8月6日の記事
「支持率回復と倒閣運動、または前衛の意味」では
DANIEL さんの質問に答えて
「前衛」という言葉の意味を解説しました。
人間社会のあり方を
より良い状態をめざして行進を続ける巨大な軍隊のごとくイメージしたうえで
自分(たち)こそは
本隊の前方にあって進路上の障害を排除し、
また、捜索をして本隊戦闘の初動を有利にするなどの
任務を帯びる部隊(に該当する存在)だ
と信じるにいたった人々、
それが前衛であります。
つまりは
社会変革を率先して担うか、
そのような妄想に取り憑かれた人々。
ところがですな。
こういう信念、
または妄想を抱くと
いろいろ厄介なことが起こります。
人間社会はより良い状態をめざして行進を続けている
という発想こそ
「前衛」を成立させるうえで必要不可欠なもの。
この行進のことを
ふつう「進歩」と申します。
裏を返せば「進歩」とは
1)持続的・系統的な方向性を持った変化であり、
2)当の方向性が「より良い状態」をめざしているもの
と定義できるでしょう。
しかるにお立ち会い。
人間社会はたえず変化こそしていますが、
当の変化が「進歩」であるとは
決して言い切れないのが世の現実。
第一に社会の変化が、
持続的・系統的な方向性を持っているとは限りません。
第二に持続的・系統的な方向性が見られたとしても、
それが「より良い状態」をめざしたものとも限りません。
だいたいですな、
人間社会が到達すべき「より良い状態」とは何かについて
普遍的な統一見解は存在するのでしょうか?
なるほど
平和、自由、民主主義、平等、豊かさ
といった価値は
かなりの普遍性を獲得していると見なしても良いでしょう。
だとしても
それらの価値を実現するためにはどのような社会システムが望ましいかについて
普遍的な統一見解が存在するとは信じがたい。
そのような統一見解が存在しないからこそ、
かつては自由主義と社会主義が対立し、
近年はグローバリズムとナショナリズムが対立しているのであります。
とはいえ 、上記の点を認めてしまったら
「前衛」の基盤は崩壊してしまう。
ゆえに前衛は、
ウソであろうが何であろうが
以下の諸点を信じ込まなければ、やっていられないのです。
1)自分たち前衛がめざしている社会のあり方が望ましいことについては、誰もが賛成するはずである。
その意味で、どのような社会のあり方が望ましいかについては、普遍的な統一見解が存在する。
2)ゆえに世の人々は、少なくとも潜在的には、そろって自分たち前衛を応援しているはずである。
3)そして世の中は、遅かれ早かれ、自分たちがめざしている方向へと進むはずである。
当然ながら、自分たち前衛はその際、先駆者としての栄誉と尊敬を得るであろう。
要するに前衛は
必然的に自己絶対化をきたすのですよ!!
ご存じのとおり、
自己絶対化とはなかなかに気持ちの良いものであります。
よって前衛になるのも、そのかぎりでは気持ち良いに違いない。
・・・しかしこんなものは、
早い話が妄想崛起にすぎません。
1)世の人々(の大多数。以下同じ)は、前衛と称する人々のめざす社会のあり方が望ましいと思っていない。
2)ゆえに世の人々は、潜在的にであろうがなかろうが、前衛を応援してなどいない。
3)よって世の中は、ほとんどの場合、前衛のめざしている方向には進まない。
言い替えれば、前衛が先駆者としての栄誉や尊敬を得る日も来ない。
これが世の偽らざる真実であります。
真実を突きつけられたとき、前衛はどうするでしょう?
藤井聡さん流に整理すれば、反応のパターンはこうなります。
1)上記な真実がそもそも存在しないことにする。
2)上記の真実を指摘したがるヤツは「反動」であり、
それを真に受けるヤツは「バカ」ということにする。
3)上記の真実は(渋々)認めるが、「より本質的な真実」(※)を別に持ち出すことで、
上記の真実の重要性を否定する。
(※)代表例は「歴史の必然」でしょう。
そうです。
つまりは炎上によって、みずからの認知的不協和をごまかすのです!!
しかるにお立ち会い。
これは6月〜7月の内閣支持率急落期に見られた
保守派の反応そのものではありませんか。
そうです。
今や保守派の中にも
しっかり前衛意識が根付いているのです。
具体的に言えば・・・
自分たちのめざす日本のあり方が望ましいことを、
一般国民も本当は認めているはずだ。
だから国民も、少なくとも潜在的には自分たちを応援しているはずだ。
だから日本は、遅かれ早かれ、自分たちのめざす方向に進むはずであり、
そのときには自分たちがオイシイ思いをできるはずだ。
とまあ、そんな次第。
しかし、そんな保証がどこにある??
どこにもありはしないのです。
だから支持率急落という形で
現実を突きつけられると
炎上してゴマカシを計るしかなかった。
いやはや、まったく絶望が足りない。
だ・か・ら、
『右の売国、左の亡国』と言うのですよ!
つけくわえれば人間社会のあり方を
より良い状態をめざして行進を続ける巨大な軍隊のごとくイメージしている点で
前衛は本質的に
権威主義的・全体主義的傾向を持っています。
軍隊は上からの命令で動く組織ですからね。
だが残念なことに
ほとんどの場合、
世の人々は前衛の主張通りに動いてなどくれません。
前衛が(まかり間違って)権力を握り、
人々を強制的に動かすというのなら別ですがね。
ただしその場合、獲得した権力を維持することが前衛の最大関心事になるので
あっという間に態度が保守化、
一転して後衛と化すのが普通であります。
つまり前衛とは
権威を認めてもらえない権威主義者(たち)であり
社会全体に影響を及ぼせない全体主義者(たち)である、
そう言っても過言ではないでしょう。
権威が認められたり、
社会全体に影響を及ぼせるようになったら最後、
もはや前衛でなくなっているのですから。
ところがですな。
この残念な状態に居心地の良さを見出すのが
前衛の驚くべき特徴なのですよ!
どうやって、そんなことが可能なのか??
長くなったので、これについてはまた今度。
ではでは♬(^_^)♬
(↓)自己絶対化に陥った前衛が、まかり間違って権力を握ると、こういう惨事が起こります。
8 comments
GUY FAWKES says:
8月 8, 2017
http://www.mag2.com/p/news/258746?l=kuy1224e99
日本の親が気づけない「子供をバイリンガルに育てたい」の危険性
当該記事、ないしは御ブログの主旨と一致するかどうか弱卒の私にはわかりかねますが、
三橋さんのメルマガ発行元であるまぐまぐより興味深い記事を見つけました。
佐藤先生ほどの知性ならなにか掴み取っていただけるかもしれませんので、取り急ぎご紹介します。
「バイリンガル環境で子どもにふたつの言語を完全に習得させようとするのは、
ふたつの文化をまるごと理解させようとすることだ。」
momo says:
8月 8, 2017
自己絶対化する保守派といえば私的には森友学園問題。
国民を欺き私利私欲を追求した保守派の見苦しい言い訳と、思想を同じくした仲間をいとも簡単に裏切ったあの事件。
今年一番笑いました。想像をはるかに超えたろくでもない連中なんだと。彼らには人間のクズという言葉がぴったりだと思いました。
彼らは本気で何かを信じているという事はなく、ただ利益追求の為に保守派という道具を使っているだけでしょう。それが金なのか権力なのかの違いなだけで。籠池氏のようなソフトな保守派は金で、チャンネル桜みたいなコアな保守派は権力ですね。
全く左翼と同質同等です。平等平和を愛する学生団体で権力振りかざしてリンチするようなもんです。金が目的のパターンでは、学生から金を集めて豪遊していた団体の幹部なんてのもいそうですね。左翼も保守も、結局は思想を私利私欲を満たす為の道具にしか使えない連中でしかない。
Daniel says:
8月 9, 2017
今回は、また一際、圧巻ですね。。
こういう思想というか、道理というかが、もっと自分の若い時から得られれば良かったのに、と、嘆息せざるを得ません。
私は昔から、権威主義・全体主義が嫌いでした。しかし、そういう世間の思潮を跳ね返す力量も、遠避けたりする二枚腰をも持ち得ず、苦悩し続け、今漸く「逆張り」のスタイルを若干ながら手に入れたわけですが、思想は、もっともっと奥が深いです。
自分本来の保守のスタイルに、どうしようもなく消化不能な異物が混じっているのに気付いたのは、20年ほど前に遡りますが、どうもその一つの回答は、この「前衛」にこそありそうです。中野剛志先生の政治思想の新マトリックスは、実に即妙の補助線でしたが、その奥に、まだまだありそうです。
あぁ、自分の少年期に「日本国憲法の未来が!」とか言って、目のイッちゃってた大人達と、「安倍内閣の倒閣は許さない!」とか言っちゃってる謎のオジさん達が、本質で共通しているとは!!
驚き、桃の木、山椒の木、です。
昔:日本国憲法にも良いところがあるのは分りましたが、目隠しして、手足をふん縛れば、平和が訪れるというのは噴飯物でしたし、
今:野党や反体制のメディアは、倒閣がそもそものお仕事でしょうし、何を言っているのか、サッパリ分らない。
豆腐メンタル says:
8月 9, 2017
ウェブアドレスの方の表題は次回のかな。。わくわく
SATOKENJI says:
8月 9, 2017
「前衛の宿命、それは御都合主義である」は今回の初期題名だったのです。
次回の題名がどうなるかは目下、未定です。
混乱を避けるため、「自己絶対化」で統一しておきました。
まあ自己絶対化と御都合主義は、コインの裏表のようなものですので・・・
Daniel says:
8月 10, 2017
安倍内閣が倒れてしまったら、保守の望みが絶たれるというのなら、そんな弱っちい保守だったら、いっそ本当に倒れてしまった方がよいのでは。
太鼓持ちじゃあるまいし、贔屓の引倒しで、将棋倒しに巻き込まれるのは、本当に御免です。
今年の流行語大賞は、「忖度」で決りかなぁ。
SATOKENJI says:
8月 11, 2017
>安倍内閣が倒れてしまったら、保守の望みが絶たれる
それで騒いでいるのだとしたら、まさに絶望が足りないと言えるでしょう。
玉田泰 says:
8月 17, 2017
進歩は今、世界共通の普遍的概念ですね。
進歩を志向しなかった文明は、進化?
した文明にほぼ、様々な意味で消化されました。
結果、暴力を原動力に変遷した文明が、生き残ったのではないでしょうか。
日本が今後、生き残る道は?
前衛に象徴される進歩主義は、想像以上に罪深いのかもしれませんね。