8月6日の記事
「前衛の宿命、それは自己絶対化である」では
いわゆる「前衛」の特徴について考察しました。
ここでいう「前衛」の定義はこうです。
いかなるイデオロギーを信奉するかとは関係なく、
自分たちこそは社会変革を率先して担う存在であるという観念、
ないし妄想に取り憑かれた人々。
で、考察の結論は以下のとおり。
1)前衛は必然的に権威主義的・全体主義的傾向を帯びる。
2)そのせいもあって、前衛は宿命的に自己絶対化をきたす。
3)自己絶対化の内容は、以下の三点に要約される。
a)自分たちのめざす変革の正しさは、世の人々も認めている。
b)よって自分たちは、世の人々から(少なくとも潜在的に)支持されている。
c)ゆえに世の中は、遅かれ早かれ自分たちのめざす方向に進む。
そのときは自分たちこそ、栄誉や尊敬を得て、オイシイ思いができるはずである。
4)ところが上記の三点は、客観的に見れば(ほとんどの場合)妄想にすぎない。
つまり前衛とは
自分たちの権威を認めてもらえない権威主義者(たち)であり、
社会の片隅にしか影響を及ぼせない全体主義者(たち)なのであります。
ふつうに考えれば、
これは残念な状況であり、
ストレスがたまること請け合い。
しかし前衛は、
ここで驚くべきウルトラCを披露します。
自分たちの権威が認められないことこそ
最後には自分たちの権威が認められる証拠であり、
社会の片隅にしか影響を及ぼせないことこそ
最後には自分たちが社会全体を変えられる証拠である、
そう構えるのですよ!!
このような認知的不協和丸出しの発想が、
どうやって成り立つのか、
構造は以下の通り。
前衛の頭の中では
社会は「より良い状態をめざして行進を続ける巨大な軍隊」
のごとくイメージされます。
で、本隊(=一般民衆)の前方にあって
変革の道を切り開いているのが
ほかならぬ自分たちだという次第。
言い替えれば前衛は、
一般民衆よりもずっと進んだ(=優れた)存在になります。
しかるにお立ち会い。
ならば「本隊」たる一般民衆は
前衛の主張や行動について
しばしば理解できなくて当然ではないか?!
そうです。
こう考えるとき、
自分たちの権威が認めてもらえないことや
社会の片隅にしか影響を及ぼせないことは
前衛たる自分たちが
一般民衆のはるか先を進んでいることの
動かぬ証拠となるのです!!
むろんこのすべては、
自己正当化のための詭弁にすぎないのですが
物事が(現在)うまく行っていないことを
物事が(将来)うまく行くことの根拠にできるのですから
便利と言えば、じつに便利。
これにしたがえば
失敗すればするほど成功は保証される
ことになるんですからね。
かくして前衛は
雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ、
旧体制ノ反動ニモ負ケズとばかり、
辛抱強く、ないし意固地になって頑張るわけですが、
ここに恐怖の落とし穴が待っている。
何らかの理由によって
物事がうまく行きはじめたら(または、少なくともそう見えたら)どうするか?
そりゃ、最初は躍り上がるでしょう。
ついにわれわれの時代が来た!
長年の苦労が報われた!!
残りの人生、オイシイ思いが待っているぞ!!!
・・・てなもんです。
ところがどっこい。
物事が(現在)うまく行っていないことこそ
物事が(将来)うまく行くことの根拠だったのですから
物事がうまく行きはじめたのであれば
物事が将来うまく行く根拠が失われたことになる。
しかも。
物事がうまく行っているからには
一般民衆も前衛のレベルに追いついたに違いない。
裏を返せば
自分たちは一般民衆よりも優れていると信じる根拠も失われます。
・・・すなわち。
前衛の自己絶対化は
物事がうまく行きはじめたときにこそ
崩壊の危機に瀕するのですよ!!
この危機を乗り越える方法は一つ。
一般民衆がついてこれないぐらいに
主張をどんどん急進化、
ないし過激化させるしかありません。
けれどもこれをやりだすと、
物事は当然、うまく行かなくなる。
つまり前衛の自己絶対化は
崩壊の危機を乗り越えようとしたことで
ふたたび崩壊の危機に瀕するのです!!!
これは要するに
物事がうまく行ってもダメ、
物事がうまく行かなくてもダメ
ということですから
もはや対処法は一つしかない。
八つ当たりです。
うまく行きかけた物事をダメにしようと画策する敵勢力
の存在を想定し、
「敵の謀略を許すな!!」
と炎上するのですよ。
(↓)というわけで、こちらをどうぞ。
だとしても、八つ当たりはしょせん八つ当たり。
この炎上にのめり込んでゆくと
みずからの自己絶対化ぶり、
あるいは妄想崛起ぶりが
いよいよ際立ってしまいます。
つまりは物事がますますうまく行かなくなるのですが、
ここで前衛は最後の切り札を持ち出す。
「うまく行きかけた物事をダメにしようとする敵勢力」を
身内に見出そうとするのです。
要するに内ゲバを始めるのですが、
この帰結が自滅にほかならないことは言うまでもないでしょう。
前衛が滅びる決定的要因、
それは「反動」の謀略などではなく、
みずからが抱える認知的不協和と欺瞞なのです。
さて。
ご存じのとおり、かのフランス革命は
このような自滅プロセスの見本のごときものでした。
ただし2012年末、
第二次安倍内閣が成立してからの保守派の動向にも
これと多々重なる点が見られるのは明らかではないでしょうか?
だ・か・ら、
『右の売国、左の亡国』と言うのですよ!
というわけで
わが国の「保守前衛」の間では
今後、内ゲバがいっそう激化すると思われます。
たとえ一時的にであれ、
物事がうまく行く(ように見える)とは
かくも恐ろしいものなのですよ!
ではでは♬(^_^)♬
9 comments
Daniel says:
8月 12, 2017
>というわけで
>わが国の「保守前衛」の間では
>今後、内ゲバがいっそう激化すると思われます。
ごくり…(;’∀’)
先生、相変らず恐ろしいですね。。
であれば、その現実を注視すべし。よくよく見て、今後の指針と致します。
・一応、安倍内閣の支持率揺り戻し回復について
後出しジャンケンとは厳に違いますが、安倍内閣ならば、支持率の揺戻しもあろうかとは、実は当初からの想定ではありました。別にここで発言しませんでしたが。結構、安倍総理は、悪運も強いのです。
まぁでも所詮、私を筆頭に庶民は、俎板の上の鯉ですからね。
GUY FAWKES says:
8月 12, 2017
西部先生を筆頭とする表現者グループの方々が再三仰っておられている通り、明治維新以降の所謂「保守」とは
所詮モダニズム(近代主義)、ないしは資本主義を経路として担保しており、
そして私自身もそうですがそれを自覚できていないが為(もしくは、できていないからこそ)への依存性から
決して逃れられないのだと考えております。
だからこそ、「物事がうまく行く(と根拠もなく思い込む)こと」即ち、前衛から抜け出せない。
そんなもんだから対米従属の様な政治的次元のみにかかわらず、巷で聞かれる様な安易な(西洋に限らず)海外礼賛と
返す刀の様な日本礼賛の自慰をテレビ番組やら書籍、ネット界隈やらで延々と繰り返すしかない。
いやー、主体性がない上に悪運が強い安倍総理って本当にお気楽なもんです(白目)
せい says:
8月 12, 2017
ためになるお話、有難うございました。
この感覚は、ネットとマスコミでの情報格差に直面した時に、感じてしまうのですが、これが前衛気分というものなのですね。
恥ずかしいので、戒めようと思いました。
豆腐メンタル says:
8月 12, 2017
>物事が(現在)うまく行っていないことを
>物事が(将来)うまく行くことの根拠にできる
>失敗すればするほど成功は保証される
前回と合わせ大変面白く拝見しました。ありがとうございました。
的外れかもしれませんが、財務省の論理を連想しました。そういえば、財務省はグローバリズムの前衛と呼べるかもしれない。
しかし彼らは炎上してはいないように見えます。それは、彼らが前衛ではなく権威だからという一点によるのでしょうか。。それとも内ゲバはこれから始まり得るのでしょうか。
Daniel says:
8月 13, 2017
私の観察するところ、財務省は、グローバリズムには関心がありません。彼らが関心を持っているのは、飽くまも緊縮財政と、増税です。そのために利用できるものなら、グローバリズムでもマネタリズムでも何でも、奴らは使います。
日本国のことも、彼らはどーでもいいのです。国民など、そのために徹底して苛められればそれでいいのです。悪代官って、今の世には流行りませんが、財務官僚こそ、正にそれです。
だから、財務省は、内ゲバも起りません。路線対立がそもそもないのですから。全身全霊が、ムスカなのです。未だに、消費税30%を夢想する連中ですよ。彼らにとって、政治など、そのための道具です。
財務省ってね、上空から250㎏爆弾を落されても耐えられるように建造されてるんですよ。だから、それ以上に威力のある、例えば北朝鮮のミサイルなどが落ちれば、本当に素晴しいと思います。
防衛省も、馬鹿ではないのですから、着弾が財務省ならば、「迎撃失敗」とか言って、自由落下で、数発あそこに打ち込ませればいいと思うのです。
Daniel says:
8月 13, 2017
かつて文禄・慶長の役の時、秀吉隷下の日本軍が朝鮮半島に進軍した時、朝鮮人民は、先を争って、朝鮮王朝の戸籍保管庫を襲撃して焼き払ったそうです。
今はその逆バージョンですが、日本国民は、そのくらいやってもいい。一切の情けは、無用です。恐らくは国税庁にあるであろう、国民統制用の電子データ、全部破却すべきです。
Danielは、危険思想の持主だと知って、皆さん、引きましたか?
豆腐メンタル says:
8月 18, 2017
Danielさん。
私の連想にお付き合いいただきありがとうございます。
まずは私の考えや知識があなたに及ばないことを前置きとさせてください。決して謙遜ではありません。また考えの中で収まっているならば、あなたの危険思想wを過激だとも思いません。ですので批判する意図もありません。
話は飛ぶようですが「よい大人とは何か」という問いをボンヤリと考えています。ありがたいことに佐藤先生には「よい大人は炎上などしない」と教えていただきました。笑
そして今私は「大人であるなら建設的でありたい」と思っています。
ダメ組織の財務省は消えて無くなれという気持ちは共感できます。
無力感からくるニヒルな意見も理解します。
でもまぁ少しはよい大人でありたいので。。または誰かの役に立ちたいからでしょうか、理性が働きます。
私の能力では「組織改革」とかの抽象論止まりですが。
しかし、たとえ抽象論であろうと方向性での合意はできます。
少なくともこのままではありえない。
また何より、いつかこの責任をとってもらいます。
先ほども書きましたが、よい大人は炎上なんかしない。
何しろ炎上したら最後”よい合意”が遠のきます。
よい合意とは建設的な意見の結果だと定義させてください。
そういう合意を望むのであれば。。
遠回りでも建設的ということから足を踏み外さない我慢や知恵や教養が必要。
しかし今は3つのどれかが足りず孤立し方向の見えない大人があふれています。
それか、寄らば大樹の陰。損得で判断する大人。
佐藤先生の視点は拠り所のない”いい大人”の灯台となり得ます。
だから読んでしまうんですよね。
兎にも角にもコメント欄汚しをお許しください。
皆さま良いお盆を過ごされましたか〜?(今更)
Daniel says:
8月 23, 2017
豆腐メンタルさん、とっても、ありがとうございます。
poti says:
8月 13, 2017
仮面ライダーは、ショッカーを倒したら忘れ去られないといけないんですよね。
ゲルだのネオだのついたショッカーを期待したらいけない。