さる4月7日、

自宅の火事によって亡くなられた

作・編曲家、松山祐士さんの「お別れの会」が、

6月12日、青山葬儀所にて開かれました。

 

2010年前後より

松山さんの知遇を得ていた私も

会に参列してきました。

 

青山葬儀所。私の父の葬儀が行われた場所でもあります。

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松山さんと言えば

「巨人の星」「アタックNo.1」「キャンディ・キャンディ」

「アルプスの少女ハイジ」「フランダースの犬」

などなど、

アニメを中心に数多くの有名な作品がありますが

代表作中の代表作と言えば

やはり「機動戦士ガンダム」でしょう。

 

供花された方々を見ても

ガンダムの生みの親、富野由悠季総監督(当時は富野喜幸)をはじめ、

製作スタジオのサンライズ(同・日本サンライズ)の関係者、

さらには主役アムロ・レイの声を担当した古谷徹さんの名が見えます。

 

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とくに古谷さんは

「巨人の星」の星飛雄馬の声を演じた人でもありますので

松山さんとは縁の深い方と言えるでしょう。

 

ちなみに富野由悠季さんが

「とみの」であるにもかかわらず

た行ではなく、か行に分類されているのにご注目。

 

そうです。

富野監督は「(機動戦士)ガンダム」として供花したのです。

 

会場の祭壇には

松山さんの仕事机が再現されていました。

 

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やはりというべきか、

ガンダムの最初のサントラ盤LP(右)や、

作品のヒットを受けて制作された「交響詩ガンダム」のCD(中央)が見えます。

 

松山さんの生涯を振り返る際にも

ガンダムの曲が流れていましたが

最初に使われた曲が「長い眠り」だったのには

万感、胸に迫るものがありました。

 

関係者のみなさん、曲名までは意識しなかったかも知れませんが

葬儀ですからね。

 

「長い眠り」は、スペースコロニーの雄大な光景が映る場面の曲として有名なものの

もともとは主人公たちの乗り組む宇宙船、

ホワイトベースの威容を表現した曲だったのだとか。

松山さんも、ホワイトベースに乗って昇天したのかも知れません。

 

それはさておき、

松山さんというと

「作曲家の渡辺岳夫さんと名コンビを組んだ編曲家」

のイメージがあります。

 

音楽業界では

メロディメイカーの才能と、アレンジャーの才能は別

と言われますので

このような分業が成立することは、

べつに不思議ではありません。

 

簡単に整理すれば

パッと聞いて印象に残る旋律をつくるのがメロディメイカーで、

その旋律を、何度聞いても味わい深いものに仕立てるのがアレンジャーです。

 

渡辺岳夫さんが偉大なメロディメイカーだったことに疑問の余地はありません。

しかし(残念ながら)見過ごされがちではあるものの

松山祐士さんも素晴らしいメロディメイカーの才を持っておられました。

 

派手で華やかな渡辺メロディに比べると

松山メロディは少々地味。

けれどもそこに、内側からにじみ出るようなツヤがあります。

静かに盛り上がるいぶし銀の輝きとも言いましょうか。

 

事実、映画版ガンダムのCDを聴き返していて

私は興味深いことに気づきました。

一作目の『機動戦士ガンダム』と

二作目の『機動戦士ガンダム 哀・戦士』のクライマックスは

どちらも松山さんが作・編曲した音楽によって飾られているのです!

 

サントラの曲名で言えば

一作目が「ギレン・ザビ」で

二作目が「戦場に哀惜を」と「やすらぎ求めて」。

 

とくに「ギレン・ザビ」と「やすらぎ求めて」には

曲の構造においても共通するものがあります。

 

打楽器と金管楽器によって

緊張感や重々しさを出しながら

コーラスによって崇高さを感じさせる精神性をつけ加える。

これです。

 

ちなみに弦楽器

両者をつなぐ役割を果たしているように感じられますが、

この構造が

戦場の修羅を描きつつ

若者たちが新たな精神的進化を遂げるさまを追った

「ガンダム」のドラマの構造と、ぴったりマッチしているのにご注目。

 

松山さんは東洋哲学に深い関心を抱いていたそうですが

そんなお人柄もまた、曲に出ていたものと思われます。

 

「ガンダム」の話ばかりになったものの

じつは松山さん、

映画やテレビの曲に限らず

純音楽作品も多数手がけられています。

音楽家としての全貌や業績が正しく評価されるのは、

むしろこれからでしょう。

 

突然の死を悼みつつ、

あらためて、ご冥福をお祈りいたします。

さようなら、松山祐士さん。

 

私も献花してきました。

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最後にこぼれ話をひとつ。

2014年、

ヘルマンハープという楽器に関連した

ある会食でご一緒したときのことです。

 

ふと、思いついてこう申し上げたんですよ。

「ガンダム」の挿入歌のひとつに

「きらめきのララァ」がありますが

あれをヘルマンハープ向けにアレンジしたら素敵ではないでしょうか?

 

松山さん、こう答えられました。

それは僕も考えたことがある。

しかし、あの曲は展開部のテンポの取り方が難しいんだ。

ヘルマンハープで弾くと、そこが問題になるだろう。

 

しかるにこれを聞いて、ふと思い至ったんですね。

「交響詩ガンダム」には

「きらめきのララァ」をもとにした

「ララァ・ときめき」という曲が収録されていますが

オーケストラ(新日本フィルハーモニー交響楽団)の演奏に、

ずっと気になっていた点があったのです。

 

で、うかがいました。

なるほど!

じつは「ララァ・ときめき」でも

どうも新日本フィルの弦の音が今ひとつそろっていない気がしていたのですが

あれはそういうことだったんですね?

 

松山さん、苦笑されていわく。

あなた、あまり専門的なことを言わないの!

 

今度のトークショーで司会をやってくれる saya さんが

会食に同席していましたので

証人になってくれるでしょう。