2月23日の記事

「アメリカで最も安全な学校、または専守防衛のスゴい真実」では

インディアナ州はサウスウェスト・ハイスクールの

要塞高校ぶりをお伝えしました。

 

危機を叫んでは何もしないのが国是のわが国では

遺憾ながらありえない話。

とはいえ、別の形で

かなりぶっ飛んだ学校なら存在します。

 

ご存じ、東京都中央区の泰明小学校。

またはアルマーニ小学校です。

 

ここは9年前より、中央区に居住している者なら

通学区域とは関係なく就学を希望できる「特認校」になっている。

銀座の繁華街の近くに立地しているせいで

本来の学区居住の児童が少なく、施設に余裕があるためです。

 

しかるに昨年11月、

和田利次校長が

保護者に相談することなく

ほとんど独断で

今年の春からアルマーニ・ブランドの標準服を導入すると決定。

関連記事はこちら。

 

制服ではなく標準服なので

絶対に買わなければならないわけではないものの

普通に考えて

「これを買わなければダメ」という実質的な圧力がかかるのは確実。

 

で、お値段はというと、

洗い替えまで含めたら一式9万円!

 

これまでの標準服は

男子が1万1755円、女子が1万9277円。

まあ、跳ね上がりましたな。

 

しかも小学生です。

入学から卒業までに、何度か買い替える可能性大。

実際、保護者の中には

買い替えの負担を減らそうと、

わざと大きめのサイズを注文した人もいたそうです。

 

和田校長の言い分はこちら。

 

泰明小学校という学び舎の気高さ。

この伝統ある、そして気品ある空間・集団への凝集性とか、

帰属意識とか、誇りとか、

泰明小学校が醸し出す「美しさ」は保っていかなければと、

緊張感をもって学校経営してきました。

 

しかし、私が泰明小学校の在るべき姿としての思い描いていることとは

かけ離れた様子、事実があることも否めません。

 

もうひとつ、私が危惧しているのは、

泰明小学校は銀座の街と共に歩んできたということを

児童や保護者の皆様にご理解いただいているのかどうかということです。

泰明小学校に通ってくると言うことは、

例え特認校であっても、銀座の街の子供たちになると言うことだと私は思います。

 

しかし、このような意識も薄れつつあるのではないかと私は心配しています。

 

ご存じのように、銀座の街には、世界に名だたるブランドショップが立ち並んでおります。

ブランドに拘ったり、志向したりしているわけではありませんが、

泰明小学校も銀座のランドマーク、銀座ブランドであります。

〔学校には当てはまらない言葉かも知れませんが〕街の歴史とともに存在する

ある種のトラディショナルブランドであります。

 

銀座の街のブランドと泰明ブランドが合わさったときに、

もしかしたら、潜在意識として、学校と子供らと、街が一体化するのではないかと、

また銀座にある学校らしさも生まれるのではないかと考え、

アルマーニ社のデザインによる標準服への移行を決めました。

全文はこちら。

 

まずハッキリさせておけば、

和田校長がこの文章で本当のところ何が言いたいのか

私はよく分かりません。

 

学校運営が思い通りにならないとして、

標準風をブランド物にしたら、なぜそれが解消されるのか?

だいたい

「潜在意識として、学校と子供らと、街が一体化する」とは

具体的に何を意味しているのか?!

 

こう言っては何ですが、

自分が何を主張せんとしているのか、本当は自分でも分かっていないものとお見受けします。

 

それを前提としたうえで

どうにか整理すれば

和田校長の主張はこうなるでしょう。

 

1)自分は泰明小学校が、銀座にふさわしい「ブランド」であらねばならぬと信じている。

2)ゆえに生徒は、自分の思い描く泰明ブランドのイメージに合わせるべきだ。

3)ところが実際にはそうならないのが耐えられない。

4)しかるに銀座には有名ブランド店も多い。

5)よって有名ブランドの標準服を導入すれば、生徒が自分の思い描く泰明ブランドに順応するだろう。

 

整理してもなお、ワケワカな言い分ですが

ここで注目したいのは

和田校長の考える「ブランド」なるものの中身。

 

学び舎の気高さ

だの

伝統ある、気品ある空間・集団(←おいおい、小学生の集団の伝統や気品って何だ?)

だの

銀座の街には、世界に名だたるブランドショップが立ち並んでおります

だのといった表現からして

この校長、ブランドを徹底的に物質的なもの、

さらに言えば商品化できるものだと思っているようです。

 

・・・スゴイなあ、うん。

 

学校が「ブランド」たりうるための条件、

それは当該の学校で学んだ生徒が

他校の出身者にはない才覚や能力を身につけること以外にありえません。

 

具体例行きましょう。

戦前の東京に、府立第六高等女学校という学校がありました。

現在の都立三田高校(むろん共学)です。

 

東京は1943年まで「都」ではなく「府」だったので

「府立」なのですが

第六高女、じつはブランド校。

 

ならば、ブランドの中身は?

女学校としては日本で初めて、体育用のプールがあったのです(1931年完成)。

最初は屋外でしたが、

年頃の娘の水着姿をさらしてはまずいと

周囲に壁を建てて屋内プールになる。

1932年には早くも温水になったそうです。

 

資金集めは大変だった模様。

むろん、公費の助成はなし。

それどころか東京府の学務部長から

「絶対にやめてくれ」という圧力までかかったそうですが

ぜひプールを造りたいという初代校長・丸山丈作さんの方針に賛同した保護者が知事と交渉、

オーケーを取りつけたとのこと。

 

ではなぜ、丸山校長はプールを造りたかったのか?

ご本人のコメントをどうぞ。

 

そのころドイツは例のカイゼル、ウイルヘルム二世という皇帝でしたが、

そのひとがド イツの将来は海洋にあり、ということをいったものです。

これを聞いて、日本の将来も海 洋にある、とおもったのです。

なにしろ四方が海に囲まれているという点では、ドイツよ りもむしろ日本だし、

そのころの日本は海軍もなかなか立派だし、商船の数でも世界で指 おりの国だったのです。

 

ところがどうも国民全体をみると、海をこわがるひとのほうが多い。

日本の将来を考え るとこういうことではこまる。

どうかして、つぎの国民にはもっと海に親しませなければ いけない。

それには、まずお母さんになる人を教育して、海に親しませるのが一番だ、

そ ういうふうに私は考えたわけです。

原文はこちら。

 

立派な見識ではありませんか。

 

努力のかいあって、プールは府立第六高女のブランドになります。

この学校の卒業生には、

江戸川蘭子さんという女優がいるのですが

松竹少女歌劇(のちのSKD。要は宝塚の松竹版)に在籍していたころの

公式紹介記事(1933年)にはこう書いてある。

 

府立第六高女卒業。

したがって水泳は断然、ものすごいチャンピオン。

(原文旧かな、旧字体。表記を一部変更)

 

そうです。

府立第六高女を出ていれば水泳が得意だ

ということが

なぜそうなのかを説明する必要がないくらい

自明の話になっていたのです!

 

もっとも江戸川さんは1913年生まれなので

プールの完成と入れ替わりに卒業しているはずですが

そこはそれ、丸山校長は以前から臨海学校に力を入れていたのですよ。

 

さらに丸山校長、

関東大震災の経験から

女も健脚でなければ、いざというとき助からないと考え、

年二回のペースで40キロの遠足を実施。

このおかげで卒業生は、

戦時下の買い出しもへっちゃらだったそうです。

府立第六高女を出たおかげで

空襲を生きのびた人もいるのでは。

 

「あそこを出た子なら、泳げるし健脚だ」という評判が立つ。

学校のブランドとは、こういうものだと思うのですよ。

 

宝塚歌劇団にも似たような話があります。

あそこは劇団と言いつつ、一種の女子校という形を取っているのですが(※)

親会社である阪急電鉄の社長を務めた小林米三さん

卒業生(つまり劇団出身者)の結婚式に呼ばれると、決まってこうスピーチしたとのこと。

(※)養成所である宝塚音楽学校は、学校として正式に認可されています。

 

宝塚出身者はお嫁さんに最適とよく言われます。

舞台で身体が鍛えられているから丈夫だし、

集団生活を送ってきたため、人格も円満だからです。

 

例によって、ここを出た人はよそとは違う、というわけです。

 

かの東大ブランドにしたって

ここを出た人は、よそを出た人より顕著に頭が良い(ということになっている)

から成立しているのですよ。

もっとも卒業生として、本当かどうかは保証しませんがね。

 

インディアナ州サウスウェスト高校も

ここの卒業生は銃犯罪のリスクに敏感だし、対処法を心得ている

ということにならないか。

 

しかるに。

泰明小学校ブランドとやらは

この学校の卒業生について、いったい何を語るのか。

ほかの学校では得られない何かを身につけた、ということはできるか?

 

・・・聞くだけヤボってものでしょうが。

というか、和田校長は

「身につける」という言葉すら

まったく即物的にしか解釈できないものと思われます。

でなければ、アルマーニの標準服なんて話になるわけがない。

 

しかも標準服とは

当該の学校に通っている間のみ着るもの。

つまり泰明小学校を卒業したら

文字通り、身につかないのです。

 

逆に言えば和田校長、

本当のところ、子供たちが卒業したあとのことなどはどうでもいいと思っているに違いない。

泰明小学校にいる間だけ、

自分の校長としてのプライド(もっとハッキリ言えば虚栄心)を満足させる存在であってくれればいい、

そう思っているのでなければ

ブランド物の標準服を導入することが学校のブランド化につながるなどという発想は

そもそも成立しえません。

 

そして和田校長の勘違いブランド志向

すでに子供たちに被害を及ぼしています。

どうぞ。

 

児童に嫌がらせ懸念、アルマーニが安全確保要請

東京・銀座の中央区立泰明小学校が、

イタリアの高級ブランド「アルマーニ」にデザインを依頼し、

最大約8万円の標準服の導入を決めたことを巡り、

同ブランドの日本法人「ジョルジオアルマーニジャパン」(東京)が、

区教育委員会に対し、

児童の安全確保などを要望する申し入れを行ったことが23日、同社や区への取材で分かった。

 

標準服導入を巡っては、同小の児童らが登下校中に服をつままれるなどの嫌がらせが起きている。

同社によると、申し入れは23日までに文書で行い、

児童の安全確保のほか、標準服導入について保護者に改めて説明するよう求めたという。

もとの記事はこちら。

 

和田校長、

これがあなたの考える泰明小学校の在るべき姿とやらの現実ですよ。

「潜在意識として、学校と子供らと、街が一体化する」ことの中身ですよ。

というか、なんであなたではなくアルマーニジャパンが申し入れているんですか??

 

生徒の安全を何だと思っているのでしょう。

ご立派ですねえ、まったく。

 

ちなみに女優の石田ひかりさん

この件について

インスタグラムで以下のようにコメント。

 

 校長先生の文章を、ざざっと読みました

『泰明らしく』あることに、相当な誇りとこだわりをお持ちのようでした

わたしには『泰明らしさ』が何なのか興味もありませんが

これを押し付けられる子どもたちはたまったものではないな、というのが感想です

 

わたしも娘を2人持つ母ですので

悩み尽きない日々ですが

思うようにならないのが子どもです 

いろんな経験をしておっきくなっていくのが子どもです 

はちまんえん、という価格やアルマーニであることよりも

そもそもの根っこから考え直すべきではないでしょうか 

(※)八万円というのは、洗い替えを入れないときの価格です。

関連記事はこちら。

 

石田さんが校長の学校だったら

保護者も安心して子供を通わせられると思いますね。

 

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ではでは♬(^_^)♬