身の守りを固めたところで本題に戻ります。
「日本経済の悪魔を倒す」発言、
どう考えたって、経済学よりホラー映画のノリなのですが、
問題は、ホラー映画のノリとしてもセンスが古すぎること。
かつてホラー映画には、神や悪魔がよく登場しました。
1950年代末から1970年代はじめにかけて、
イギリスの「ハマー・フィルム」という会社がホラー映画を量産、
世界的に人気を博しますが、
ハマー・フィルムのつくったホラー映画のほとんどは、このような宗教的図式に基づいています。
つまりは絶対的な悪にたいして、
絶対的な善が立ち向かい、
最後には勝利を収める、というパターン。
しかし1960年代末ぐらいから、この図式は崩れ始める。
突破口となったのは、1968年に発表された
「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(ジョージ・A・ロメロ監督)
という作品でしょう。
題名の意味は「生ける死者たちの夜」。
いわゆる「現代的なゾンビ映画」のさきがけとなった作品です。
この作品で重要だったのは、
宗教的な善悪の概念が完全に排除されたこと。
ゾンビ映画自体は、「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」以前からありました。
ハマー・フィルムも「プレイグ・オブ・ザ・ゾンビーズ」(邦題は「吸血ゾンビ」)なんて作品をつくっています。
けれどもそれらの作品におけるゾンビは、ハイチに伝わる「ヴードゥー教」の枠組みに沿った存在。
つまりは「呪術によって甦らされた死人」であり、まだ宗教色を持っていました。
「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」が画期的だったのは、
ゾンビを「現代社会の必然的な産物」として位置づけたこと。
だから、ゾンビを倒せば万事解決とはならない。
人間社会あるかぎり、ゾンビは滅びないのです。
絶対的な善など、世界には存在しない!
裏を返せば、絶対的な悪、つまり悪魔も存在しない!
世界の悪は人間が作り出すものであり、ゆえに根絶不能である!
このような世界観に裏打ちされた「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」は、
低予算のモノクロ映画ながら大ヒット、
ホラー映画の流れを変えます。
その結果、ホラー映画はどうなったか?
これは明日のブログで触れますが、
私の著書「夢見られた近代」でも取り上げています。
同書は現在、NTT出版から出ていますが、
来月、VNCから「リミックス増補版」が出る予定。
これは新たに3本の評論を追加、全体の流れを構成しなおしたうえ、
NTT版より本体価格が1000円以上も安くなる!!
いえ、ちゃんとしたハードカバーの単行本ですよ。
もちろん、両方のバージョンを読み比べていただくのがベストですけどね(笑)。
ではまた♬(^_^)♬