深入りしそうな女と、
深入りする前に観ておきたい映画
5本目はこれ。
『ジェラシー』
(ニコラス・ローグ監督、1979年)
ローグ監督は
かの「ピュアな人は年を取らない」発言の人。
それにふさわしく、独特の時間感覚の持ち主で
シャープな編集によって
過去・現在・未来をたえず交錯させ、
異なる時間のせめぎあいの中からドラマを浮かび上がらせる
という手法を得意とします。
まさに映画ならではのやり方ですね。
同時に自分のテーマについて
人間同士の、
とくに男と女の間では
いかにコミュニケーションが難しいか、
に私はこだわっている
と発言したことも。
『ジェラシー』は
そのこだわりが端的にあらわれた傑作です。
舞台はウィーン。
ミレーナという女が睡眠薬で自殺をはかり、
救急車で運ばれてゆきます。
警察に通報したのは
ミレーナの恋人とおぼしき
アレックス・リンデンという心理学者。
なんと、あのサイモン&ガーファンクルの片割れ、
アート・ガーファンクルが演じています。
警察の事情聴取にも
アレックスはやたらにタバコを吸いつつ
冷淡な態度を崩さない。
しかし取り調べにあたった警部ネチュシルは
彼の話にツジツマの合わない点があることに気付きます。
睡眠薬を飲んで倒れているミレーナを発見した(とされる)時間が、
中毒の進行と照らして
どうも遅すぎるのです。
一体、何があったのか?
この追及と交錯する形で、
アレックスとミレーナの出会いから
彼女が自殺を図るまでの経緯が描かれます。
真相については書きませんが
ネチュシル警部とアレックスの
このやりとりは紹介しておきましょう。
ネチュシル「告白したまえ、リンデン博士! ここにいるのは、われわれだけだ」
アレックス「何を告白するのかね」
ネチュシル「暴行だよ。(中略)暴行とは何か。ある人間の愛情を利用して、自分の感情を偽ることを意味している」
アレックス「君は自分自身についての話をしているようだな」
映画の原題は「バッド・タイミング(BAD TIMING)」。
アレックスの供述に見られる
時間の食い違いを指しているのですが、
同時にアレックスとミレーナは
悪いタイミングで出会ってしまったカップルだということも暗示しています。
男と女の仲なんて、
要はいつ出会うかというタイミングがすべて。
もしかしたら、そうかも知れません。
『ジェラシー』はあまりに強烈なせいか、
製作会社の重役から
「病んだ連中によってつくられた、病んだ連中のための映画」
と罵倒されたとか。
しかしミレーナを演じたテレサ・ラッセルは、こうコメントしています。
台本を一読して飛びつきました。
私自身の経験に照らしても
これは恋愛というものの真実を描いていると思うの。
「赤い航路」のヒロインを演じたエマニュエル・セイナーは
ロマン・ポランスキー監督の夫人でしたが
テレサ・ラッセルも本作の撮影後、
ニコラス・ローグ監督と結婚します。
愛の真実を描いた物語を一緒につくると
実生活でも一緒にいたくなるのでしょうか。
ちなみにミレーナは
アレックスにこう言います。
「私を理解しようとしないで、ただ愛して」。
愛を理解しようとすると、愛は死んでしまう。
愛を生きたければ、理解しようとしないこと。
これが結論ですね。
ではでは♬(^_^)♬
3 comments
そらまめ猫 says:
8月 21, 2014
大好きで、上映館を追い掛け回して観た映画です。
この作品が、こちらで語られるとは、うれしいです。
ミシンとこうもり傘が何処で出会おうと知らんけど、G.クリムトにかぶさるのがトム・ウェイツというのには驚き、そのまま引き込まれて魅了されたのでした。映像と音楽とを併せ反芻するのに熱中しました。
で、ウィーンでの場面に SONY のでかい電飾があったのが、なぜか妙に印象に残っているのでもあります。
そんな時代もあったねと。
実生活では一緒したくないタイプ says:
8月 22, 2014
タイミングがすべて♪
新幹線で隣り合った女性と
意気投合
東京駅までの小一時間は
女性の柔らかな髪が
僕の肩に乗ったまま、、、
愛を理解しようとすれば
言語による「腑分け」が
はじまりますね。
愛には
一期一会がよく似合う かも
マチコ says:
8月 23, 2014
おはようございます!
「一般的に」・・・極めて知的でめちゃくちゃ頭がよい人が、深入りしそうな女とというお題で、何度も文章を書いている場合は、当の本人が、深入りしそうな女が周りにいるってこと、、そういう可能性、あると思います。
こういう文章を書きつつ、その一方で既に深入りしていたら、、その人は道徳的ではないかもしれませんが、人間として魅力的な人かもしれませんねえ。。
素敵な週末をお過ごしください。