優れた論考を読みました。
題して「戦後日本に欠落したもの」。
ハイライトを抜粋してみましょう。
今われわれの前にある現実は、
戦後最大の危機といわれる(。)
外からわが国に注がれる眼の冷徹さは、
政治や外交面の弾圧にとどまらず、
深刻な経済的利害、
国民感情の高まり、
価値観の致命的な亀裂を母体に、
根強い憎しみが存在することを警告している。
敗戦の痛手を受けた日本が、
汲々として復興作業にはげんでいる間は、
たしかに(日本人としての)アイデンティティーをほとんど意識することなく、
「私」の幸福の追求が、そのまま国の発展につながるように思えた。
(中略)
アイデンティティーの枠をいつまでも無視できると即断したところに、
国際社会の一員として生きる資格のない、
日本人特有の甘えがあった。
戦後の世界は新しい国際協調時代を迎え、
有力な国家間の連合を土台にして和平が推進される
と期待する見方もあったが、
ナショナリズムの自己主張は、戦後逆にますます強まりつつあるのが実情である。
(外国における)ナショナリズムの高まりという注目すべき事実に、
目をつぶって戦後の過渡期を空費してきた日本は、
独自の国家観を持たないまま今日に至った。
(中略)
戦後何度か訪れた政治の緊迫局面に対応して、
日本人はその都度賢明な選択をしたと自認する意見もあろうが、
国家観のないところに、国民の主体的な行動などありえない。
平和憲法を作る、
戦犯を裁く、
自衛隊を創る、
安保条約を結ぶ、
日ソ(現ロシア)、日中の和平を促進する。
いずれも国の将来を決定づける重要な政策決定の場面であるが、
この間に一貫した方針を欠くのはもちろん、
それぞれどのような判断に立って政策を決定したかの根拠が、
国民の眼にさえ明らかではないのである。
(カッコは引用者)
表現がやや抽象的なきらいはあるものの、
全体に鋭い分析なのは明らか。
現在のわが国のあり方を
ずばり、えぐっていると言っても過言ではないと思います。
では、ここでクイズです。
「戦後日本に欠落したもの」は
いったい、いつ書かれた論考でしょうか?
正解こちら。
驚くなかれ、1978年です。
ヾ(℃゜)々\(◎o◎)/!!39年前だぞ、39年前!!\(◎o◎)/(゜ロ)ギョェ
筆者は吉田満さん。
1945年4月、予備少尉として戦艦大和に乗り組み、
大和の沖縄特攻、
いわゆる「天一号作戦」に参加した人です。
大和は轟沈しましたが、吉田少尉は生還。
戦後は日本銀行に勤務するかたわら、
有名な『戦艦大和ノ最期』を発表します。
日本銀行でも監事にまでなったのですが、
肝不全により1979年に亡くなりました。
「戦後日本に欠落したもの」は
「季刊中央公論・経営問題」の1978年春季号に発表され、
1980年、遺作となった単行本
『戦中派の死生観』(文藝春秋)に収録されました。
・・・そうです。
現在のわが国をめぐる諸問題は、
約40年前には(ほとんど)出揃っており、
分かる人にはそうと認識されていたのです!
にもかかわらず、今もなお
それらの問題がいっこうに解決されていないのはなぜか?
吉田さんの書いているとおり
戦後日本人がアイデンティティの問題に直面しようとせず
ゆえに独自の国家観を持っていないからですよ!!
ご存じのとおり、私はわが国の戦後史を
えんえんたる堂々めぐりの系譜としてとらえていますが
吉田さんの論考は、それを決定的に裏付けてくれるものと言えるでしょう。
堂々めぐりの詳細についてはこの本をどうぞ。(↓)
実際、
戦後何度か訪れた政治の緊迫局面に対応して、
日本人はその都度賢明な選択をした
という自画自賛を粉砕するくだりなど
「総理は実はしたたかなのだ」
「面従腹背しながら自立の機会をうかがっているのだ」
といった昨今の政権擁護論も吹き飛ばすもの。
国家観のないところに、主体的な行動などありえず
ゆえに賢明な選択をしたという認識自体が妄想なのですよ。
つけくわえるなら吉田さん、
左翼・リベラルにも手加減していません。
いわく。
架空の「無国籍市民」という前提に立って、
どれほど立派な、筋の通った発言をくり返そうとも、
それは地に足のついた、
説得力のある主張とはならないであろう。
平和、
自由、
民主主義、
正義。
そのどれを叫んでも、
言葉が言葉として空転するだけで、
発言は心情的に流れ、現実の裏づけがないのである。
あの戦争を生き抜いた吉田さんは、
保守と左翼・リベラルの双方について、
どちらも不真面目でいい加減だと見抜いていたのです。
だ・か・ら、
『右の売国、左の亡国』と言うのですよ!
ちなみに戦艦大和が沈んだのは
1945年4月7日。
72年前の昨日のことでありました。
ではでは♬(^_^)♬
4 comments
GUY FAWKES says:
4月 9, 2017
渡邉哲也「韓国では米軍があるという前提で、反米が盛んになり親北政権が生まれようとしている。
米軍が無くなるとなった瞬間にこの話って全部ひっくり返るんですが、
同じ様な議論が日本国内でもなされているのだと思うんですね。
米軍と自衛隊があって当たり前、今まで戦争がなかったという前提で全ての物事を考えているので
今の時代に完全についていけてない状況になっている」
http://sp.nicovideo.jp/watch/so30985656
【討論】これでいいのか?日本の政治[桜H29/4/8] 41:30〜
些か楽観視しすぎるきらいがあると言われる渡邉さんですが、
少なくともこの仰ったことと「平松テーゼ©︎」を併せて考えますといよいよ臨界点が迫っている。
結局は戦後レジームの脱却、というか崩壊は外部によって強制的に為されるものになりそうです…
無論、吉田満さんの仰る様に「主体性」が皆無な前提にあっては至極当然の成り行きとしか思えませんが。
SATOKENJI says:
4月 9, 2017
それはつまり、
外部の状況がどうなろうと、本当には脱却できないということでしょう。
ちなみに渡邊さん、1月には「韓国は対米依存を脱却しようとしてドツボになった」という旨を述べていましたよ。
時代についてゆこうとするのも考えものだったりして・・・
GUY FAWKES says:
4月 9, 2017
仰る通りです、先の『愛国のパラドックス』『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』
そして、新著『右の売国、左の亡国』において詳らかに解説された様に、
戦後レジームとは、極端な話として明治維新以降、歴史に筋を通さずに主体性を足蹴にし続け、
朧げな「虚像」のままでいた近現代日本に落としている常に身に纏う「影」として表裏一体と考えます。
(実体とされるのが「虚像」なのに「影」を落としている、というのが始末に負えない)
>ちなみに渡邊さん、1月には「韓国は対米依存を脱却しようとしてドツボになった」という旨を述べていましたよ。時代についてゆこうとするのも考えものだったりして・・・
渡邉さんの直後に西村幸祐さんも「韓国を笑えない」と漏らしていました。
以前、引用された戦前に「内鮮一体」というスローガンがかつてありましたが、
先日のシリア攻撃や朝鮮半島近辺における米軍空母を鑑みるに日本人は何人たりとも前・朴大統領をコケにし、
対岸の火事で済ますなんて、保守主義・独立自尊の国家理念として決してやってはいけない筈です。
「外圧がなければ日本は変わらない、なんて保守系で言えば独立国家としてみっともないことを、
左翼系で言えば民主主義国家としてみっともないことを言うのはやめてもらいたいですよいい加減に」
ー中野剛志
玉田泰 says:
4月 23, 2017
「国際社会の一員として生きる資格のない、日本人特有の甘えがあった」
仰る通りです。でも資格のないものの一人としてこうも思うのですよ。
「日本はもう一度、鎖国すべきじゃないか?」って。