昨日の記事
「ニュースを見たらウソと思え!」の続きです。
昨今の世界では
いわゆる偽ニュースがかなり横行している。
さらにウソでなくとも
どのようなニュースを取り上げるかという選択基準に疑問の感じられるもの
とか
ニュースとしての取り上げ方、つまり報道姿勢に疑問の感じられるもの
となると
これはもう枚挙に暇がない。
だとしても
あらゆるニュースについて、いちいち裏を取る
のは現実的に無理。
ならば、どうするか?
昨日はとりあえず
いかなるニュースも、どこかフィクションであると見なす
ところから始めることを提起しましたが、
ここで重要なヒントを与えてくれるのが
畏友・中野剛志さんが
『富国と強兵』の冒頭に記した文章。
数学者が一連の定理を発見してゆく過程について述べているのですが、
こんなことが書かれています。
彼はまず、無限の大海原に浮かぶ孤島にたどり着いたかのようにして、
最初の定理を発見する。
次に、その孤島とは無関係に見える第二、第三の孤島が見つかっていく。
そのうち(中略)
孤島と見えたそれらの島々が、
実は一つの巨大な海底山脈の頂上であったことが分かる。
(表記を一部変更)
とはいえ、こんなことがなぜ可能なのか?
じつは、その数学者は、
初めから、
暗黙のうちに海底山脈、
すなわち理論体系の存在を直観していたのである。
彼は、その直観に導かれて、
定理を一つひとつ発見していき、
最終的に理論体系へとたどり着くことに成功するのである。
で、社会科学者も同じような経験をするという話になるのですが
ここで注目されるのは
直観に導かれるという表現が示すとおり
数学者であれ社会科学者であれ
出発点は必ずしも事実ではなかったこと。
私なりに言い替えるとこうなります。
すぐれた学者はまずもって
想像力によって理論体系、
ないし世界観の原型となるものを構築する。
このような〈想像力に基づく理論体系、ないし世界観の原型〉を
とりあえずビジョンと呼びましょう。
まさに「直観」。
学者はおのれのビジョンを羅針盤として事実を検証、
修正したり磨きあげたりしつつ
説得力を持った理論体系や世界観を構築する。
要するに
世界を正しく理解する真の出発点は、
事実にあらず想像力なのです。
実際、
世の中にはさまざまな事実が
相反するものまで含めて存在しますから
想像力が不足していたり
歪んでいたりする状態で
事実にばかりこだわると、
細部は正確かも知れないが、全体としてはメチャクチャな理論体系や世界観
が出来上がらないとも限らない。
お分かりと思いますが、いわゆる陰謀論のほとんどはこれです。
「敵への心理的依存と思考停止に関する平松テーゼⒸ」をめぐって紹介した
フランスの映画監督ジャン=リュック・ゴダールなど、
ずばり、こう喝破しました。
想像力を欠く者は現実(リアリティ)に逃げ込む!!
要するに
しっかりしたビジョンを持ち合わせていないことを
オタク的な細部へのこだわりによって
隠そうとするわけです。
裏を返せば
細部は正確かも知れないが、全体としてはメチャクチャな理論体系や世界観
ならぬ
細部に不正確な点があっても、全体としては整合性を持った理論体系や世界観
を持っていれば
偽ニュースにだまされるリスクを抑え込めるはず。
もっと言えば
よしんば偽ニュースをそうと見抜けなくとも
それによって判断に狂いが生じるリスクを抑え込めるはずでしょう。
偽ニュースに惑わされない方法、
それは強靱な想像力に裏打ちされたビジョンを持つことなのです!
ちなみにここで重要なのは
自分のビジョンに照らして、いかんせんおかしい内容の情報
だけでなく
自分のビジョンに照らして、あまりにもうまく合致する内容の情報も
疑ってかかること。
人間はビジョンなしには現実世界を認識できませんが
現実世界の側は、人間のビジョンに合わせる義理など持っていません。
すなわち
自分のビジョンに照らして、あまりにもうまく合致する内容の情報については
どこかで歪みが生じている可能性を考慮すべきなのです。
しかるに昨今は、
保守であれ、左翼・リベラルであれ
自分のビジョンに照らして、うまく合致する情報にばかり飛びつき、
それを根拠に相手を罵倒してばかりいる感が強い。
まさに
想像力を欠く者は現実(=些末な事実)に逃げ込む
というゴダールの言葉通りですが
このような人々をいかなる末路が待ち受けているかは
「敵への心理的依存と思考停止に関する平松テーゼⒸ」に照らして
一目瞭然でありましょう。
だ・か・ら
『右の売国、左の亡国』と言うのですよ!
ではでは♬(^_^)♬
6 comments
Daniel says:
4月 3, 2017
(^^♪待ってました!
佐藤先生は恐らく先生の語感として、中野先生が「直観」と仰ってるところを「直感」としてらっしゃいますが、先生が仮置きしている、ビジョンって言葉、いいですね。名作映画「バックトゥーザフューチャー」のドクターエメットブラウンが、次元転移装置をひらめいた際の説明で、「a VISION! a picture in my head!」とマーティーに叫んでいる台詞が即座に思い浮びました。
>強靱な想像力に裏打ちされたビジョンを持つこと
これに凄く憧れます。でもこれって、本当に志操の堅固さを試されると思うのです。
樺太にこだわりますが、昔から何か気になって仕方なかった。あれはサハリンだっていう妙に強い北風にじっと俯いて耐えてきましたが、ごく最近のある時、樺太が、日本列島の一部を構成するんだと知って、一気に「ビジョン」が氷解していきました。氷の解けた地平に立ち現れたのは、地理軸と時間軸の中に浮かび上がる「海底山脈」たる「日本の樺太」でした。
吹き続けた「妙に強い北風」は、フェイクニュースだったのです。
知っている人は皆知ってるんでしょうが、それでも私は、「ユリイカ!!」って言いたいですよ。
でもここまで来るのに30年以上かかりました。
うーん、それにしても先生の触媒的お話は、とても魅力的です。
続きがあるんでしょうか?
SATOKENJI says:
4月 3, 2017
「直感」はたんなる入力ミスです(汗)
訂正しておきました。
Daniel says:
4月 3, 2017
何だ、そうでしたか(笑)
しかし、直された後の文章も、とても素適と思います。
いやあ、私は何だかとても嬉しいのですよ。
藤井聡先生ではありませんが、兼好法師がいうように、「世に語り伝ふる事、まことはあいなきにや、多くは皆そらごとなり。」ですね。徒然草は、この後に続いていく節が更に圧巻なのですが、中高生の時に読んでいたこの節、当時はまだ真の意味が全く分らなかったです。
長じて読むと、良く分るのですが(笑)
ホワホ says:
4月 3, 2017
ひも理論みたいにならないように気をつけないといけませんが
まぁ気をつけた結果がひも理論なんで無理ですねw
せい says:
4月 7, 2017
真面目に世の中の出来事を考えて、想像力で論理性を保とうとすると、見えてくるものがあまりにも辛すぎて、鬱になるかもしれないので、若者には先人の知恵や先生方の著作を知る為にも、まずは読書を勧めたいところです。
玉田泰 says:
4月 23, 2017
「強靭な想像力に裏打ちされたビジョンを持つこと」
全くその通りですね。
一方、現代社会においては、自分(達)の妄想に合わせて現実は動くべき、
と考えている人々が増えているように思います。