早いもので

今年も3月11日が近づいてきました。

あの震災から、もう5年になるんですね。

 

被災地も着実に復興の歩みを進めているとは思いますが

なにぶん、あれだけの被害が生じたわけですから

本当に立ち直る、

あるいは超復興(震災前より良い状態を達成すること)に至るには

まだまだ年月を要すると思います。

 

東北が超復興を達成することは

日本全体の強靭化や発展にとっても

むろんプラスとなることなので、

国を挙げて支援を続けねばなりません。

 

・・・それはさておき。

こんな記事をネットで見つけました。

 

被災地、タクシーに乗る幽霊 東北学院大生が卒論に

「震災による死」に人々はどう向き合い、感じてきたか。

この春に卒業する東北学院大の社会学のゼミ生たちが

フィールドワークを重ねて、卒論を書いた。

工藤優花(ゆか)さん(22)は、

宮城県石巻市のタクシー運転手たちが体験した「幽霊現象」をテーマに選んだ。

 

くだんの幽霊現象とは、どんなものかというと・・・

 

震災後の初夏。季節外れのコート姿の女性が、

石巻駅近くで乗り込み「南浜まで」と告げた。

「あそこはほとんど更地ですが構いませんか」と尋ねると、

「私は死んだのですか」と震える声で答えた。

驚いて後部座席に目を向けると、誰も座っていなかった。

 

あるいは。

 

やはり8月なのに厚手のコートを着た、20代の男性客だった。

バックミラーを見ると、まっすぐ前を指さしている。

繰り返し行き先を聞くと「日和山」とひと言。

到着した時には、もう姿はなかった。

 

元の記事はこちら。

 

工藤さん、これが実際にあったことだと考えているようです。

つまりは震災犠牲者の霊魂が

本当にタクシーに乗ったのではないかという次第。

 

「若い人は、大切な誰かに対する無念の思いが強い。

やりきれない気持ちを伝えたくて、個室空間のタクシーを媒体に選んだのでは」

との意見ですが、

(注:タクシーに乗ったとされる「幽霊」は若い人ばかりなのだそうです)

ひとつ引っかかるのは

ここで紹介されている「幽霊現象」が

いわゆる「タクシー怪談」と瓜二つであること。

 

墓地の前で、若い美女がタクシーに乗り

気がつくと消えていた、というアレです。

 

記事によれば

単なる「思い込み」「気のせい」とは言えないリアリティーがある

とのことですが

この現象について真剣に論じるのであれば

〈体験談〉の構造が、なぜタクシー怪談と瓜二つなのかという点を

ちゃんと詰める必要があるでしょうね。

 

タクシー怪談も、じつは本当の話だった

とか、

この類似性は偶然であると論証できる

とか、

議論の進め方はいろいろありえますが、

若い人は、大切な誰かに対する無念の思いが強いから

では、いかんせん根拠として弱い。

 

震災で亡くなった高齢者の霊が

仮設住宅に暮らす孫に会おうとしてタクシーに乗る、

そんな可能性だって考えられるでしょうに。

 

ついでに、そこまで大切な誰かに対する無念の思いが強いのであれば

その思いをなぜ当の相手にではなく、

行きずりのタクシー運転手に伝えようとするのか。

 

タクシーは個室空間だから、というのは苦しい説明です。

幽霊なんですよ。

当の相手が暮らす場所に直接行ったっていいじゃないですか。

 

ゆえに

1)なぜ幽霊は交通手段を必要とするのか

2)なぜ目的を達成する(=大切な相手に会う)前に消えるのか

上記二点について十分な説明がないかぎり

単なる「思い込み」「気のせい」とは言えないリアリティーがあろうとなかろうと

私はこの〈幽霊現象〉を被災地の都市伝説、

つまりフィクションと見なします。

 

ただし、そういうフィクションが

真実ではないかと思えてくるほど

被災地の人々の心の傷が深いということは

忘れてはならないでしょう。