この記事のタイトルは
ジャン=リュック・ゴダール監督が1966年に発表した映画
『彼女について私の知っている二、三の事柄』に由来します。
消費社会への移行が進みつつあった当時のパリで
モノがいろいろ欲しくなった団地の主婦が
カネ稼ぎに売春をする様子をドキュメンタリー的に追ったもの。
とくに大金を振る舞ってくれる客がアメリカ人というのが何ですね。
ただしタイトルの「彼女」は
ヒロインの主婦ジュリエットのことではなく
パリという都市を女性形で表現したもの。
つまりゴダールは
われわれはみな、物欲を満たすために売春に走り、
アメリカに身を任せている
と言っているのですよ。
身につまされる話ではありませんか。
このお姉さんも、ひょっとして・・・
しかも極東亡国、いや某国では
アメリカに身を任せるだけでは飽き足らず、
消費を罰することで国民の貧困化を進めないと気がすまない
ように見える。
どうぞ。
来年10月から消費増税、首相が「決意表明」へ
(読売新聞、15日配信)
安倍首相は15日午後の臨時閣議で、
消費税率を来年10月1日から
予定通り10%に引き上げることを表明する。
社会保障制度を全世代型に転換する財源を確保するためで、
増税による景気への悪影響を抑えるための対策の検討も指示する。
上記の記事は午前中に配信されたものですが
16:40に配信された記事によれば
予定通り表明したそうです。
(※)記事の内容と直接の関係はありません。──ということにしておこう。
これについては
「決意表明」はして補正で増税対策の名目で金額を増額、
その一方でギリギリまで延期の大義名分を探し、
引上げ延期表明をする、そんな流れかも。
という見解もある。
なるほど、かりにそうなら
参院選や憲法改正実現に向けた
絶好のパフォーマンスとなる可能性はあるでしょう。
けれども安倍総理、
10%引き上げをすでに二回延期しているんですよね。
ついでに決意表明までしておいて撤回したら
狼少年というか、
やるやる詐欺の世界じゃないですか。
要するに、かなりカッコ悪い。
ついでにわが国では
財政均衡主義にもとづく
緊縮財政志向が支配的。
「先送りばかりしてどうするんだ!」
「財政再建をやらなくていいのか!」
「そんなにコロコロ、判断を変えるなんて信用できない!」
という声があがるのは間違いありません。
要するに
10%引き上げの決定は間違っていた!
国民生活を守るため、増税はやらない!!
と言い切る覚悟がないかぎり、
増税中止は難しいと思うのです。
だとしても、
消費税増税が日本経済をさらに冷え込ませることで
デフレ脱却をいっそう阻害、
わが国の衰退・没落に拍車をかけることは確実。
三橋貴明さんは本日のブログで
残酷な消費税を本当に増税するのか
と題して、この点を痛烈に批判しました。
いわく。
消費税に逆累進性があり、
ビルトインスタビライザーの機能がなく、
弱者に残酷で、勝者に優しく、
消費に対する罰則で、実質消費を大きく引きさげ、
「コメを買えなくなる国民」
を増やし、国民貧困化を推進するのは間違いありません。
低所得者層に残酷な消費税増税を認めてはなりません。
アウフヘーベンとインテグレイトの男こと
藤井聡さんにいたっては
消費税10%が日本経済を破壊する
という趣旨の本を刊行するとか。
題名はむろん、
消費税10%が日本経済を破壊する
になると思われます。
しかし、ここで考えるべき点がある。
かくも弊害が多いと分かっている消費増税に
わが国はなぜこだわるのか?!?
『平和主義は貧困への道 または対米従属の爽快な末路』を読んだみなさんは
ピンと来るのではないでしょうか。
「ちょっと、まだ読んでいないとか言わないでよね!」(※)お姉さまの発言です。
デフレ不況からの脱却を阻害する緊縮財政路線に
わが国がこだわりつづける原点は
経済学ではなく、戦後日本型の平和主義にあった。
これがあの本の出発点です。
ならば消費税引き上げへのこだわり
(ないし所得税や法人税を代わりに引き上げることへの抵抗)にも
経済とは無関係な理由がひそんでいるのではないか?
・・・この点を理解するには
消費税の歴史を振り返る必要があります。
消費税が税率3%で導入されたのは
元号が平成になったばかりの1989年4月。
竹下内閣のもと、法案が成立したのは
1988年末のことでした。
けれどもその前には
中曽根内閣が「売上税」という名称で
大型間接税の導入をめざして挫折している。
さらにその前、
消費税導入を最初に閣議決定したのは
1979年の大平内閣。
大平総理は同年、
消費税導入(税率はたしか5%でした)を掲げて総選挙を行ったほどですが
勝利を得られず断念したのです。
しかし消費税へのこだわりの原点を知るには、
じつは1975年までさかのぼらねばならない。
当時の日本は、第一次石油危機によって高度成長が終わり
「戦後の繁栄もこれまでか」という不安に駆られていました。
事実、1974年のGNP(当時はGDPよりGNPのほうが多用されていたのです)は
戦後初のマイナス成長を記録している。
危機だ!
国難だ!!
どうにかしなければ、日本は没落してしまう!!!
・・・そんな焦燥感が漂う中、
グループ1984年という学者集団が
「日本の自殺」という論文を発表します。
この論文は
1)戦後日本の平等志向
2)それに起因する福祉国家志向
3)高度成長による豊かさ
が、日本社会に悪影響を与えていると断じました。
早い話、国民が政府への依存心を強め、
タダでサービス(とくに社会保障)ばかり要求する自堕落な甘ったれになったという次第。
今のままでは社会的活力がなくなる!
いや、財政破綻すら起きるかも知れない!
日本は自殺の道をたどっているのだ!
再生の道は、エリート主義的な自由志向の強化以外にない!
これがグループ1984年の結論でした。
わが国における新自由主義の最初の狼煙(のろし)という感じですが・・・
じゃあ、どうするの?
当然ながら、
社会保障制度を維持するための財源を確保しなければなりません。
ついでに自堕落な甘ったれになった国民を矯正するためにも
財源は積極財政でなく増税で、という話になる。
が、エリート主義的な自由志向を説いておいて
累進性を持つ所得税を引き上げろ、とは言えない。
高度成長の終焉に対処しようともしている以上、
法人税の引き上げも不可。
したがって、
大型間接税の導入こそが日本を救う世直しだ
ということになるのです!!
♬だからこの世は宇宙のジョーク、あっソレ♬
・・・はたせるかな、
大平、中曽根両内閣のブレーンには
グループ1984年の中心メンバーだった学者が
名をつらねております。
ついでに経団連会長だった土光敏夫さんは
「日本の自殺」にいたく感銘を受け、
コピーを周囲に配ったと言われますが
1980年代初頭、「第二次臨時行政調査会」の会長に就任、
構造改革路線のハシリとなる「行政改革」を推進しました。
そしてグループ1984年が
1975年(43年前!!)に唱えた主張が
今なお生き続けていることは
安倍総理が社会保障制度を全世代型に転換する財源を確保するためと称して
税率の10%引き上げを表明したことが示すとおり。
「日本の自殺」と何も変わっていないじゃないですか。
・・・裏を返せば消費増税路線の根底には
「大型間接税の強化=救国の世直し」という図式、
ないし幻想がひそんでいるのです。
この幻想を否定しないまま
消費増税が経済に与える悪影響を指摘するだけでは
反対論として十分に強いものとならないのですよ。
だとしても
日本を自殺から救う道(のはず)だった消費税が
日本を自殺に追いやる元凶と化すという展開には
宇宙のジョークを超えて
シュペングラー的な歴史の運命が感じられると言わねばなりません。
「落ちるかどうかじゃない、どこまで落ちるかなんだ」(※)個人の感想です。
とはいえ、
運命に最後まで立ち向かうことこそ人間の自由の本質。
消費増税がいかなる顛末になろうと
あきらめてはいけないのであります。
歴史に立ち向かうために、読むべき5冊はこちら!
そして、参加すべきはこちら!!
7 comments
GUY FAWKES says:
10月 15, 2018
>アメリカに身を任せるだけでは飽き足らず、消費を罰することで国民の貧困化を進めないと気がすまない
「消費を罰する」…これ程までに消費税を揶揄した言葉がございましょうか。
というか、佐藤先生の御ブログ…皆さまお気づきかどうかは定かではありませんが、
「教育勅語を評価するなら新自由主義やグローバリズムを批判せよ!」「自国の権益守りながら自由貿易ってどうやって?」と
ここ数日の更新による記事内容はどれもこれも極めて直球どストレートな内容ばかり。
何が言いたいのかって?私は怖いのですよ…普段は直接的な言及を敢えて控え、搦め手や荒技、
ウィットに富んだ表現でチクリと刺す技巧の持ち主がこうして真正面から説き伏せんとするのは
「それだけ事態に一刻の猶予もない」証左ではないかということ!
今回だってゴダール監督の引用を踏まえてはいるものの、その文章は極めて直球的。
「『もはや、これまで』…と言っただろう?滑稽なJAP.com達よ!(愛喫するシガレットを手にしながら)」
–某・故自裁保守御大
今週金曜日は赤坂でsayaさんのギターで佐藤先生の動きに合わせ、みんな踊れ!!!
(注:比喩であってCHANCEシアターでは踊れません)
メルケル says:
10月 16, 2018
佐藤誠三郎東大名誉教授も関わっていたとされている「チーム1984」が日本型新自由主義の先駆けで、その思想の延長線上に今の日本があるなら、佐藤先生は偉大なる父親と対決する宿命を背負っておられるわけですね。
父と息子の相克と言えば、スターウォーズも真似した神話の時代から続く物語の王道パターンの一つ。
当然私は、我らが新たなる希望、ケンジ・スカイウォーカーを応援します。
先生には心強いお仲間も沢山いますしね(ニヒルでオヤジギャグが好きなナカノ・ソロ、見た目いかついけど優しいフジーイバッカ、情けない保守にはブラスターをぶっ放すサヤ姫…等々)。
自殺とは言え天寿を全うした感もある、西部ヨーダ先生の分まで頑張って欲しいと思いますm(__)m
博史 says:
10月 16, 2018
>> 運命に最後まで立ち向かうことこそ人間の自由の本質。
消費増税がいかなる顛末になろうと
あきらめてはいけないのであります。
まさにこれですね。自己欺瞞は精神衛生上
良くないので。経団連や地元政治家にユーモア交えつつ、正論を
述べ続けます。
「政策が支離滅裂であるほど、ユーモアのネタが増える」
と、苦境を前向きに捉えて。
「平和主義は貧困への道」読ませていただきました。
財政均衡や少子化の背景として、平和主義的思想があると
佐藤さんは考察されていましたが、正しくは
「平和主義的思想が、背景の一つである」というところでは
ないでしょうかね。
なにせアメリカ(第二次世界大戦の戦勝国)でも、ティーパーティー
なる集団が「政府支出を削れ」と喧伝しているようですし、
欧州に至っては、自国の通貨発行権を放棄するという始末…
SATOKENJI says:
10月 16, 2018
>財政均衡や少子化の背景として、平和主義的思想がある
正確には
戦後日本における財政均衡や少子化の背景には、
政府不信という独自の特徴を持つ平和主義思想がある
となります。
しかるに「政府不信」は、新自由主義やグローバリズムと相性がよい、
というところが曲者なのです。
つまりは日本における財政均衡主義は、他国より強くなりやすいのではないか、という話。
>欧州に至っては、自国の通貨発行権を放棄するという始末…
アジアではEUのような統合ができる条件が整っていないことが幸いしたと言えるでしょう。
もっとも、かりに今後整ったら、日本もどう出るか分かりませんよ・・・
拓三 says:
10月 16, 2018
「ドキッ ! 」…..
そ.そ.それはさておき、
佐藤はん…..つらいところ批判してますな。身体性を感じます。戦士ですな。
博史 says:
10月 18, 2018
>>つまりは日本における財政均衡主義は、他国より強くなりやすいのではないか、という話。
なるほど、言われてみれば確かに、第二次大戦後にデフレになったのが日本だけであることを考慮すると、そうかも知れませんね。
こうやって、質問に対して(論点をずらさず)きちんと応答するところ、佐藤さんの賢さ(”平貧”の言葉で言うと、一型の賢さ)を感じさせます。
通りすがり says:
10月 18, 2018
政府ないし財務省関係者なのでしょうか、それとも日本人全体の問題なのでしょうか。
「主語」はちょっと分かりませんが、ケインズ経済を分かっていないとしか思えません。
・1980年台のインフレ期と現在のデフレ期は違う。
・財政出動がほぼ唯一のデフレ脱却政策である(金融緩和は十分である)
これだけのことがご理解いただけない。
さて、ある方がこのような事をおっしゃいました。
-社会保障とは「社会による」弱者の保護ではなく、「社会を」保障することであるとすべきではないか。
格差が拡大し続けると社会が不安定化する。またデフレも同じく社会を不安定化させるため、
それを保障すべきである。-
こうであるとするなら、やるべき事が格差の拡大とデフレ圧力であるというのは、
反対の賛成、西から上ったお日様が東に沈むってなわけです。
むしろ自民党は(野党も?)格差拡大政策とデフレ促進政策をやり過ぎたせいで、
現在こうなっているのではないでしょうか?
そして「世の中が更におかしくなっているのは改革が足りないせいだ、改革を続行しろ」という例の話になっているのではないでしょうか?
確かにこれはまずいです。
格差社会かつ経済がデフレになったのなら、1)平等社会 と 3)高度成長による豊かさ への脱却は”成功”したことになるのです!
よってこれだけ社会や経済に手を突っ込んで無事豊かでない国にすることに成功して、なおおかしいということになれば、
やり方を変えるか、政治家は辞職するしかないでしょうに。
どうもそうはならないと。はい、経路依存性という奴ですね。
(まあ日本が今いい国になりつつある、というのならぐうの音も出ませんが、「いい国」の定義が政治家などの間に存在しているのか、
かなり疑わしいところです。)
結論を言いますと、どうにかして財政出動という「爆弾」を仕掛ける必要があるということです。
三重の扉がかかっている日本経済の扉を開けるには、つるはしやドリルですら生ぬるいということです。
隕石の方向を変えるのにも爆弾が必要ですし。