
さらに19%は、質屋に何か持って行くか、給料の前借りをするしかないと回答しました。
しめて44%。
しかも。
年収10万ドルから15万ドル
(1150万円〜1725万円)という層の回答者でも
25%近くは、このカテゴリーに属したそうなのです。
調査の結論。
アメリカの成人の半分近くは
じつのところその日暮らしで、
何かあったら破産しかねない状態にある。
ヾ(℃゜)々\(◎o◎)/そんな国を手本にしたいか\(◎o◎)/(゜◇゜)ガーン
ベンチャー精神や規制緩和の
行き着く先がこれだとするなら、
そんなもの、即刻投げ捨てたほうがよろしい。
実際、ゲイブラーさんによれば
中産層まで含めて(なにせ半分近いんですからね)
アメリカ人がここまでその日暮らしになった要因のひとつは
1980年代から1990年代にかけて
クレジットカードの発行条件や
利子率をめぐる規制緩和が行われたこと。
新自由主義による格差の拡大が
これに輪をかけたのは言うまでもないでしょう。
で、その結果がこれです。
アメリカ心理学協会が2014年に行った調査によると
健康的なライフスタイルを送るだけの金銭的なゆとりがないと答えた者が
全体の32%。
金銭的な理由で医者に行くことを延期したか、延期しようと思ったと答えた者が
同じく21%。
ヾ(℃゜)々\(◎o◎)/いったいどこの(没落)途上国だ?\(◎o◎)/(゜ロ)ギョェ
とはいえ最大の問題は
ハーバード大の経済学者ベンジャミン・フリードマンが
指摘した以下の点。
国民の間で
「自分たちはどうせ一生浮かばれない」と絶望する者が
一定の割合を超えたら最後、
社会はすさんで硬直化し、寛容さを失う。
たとえ金持ちだったとしても
この現象からは逃れられない。
フリードマンが警告した現象は
しばしば伝統的価値観を復権させようとする動きを伴いますが
だからといってこれを
社会の保守化などと勘違いして喜んだりするようでは
保守派を待ち受けるものは自滅の道あるのみです。
これはあくまで
現実に絶望したことに起因する
一種のマス・ヒステリーにほかなりません。
国民の大部分が
さほどの格差もなく
豊かで幸福に暮らせる。
これが経世済民の第一であり、
つまりは保守の大前提。
ベンチャー精神やら規制緩和をめざすのなら、
少なくともこれをしっかり確保してからにしようじゃないですか。
ちなみに 「攻めの姿勢」と
「世界に羽ばたく」については
わが新著に収録される「政治経済用語辞典」で
本当の意味を暴露、
もとへ定義いたします。
乞うご期待!!
ではでは♬(^_^)♬
それまではこちらを復習されても良いでしょう。(↓)
14 comments
博史 says:
1月 8, 2017
>>わが新著に収録される「政治経済用語辞典」
佐藤さんの新刊「政治経済用語辞典(日日辞典)」楽しみにお待ちしております。
SATOKENJI says:
1月 8, 2017
ありがとうございます。
ただし「政治経済用語辞典」という題名にはなりませんので、念のため。
Matom says:
1月 8, 2017
「攻めの姿勢」……「世界へと羽ばたく」……
このような装飾によって言葉が浪費されるのがなんとも悲しくなります。
先生のお言葉(?)をかりれば、「(゜ロ)ギョェ」といったところでしょうか。
先生がこれらの言葉をどう定義付けされるのか、楽しみにしております。
SATOKENJI says:
1月 8, 2017
「スーパーグローバル」なんてのもありますね(これも辞典に出てきます)。
GUY FAWKES says:
1月 8, 2017
>フリードマンが警告した現象はしばしば伝統的価値観を復権させようとする動きを伴いますが
だからといってこれを社会の保守化などと勘違いして喜んだりするようでは保守派を待ち受けるものは自滅の道あるのみです。
>これはあくまで現実に絶望したことに起因する一種のマス・ヒステリーにほかなりません。
正に「既存秩序と共に虚妄性を抹殺する」という所業の末路ですね。
現状の流れを投げ棄てるべきなのは間違いないのに、不都合なところだけ…とはいかないのが世の常。
そんなものは保守思想ではありえない。
しかしながら、三橋さんの名言で「今年は来年よりは良い年です」というものがありますが
グローバリズムの虚妄性を排することが綺麗事で済まない現実が差し迫っている以上、
今年はより一層陰惨な1年になるのでしょう。
???「I have a bad feeling about this…(嫌な予感がする…)」
せい says:
1月 9, 2017
マスヒステリーによる保守化、、、所謂ネトウヨ、嫌韓の隆盛もこれに該当するのでしょうか。
ネット人口も増えてきて、徐々に社会は荒んで硬直化、寛容さも失われてきました、、、
昔はネット人口が増えれば、世論も変わり、世の中は良くなるなんて思った事もありましたが
なんだか「マスヒステリー」によって保守ではなく、グレートリセットが進行するだけになりそうです。
保守とは、「今あるものを、大切に思う気持ち」ですから。
オタクへの逃避は心の保守的な行為の一環です。だって、この国の現実は辛すぎるもの。(←結論)
snow says:
1月 10, 2017
安倍総理も多くの政治家もメディアも一部の日本人も何かアメリカは暮らしやすい国だとか
皆ハッピーに暮らしてるという勘違いしてる人が多いですよね
ベンチャー精神や規制緩和の行き着く先がこれだとするなら、そんなもの、即刻投げ捨てたほうがよろしいという指摘は正にそうですね。社会の活力とか暮らしが不安定になるベンチャー精神も規制緩和も意味ないですからね、その精神の果てに自滅が待ち受けてるようじゃほんと逆効果です。
ソウルメイト says:
1月 10, 2017
佐藤さんは、「僕たちは戦後史を知らない─日本の『敗戦』4回繰り返された」や「愛国のパラドックス:『右か左』かのの時代は終わった」「戦後脱却で、日本は『右傾化』して属国化する」などの著作で安倍晋三氏の言うところの「戦後レジーム」というものの正体を明らかにておられますが、そのご認識は、わたしには白井聡さんが「永続敗戦論」や「『戦後』の墓碑銘」などの中に書いておられることと基本的認識を共有しておられるように思いますが、佐藤さんご自身はいかがお考えになられますか?
白井さんは、日本の「戦前・戦中」に日本を支配した者たちが、アメリカとソ連との対立の激化という国際情勢の中で、日本をアメリカの陣営に留めておこうとするアメリカの思惑によって免罪符され、「戦後」も引き続き日本の支配層にとどまることを許されたこと、そして、それを覆い隠すためにアメ、リカへの依存をいっそう強めざるをえなかったこと、それを指して「永続敗戦レジーム」と指摘しておられるとわたしは理解しました。そして、その認識は、大きく誤ってはいないと思います。
いわゆる親米保守が対米依存を強めざるを得ないのは、対米依存することによって何事かを守り保とうとするからであって、しかし、それは、日本という国家や日本人の繁栄や安穏な暮らしの維持・増進などではなく、もっと別の何かなのではないかと思います。そこを明らかにし、言語化し、明瞭に認識し、弁別するようにならないかぎり、いわゆる「戦後レジームからの脱却」は、佐藤さんがご指摘になられ、また、その点にかんするかぎり白井さんも佐藤さんとほぼ同様のご見解をとられるように、対米依存をさらにいっそう強め、アメリカの経済植民地として国民経済を差し出すものであることにほかならないと思います。
安倍晋三氏が「戦後レジーム」と呼び白井聡さんが「永続敗戦体制」と呼ぶものから「脱却」して回復すべきもの、あるいは目指すべきものは、何だと佐藤さんはお考えになられますか?
SATOKENJI says:
1月 10, 2017
支配層のみならず、一般の日本人もまた
アメリカの思惑によって自分たちのあり方が正当化されたと思いこみ、
以後、それを見直すことを避けてきた
ということの自覚だと思います。
ソウルメイト says:
1月 10, 2017
ご回答ありがとうございます。佐藤さんの明晰なご認識に強く賛同いたします。
ところで、白井聡さんは、安倍晋三氏以前の親米保守派の認識は、日米関係を“主従”関係とみなすものであったけれども安倍晋三氏以後、日米関係を“親子”関係と同一視とするものに変質したと述べておられて、日本における親米保守派の認識が甘ったれたウエットな感情論を混在させていることは、アメリカの支配層の知ったことではなく、ガキだと本人がそう思うのなら、ガキ扱いしてやろうじゃないか、しかし、その場合、自分の子どもとして愛情をもって扱うというより、ひたすら容赦ない厳しい鞭でもっめしつけようとするだろうと書いておられました。わたしも白井さんのご見解は、大きく間違っていないと思います。佐藤さんにおかれましては、この点につきいかがお考えになられますでしょうか?
SATOKENJI says:
1月 10, 2017
国家関係に感情論を持ち込むこと自体が間違いでしょう。
ただし、親米保守がウエットな感情論に走っているという認識が
本当に正しいかどうかは議論の余地ありです。
詳細はもうすぐ刊行される予定の16冊目の本をご覧下さい。
ソウルメイト says:
1月 10, 2017
佐藤さんのご論考を楽しみにしております。また、できますれば、白井聡さんが著作で展開しておられるご論考についての佐藤さんの評価なども今後のブログにお書きくださると嬉しく存じます。ありがとうございました。
tinman says:
1月 14, 2017
俺は疲れた。誰も彼もが疲れていた・・・・・・
ニア 来週もアメリカと地獄に付き合ってもらう。【14へ行け】
戦前の亡霊を蘇らせる。【18】
たとえ神にだって、俺は従わない。【52】
玉田泰 says:
1月 17, 2017
今回の記事から三つのことを学びました。
一つはアメリカ人の約半数は400ドルの預金すら持っていない!日本人ならその程度のもしも預金を持っていなかったら、パニクってしまう人も多いと思うのですが、アメリカ人はどうなっているのでしょうか?
もう一つは絶望する者が一定の割合を超えたら社会は荒むという現象。アメリカは移民国家ですから日本とは条件が違うと思いますが、昨今日本でも貧困化が叫ばれていますよね?
そして、一番成る程と思ったのが保守には大前提があるということ。ちょっと考えたらある程度の豊かな社会がなくて何を保守するんだという話ですよね?(苦笑)
日本でもマス・ヒステリーが起こっているのでは、というのは僕の杞憂でしょうか?